梅田芸術劇場 x チャリングクロス劇場 日英共同プロジェクト 英国と日本でミュージカル「VIOLET」を演出 藤田俊太郎
一人の演出家に一つの作品、そして二通りのキャスト。ロンドンのチャリングクロス劇場で上演中のミュージカル「VIOLET」は、実にユニークなアイデアから生み出された。日本人演出家を起用し、ロンドンでは英国キャスト、日本では日本キャストを配して同じ作品を上演するこのプロジェクトで演出を務めるのは、日本ミュージカル界の新鋭、藤田俊太郎さん。ロンドンで英国キャストとともに稽古に励む藤田さんに話を聞いた。(インタビュー・文: 村上祥子)
日本で海外の、または海外で日本のミュージカルや芝居が上演されるケースはみられますが、今回は同じ作品を英国と日本、それぞれ別のキャストで上演するという非常に珍しいプロジェクトになりますね。
この企画は、梅田芸術劇場のプロデューサーである村田裕子さんが、ロンドンで上演されていたトム(・サザーランド)演出の「タイタニック」を観て感動されたことがきっかけでスタートしたものです。日本でも上演したいと考えた村田さんはトムに直接メールを送り、2015年にはトム演出で日本人キャストによる「タイタニック」が上演されました。その後、梅田芸術劇場とトムが組んだ「グランドホテル」(2016年)と「パジャマゲーム」(2017年)の2作が日本で上演されましたが、前者を演出中にトムがチャリングクロス劇場の芸術監督に決まったのです。次の段階として日本人が手掛けた作品を同劇場で上演したいということになり、梅田芸術劇場側と同劇場のプロデューサー、スティーヴン・レヴィさんが話し合って実現に至りました。
英国キャスト版の主役は、ロンドンで好評を博した「ファン・ホーム」に主演したカイザ・ハマーランドさん。選考はどのように行われたのですか。
トムとスティーヴンが英国でオーディションを行って候補者を絞り、その映像を皆で観て決めました。カイザは圧倒的な表現力で、映像を観た瞬間に「この方がヴァイオレットをやるのだな」と分かりました。俳優としての「傷」をちゃんと持っていて、それをきちんと表現できる、陰と陽を併せ持った良い女優さんですね。
現在(昨年12月末)はリハーサル中とのことですが、日英の進め方の違いに戸惑われることもあるのでは?
稽古はとても順調です。俳優たち一人ひとりの作品や役柄に対するアプローチは明快ですし、枠組みをしっかり伝えれば、自発的に動き、こちらを楽しませてくれます。通訳の方が入ることで、通常よりもかなり稽古の進行に時間がかかっていると思うのですが、明確な核やビジョンを持つ演出家ならば皆も待ってくれるし、心を開いてくれる。人種も言語も関係ない。フェアですよね。
舞台は人種差別を禁じる公民権法が制定された1964年の米国。英国も日本も当事者ではない題材を扱うことに難しさは感じますか。
僕は(昨年)2月に米南部に行ってきたのですが、人種差別という概念が根本にある、その感覚は特に日本では実感しづらい面もあるかと思います。1960年代の米国や、物語の背景にある公民権運動の空気感などを伝えるために、色々な仕掛けが必要だなと感じました。
客席が舞台を挟み込む形になるようですね。
対面式で盆(回り舞台)を使う形にしてもらいました。実際にバスで旅をするかのように、あらゆる方向へ進める形にすることに必然性を感じたのです。ヴァイオレットはバスに乗って旅をしますが、この「バス」がメタファーですよね。ここではないどこかへ行くということ、もしくは帰るということ。右に進むのか左に進むのか、前に進んでいるのか、戻っているのか。また、公民権運動のきっかけの一つであるバス・ボイコットもあります。今の時代と1960年代を地続きにし、観客の皆様がパッセンジャーとなるバスという存在が、この作品を取り上げるべきだと直感した一つの大きな理由です。
この作品は、人種問題に外見や父娘の関係、宗教的な要素も絡んできます。藤田さんにとっての肝とは?
不慮の事故によって顔に傷を負ったヴァイオレットが宣教師に会うために旅に出るわけですが、そこで黒人のフリックと出会います。彼は全人生を懸けて闘っている、闘わざるを得ない人。本当に闘っている人と出会った時に彼女の価値観が変わっていくのです。誰しも傷を持っているのではないかというのが、この作品のテーマだと思います。そして自分自身を受け入れられた時に初めて、他者や自分の「美しさ」を受け入れることができるのではないでしょうか。
そう考えると現在の社会にも通じるものがありますね。
稽古場でカンパニーの皆がEU離脱のことを、それぞれが当事者として日々話題にしており、皆の中の社会に対する価値観が変わってきていることを強く感じます。では僕が生活している日本はどうかなのかと顧みます。また米国では現在、1960年代から徐々に積み重ねられてきたものが根こそぎなくなってしまう危険性がある。そしてそれは世界中で見られる傾向でもあります。 特に60年代以降、闘う人たちがいて、新たな価値感が生まれ、それを受け入れた人たちがいた。人はそれぞれ違うのだということがきちんと受け入れられ始めた。そうやって時間をかけて獲得してきた権利がなくなってしまうとするならば、世界は偏った方向に進み始めていると言えるのではないのでしょうか。世界中があらゆる価値観の変革を求めていたという意味で、60年代は人類にとってテーマであり続ける時代だと思いますし、60年代を描いた作品を今、上演する意義を強く感じています。
ミュージカル「VIOLET」
米南部の田舎町に住むヴァイオレットは、過去に父親の持っていた斧が飛んでくるという不慮の事故により顔に傷を負い、人目を避けるように暮らしていた。そんな彼女が、さまざまな怪我を治すという宣教師に会うため、長距離バスで旅に出る決意をする。
2019年4月6日(土)まで
月~土 19:30
(水は14:30、土は15:00もあり)
£17.50~42.50
*ロンドン公演終了後に東京・大阪にて日本キャスト版を上演予定
Charing Cross Theatre
The Arches, Villiers Street
London WC2N 6NL
Tel: 0844 493 0650
Charing Cross/Embankment駅
https://charingcrosstheatre.co.uk
「VIOLET」ロンドン公演
チケット・プレゼント!
ミュージカル「VIOLET」ロンドン公演のチケットを9組18名様にプレゼントいたします。ご希望の方は応募フォームに、希望する上演日時(下記から選択)を含む必要事項をご記入の上、送信ください。
● 3月8日(金)19:30 3組(6名様)
● 3月9日(土)15:00 3組(6名様)
● 3月9日(土)19:30 3組(6名様)
*当選された方々には、弊社からご連絡させていただきます
締め切り
2019年2月28日(木)午後6時
※ 応募を締め切りました。沢山のご応募ありがとうございました。