知っているようで知らない英国の野菜。
英国のスーパーマーケットには、よく知られた野菜のほか、日本人の私たちにとっては珍しい野菜も並んでいる。今回は、英国の食卓によく並ぶポピュラーな野菜を中心に、野菜にまつわる豆知識や、アジアなど特定の地域で消費されている世界各国の野菜を取り上げた。今まで存在は知っていながら手を出せていない野菜があったら、これを機にぜひ購入してみてはいかがだろうか。(文: 英国ニュースダイジェスト編集部 イラスト: Kanako Amano)
参考: www.bbcgoodfood.com、www.eatingwell.com ほか
英国の野菜は輸入物が多い
私たちがスーパーマーケットで購入している野菜はどこから来ているのだろうか。政府による2022年の解析データによると、55パーセントが国内生産、45パーセントが輸入に頼っており、英国は欧州地域でもトップ・クラスの輸入大国となっている。気候の関係で葉物などの新鮮な野菜が育たない環境であるのが理由だが、近年の英国のEU離脱(ブレグジット)によって移民労働者が減少し、野菜や果物などの国内生産量も減少しているため、輸入量がさらに増加傾向にあるようだ。国内生産の野菜で多いのはトマトやジャガイモ、ニンジン、タマネギなど、根菜が多い。
全部網羅していたら英国人!?英国でよく食べられている野菜
まずは、英国らしい野菜や日本と同じように使用されている野菜など、よく見掛ける野菜を紹介。グリル料理が伝統的に多い英国では、特に根菜が充実しており、選ぶ楽しみがある。
Beetroot
ビートルート
食物繊維、葉酸、マンガン、カリウム、鉄分、ビタミンCなど、栄養素がたっぷり詰まった根菜。1970年代の英国で酢漬けのビートルートが流行した後、一旦下火になったが近年盛り返してきた。赤色のほか、黄色や白色もあり、濃厚な甘い風味が特徴で、塩味のある料理に添えたり、サラダの具として使用。酢漬けやオーブンでのホイル焼きのほか、皮を剥いて生で、ジュースにしてもOKと万能だ。
Swede
スウィード
カブに似ているがキャベツ科の一種で、外皮が紫がかっているのが特徴。スコットランドではニープス(Neeps)と呼ばれ、バーンズ・ナイトで食べられるハギスの付け合わせとして出る。ビタミンCを豊富に含む水分の少ない根菜で、ゆで、焼き、蒸しなどで調理できるが、煮込み過ぎると崩れやすいので注意が必要だ。みじん切りにしてスープやパイに入れたり、マッシュ・ポテトの代用にもできる。
Parsnip
パースニップ
ニンジンに似た形でベージュ色の、英国原産の野菜。秋から春にかけて収穫されるポピュラーな野菜で、特に春に収穫されたものは甘味が強い。ローストするとナッツのような香ばしい味わいが出る。カリウムのほか、食物繊維、カルシウム、鉄、ビタミンC、葉酸など、多くの栄養素を含んでいる。先端には肌を刺激する物質が含まれているので、折れているのではなく意図的に切り落とされている。
Shallot エシャロット
ネギ科の一種で、タマネギより小さくて甘く、マイルドな風味が特徴。抗酸化物質が豊富に含まれているほか、タンパク質、繊維、カルシウム、鉄、マグネシウム、亜鉛、銅、葉酸、ビタミンA、B、Cなど多くの栄養素が凝縮されている。生で食べるとニンニクのような風味が感じられる。タマネギより水分含有量が少ないので、シャキシャキとした食感を残したいなら調理時間は短めに。
Butternut Squash バターナット・スクウォッシュ
1940年代に開発された米国原産のカボチャで、バターのように滑らかな食感とナッツのような味わいが特徴。英国では料理番組で頻繁に取り上げられたことがきっかけで、ここ20年で一気に知名度を上げた。亜鉛とミネラルの一つであるセレンを含み、主に冬が旬。スープにしたり、オーブンで焼き上げるのが一般的だ。硬い皮は、切れ込みを入れて電子レンジで3〜5分加熱すると切りやすくなる。
Celeriac セロリアック
