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Tue, 26 November 2024

現場での苦労、お察しします……NHS現役スタッフの毎日

さまざまなバックグラウンドを持つ人々がいる国際色豊かなNHSの職場環境。そこにはベテランの日本人スタッフの姿もある。日本での看護師経験を経て、NHSイングランドで看護師として働く中山弓子さんに仕事内容や新型コロナの時期など、さまざまなお話を伺った。

中山 (なかやま)弓子 (ゆみこ)さん

日本での看護師経験を経て1997年より在英。英国人と結婚後、看護師であった義母の薦めで英国の看護師に免許を切り替えるため整形リハ病棟の研修生になり、2002年から正看護師として働く。急性期内科病棟、認知症内科で働いたのち、現在は英南部にあるNHS病院の急性期老年内科病棟に勤務。

70歳以上の方に手厚いケアを施す急性期老年内科病棟に勤めておられますが、勤務内容について教えてください。

朝7時半からの業務では、患者さんの投薬から始まります。日本では事前に分包してありますが、NHSイングランドでは患者さんの処方箋を見ながら各ベッドサイドで準備して、投薬をします。その後看護助手さんと一緒に患者さんの体を拭き、シーツ交換や体位変換、トイレ介助、ランチ、夕食後の投薬、点滴、注射……。この間にナース・コールや容態が悪い患者さんへの対応、退院される患者さんがいれば、書類、内服薬などの準備をし、ベットが空けばすぐにほかの病棟から転入を受け入れます。

夜8時までの勤務で、30分間の休憩を2回とるシステムですが、残業はほとんどありません。老人病棟なので意思の疎通が難しい人や痴呆症で徘徊する人もいるので、転倒しないように目配りしながら仕事を進めています。

無料の医療サービスのほかに、日本の病院との体制の違いはありますか。

訪問看護なども含めて医療ネットワークが組織化されており、いろいろなポジションの人が退院という同じ目標に向かってラインに沿ってケアができるのが良い点です。また、リスク・アセスメントがしっかりしているので、何か急な事故があったときの対応に強いですね。例えば2015年にイングランド南東部のショーラム(Shoreham-by-Sea)の航空ショーで墜落事故*があったとき、私は近くの病院で勤務中だったのですが、現場付近の救急外来は即座に全部閉鎖され、その事故の負傷者の救命に切り替わりました。

職場環境でいうと、医者も名前で呼んでリスペクトしあって働けるのは良いですね。同僚はフィリピン人やインド人、東欧出身が多く、本当にいろいろな人がいます。

また、英国では免許を維持するために3年に1回、今までに受けた研修内容と共にさまざまなレポートを規定通り作成して、上司からチェックしてもらったことを看護協会に再登録しないといけません。看護師に向いてない、大きな医療ミスを起こすなど、よっぽどのことがあると看護師免許を取り消されることがあります。業務では何よりも患者さんを優先しますが、ミスを起こさないよう、命を預かる責任感とはまた別の緊張感を持って勤務にあたっています。

* 2015年8月22日にウェスト・サセックスのブライトン・シティ空港で開催されたショーラム航空ショーで発生した墜落事故。戦闘機が国道に墜落し11名が死亡、16名が負傷した

新型コロナウイルスによる混乱から数年経ちましたが、当時のリアルな現場事情についてお聞かせください。

いきなりロックダウンが始まり、患者さんがウォーク・インにも病院の廊下にもどこにもおらず、今までない異常事態に恐怖を感じました。喘息もちなど重症化リスクのあるスタッフは自宅待機となり、スタッフの病欠も多く、人手不足で三つの病棟が閉鎖。次々と一般のコロナ病棟や重症患者の呼吸を管理するためのCovidCPAP療法が受けられる病棟に変わりました。一般コロナ病棟ですらほとんどの患者さんが酸素療法を受けており、今までに見たことがない状況でした。

老人が本当に簡単に亡くなっていくので、自分がコロナになったときも気が気でなかったですね。同僚もバタバタと感染していき、コロナ病棟に「○○病棟の主任さんが今から入院!」とか、一時期ITU(集中治療部)の患者がスタッフだけになったりしました。そうした看護師を自らの手でアセスメントしながら、次はわが身かと思い、恐怖に震えながらも、とにかく目の前の事をやるしかない!みたいな雰囲気でした。

逼迫した医療現場にさらに物価高も加わり、最近はストライキが増えましたよね。

2023年3月のデモの際、私はそのときちょうど休暇だったのですが、スタッフがデモに参加していないから呼び出され、結局働きに行きました**。患者さんは変わらずいらっしゃいますし、そこはスタッフ同士で助け合っていかないと。スタッフの4分の1くらいは参加していたと思いますが、ストに対する熱量は人それぞれだったかなぁという印象です。「明日ジュニア・ドクター来ないから今日のうちに薬出しといて」、なんてこともありました。誰かが働かないと現場は回らないんですよね(笑)。

**NHSには直接の呼び出しとは別に、エクストラで働いたり、担当病棟の患者が少なく手が空いたときに前もって別の病棟で働けるよう手配できる「バンク」と呼ばれるシステムがあり、これがあるため有給休暇を消化できるそう。昔は人手不足のときに看護師の斡旋業者からスタッフが来ていたが、今はほとんど見かけず、病院内の人員だけで仕事を回していかないといけないそうだ

NHS75で私たちができること

私たちは地元のNHS組織でボランティアをしたり、献血に参加したり、NHSをサポートする慈善団体に協力するなどして、NHSを支援することができる。詳しくはwww.england.nhs.uk/nhsbirthdayを参照ください。

2023年7月5日で設立75周年
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