根が張り付いた見た目に驚くが、セロリの根のこと。コールスローにするなど生で食べると歯応えが良く、少し苦味がありダイコンやカブに似たような味わいがある。ローストなど調理した場合は、ジャガイモのようなほのかな甘みが感じられる。抗酸化物質のほかに、ビタミンB6、C、Kやマグネシウムやカルシウムも含有。脂肪分が非常に少ないので、質量のわりに栄養価も高くコスパが良い。
Savoy Cabbage サヴォイ・キャベツ
葉脈が浮き出たレースのような模様があり、ちりめん状の葉が特徴的なキャベツで、白菜の代用にも使える。軟らかく派手な外側の一方で、内側は淡い黄色で歯応えがあり、一つで異なる食感が楽しめる。一般的なキャベツより辛味が少なく、ほんのりとした甘味があり、豚肉やベーコンなど塩気のある料理と一緒に食べるのが最適。骨密度を高めるビタミンKなどさまざまなビタミンを含有する。
Chicory チコリ
少し苦味のあるシャキシャキとした歯応えの野菜で、赤や黄色などの種類がある。サラダなど生で食べられることが一般的だが、オーブンで焼く、ゆでる、蒸すなどさまざまなレシピで楽しめる。カリウムやビタミンAやCなどを含む。先端が緑がかっているものは苦味が非常に強いので、購入前によく確認しよう。また、米国を中心に飲まれているチコリ・コーヒーはこの野菜の根を使っている。
Kale ケール
ホウレンソウの4倍ものビタミンCが含まれており、セレンやビタミンE、ベータカロチン、またがんの予防物質になり得る成分が豊富に含まれている葉野菜。先端がもしゃもしゃになったカーリー・ケールがよく知られている。長めに調理しても栄養素が失われないため、ゆで、蒸し、炒めなどその気軽さが有能。また、オリーブ・オイルを塗ってオーブンで焼くとパリパリのクリスプスになる。
Leek リーク
日本ではセイヨウネギと呼ばれる、太い長ネギのようなネギ。抗酸化作用や血液サラサラ効果などが期待できるフラボノイドが含まれるほか、乳がんなど一部のがんの予防に役立つといわれる成分を含む。主に食べられるのは白い部分で、生食は辛味が強いため早摘みのもののみOK。基本は蒸したり、スープに入れたりして楽しむ。葉と葉の間に土が残りやすいので、食べる前は丁寧に洗うこと。
Runner Beans ラナー・ビーンズ
南米で2000年以上も栽培されてきたラナー・ビーンズは、インゲン豆よりもさやが長くて風味があり、サクサクとした食感が特徴。ビタミンC、Kや赤血球の生産を助ける葉酸などを含有する。豆カレーやパスタ、パエリアなど、料理に彩りを加える野菜として人気。そのままの形で調理しても問題ないが、ラナー・ビーンズに対して斜めに包丁を入れスライスすると、よりおいしく仕上げることができる。
Large Flat White Mushroom フラット・ホワイト・マッシュルーム
大きくて平たいキノコで、個体によっては直径約10センチメートルまで成長するものもある。フル・イングリッシュ・ブレックファストに使われるホワイト・カップより成長し熟しているため食感は柔らかく、よりうまみが感じられる。ビタミンDや食物繊維や抗酸化成分が含まれている。その大きさから、別名「バーベキュー・マッシュルーム」と呼ばれ、ベジタリアンの強い味方となっている。
知って得する野菜に関する6つの豆知識
野菜という大きなテーマでも、国が違えば野菜を取り巻く環境や考え方も違ってくる。ここでは英国ならではの野菜に関する興味深い小ネタを6つ紹介する。
1 英国の旬の野菜
年中収穫できる野菜もあるが、やはり旬に食べるのが1番おいしい。英国では、春はアスパラガス、ニンジン、カリフラワー、セロリアック、カーリー・ケール、サヴォイ・キャベツ、ウォータークレス。夏はビートルート、コジェット(ズッキーニ)、フェンネル、フレッシュ・ピーズ、レタス、ラナー・ビーンズ、トマトなど葉物野菜が多い。秋はジャガイモ、カボチャ、スクウォッシュ、スウィート・コーン、冬はブリュッセル・スプラウト、リーク、パースニップ、ターニップなどがある。
2 人気の野菜トップ3は?
2024年の最新の世論調査によると、最も人気の野菜はジャガイモ。43〜400年のローマ時代に英国に持ち込まれて以来、栽培され続けてきたことを象徴するように、英国の数々の伝統料理にも登場する国民食だ。2位はニュー・ポテト。成長し切る前に収穫した小ぶりのジャガイモで、皮が薄く甘みが凝縮されているのが特徴。使い勝手も良い上美味だ。3位はニンジンで、ロースト・ディナーの付け合わせの定番であることはもちろん、キャロット・ケーキなどデザートにも利用されている。
3 野菜を買える場所
大手のスーパーマーケットのほかに、英国には野菜を購入できる場所がある。路上で定期的に行われるマーケットでは、ボールいっぱいに積まれた野菜や果物が1ポンド〜で購入でき、同じ食材をたくさん利用したいときに便利。ただし、少々傷んでいるものが客に見えないように底の方に混ぜられていることがあるので、買う前には必ず吟味するのが安心だ。また、アフリカ系、トルコ系などのオフ・ライセンスのお店では、下記で紹介するようなエキゾチックな野菜を見つけることができる。
4 野菜を安全に食べるために
専門家によると、生野菜を食べるときは、「washed」と表示された袋の野菜を使う場合でも水で軽く洗うのが良い。また、水を入れたボールに野菜を浸して洗うと細菌が水の中に残ってしまうので、流水で30秒ほど洗うのが安心だそう。根菜を洗う場合は、ブラシでこすり、泥や汚れを落とすこと。また、交差感染を防ぐために、生肉と野菜を切るまな板を分けることも大切だ。ただ、重曹やお酢で野菜を洗う方法に関しては、「大腸菌の除去になる」「水で十分」など、専門家でも意見が分かれる。
5 アロットメントって何?
アロットメント(Allotment)とは、家庭で消費する食用の植物や野菜を育てるために借りられるコミュニティー・ガーデンのこと。区画はカウンシルとの契約の元、各市民の農園協会によって管理されている。利用料は広さや水の使用量によってまちまちだが、相場は年間20〜100ポンド。農薬を使わずに自分の好きなように野菜を育てられるため非常に人気があり、どこもウェイティング・リストがあるほどだ。詳しい申請方法は自分が住んでいる地域のカウンシルのサイトから確認してみよう。
6 「5 a day」のススメ
「5 a day」とは、健康のために1994年に政府が始めたキャンペーンで、毎日少なくとも5種類の果物と野菜を組み合わせて食べることを推奨するというもの。生野菜や冷凍、缶詰、無糖のフルーツ・ジュースなども対象となっているが、ジャガイモ、プランテンなどは対象外。野菜がその対象かどうかはパッケージに「5 a day」の記載があるかないかで判断できる。1種あたり80グラムで、豆類なら大さじ3杯、レタスなど生の葉野菜ならシリアル・ボウル1杯分、ブルーベリーなら2握り分くらい。
英国で買えるエキゾチックな野菜10選
世界中から移民が集まる英国、特にロンドンでは、各国の国民の需要に答えた野菜が店に並んでいる。見たことはあるけれどあまり手に取ったことがない、エキゾチックな野菜を、調理法も併せて紹介しよう。
*()内は別称
Baby Aubergine Striped (Cinna Vankaya) ベビー・オーベジン・ストライプド(シナ・ヴァンカヤ)
縞模様がにぎやかな小さなナス。インドや中東で愛されている。肉厚で種が少なく、ほんのり甘い風味でクリーミーな食感が特徴。料理方法は通常のナスと同じだが、インドではカレーの具、中東では中身をくり抜きラム肉や米などを詰めて焼く。それ以外にもロースト、グリル、シチューに適している。
Kohlrabi コールラビ
不思議な形のコールラビはキャベツやブロッコリーの仲間で、地中海沿岸が原産。キャベツの芯のような甘味のある味わいで、薄くスライスしてサラダにしたり、スープやポトフに入れて加熱すればカブのような食感になる。旬は年に2回あり、6〜7月の初夏と11〜12月の晩秋。ビタミンC含有量も多い。
Bitter Gourd (Karela) ビター・グオード(カレラ)
アジア、アフリカ、カリブ海地域で広く栽培されているウリ科のつる植物で、日本ではニガウリ、ゴーヤ。キュウリのようにシャキシャキして水分の多い果肉には、特徴的な苦味がある。東南アジアではサラダとして人気がある一方、インドやパキスタン、ネパールなどの南アジアではカレーや肉詰めなどに使われることが多い。
Plantaine プランテン
バナナによく似たプランテンは、バナナよりもデンプン含有量がはるかに高く、通常は食べる前に調理される。アフリカ諸国で主食となっており、ビールの原料にも使われる。ガーナ、ナイジェリアでは揚げたプランテン「ドードー」がメジャーで、マッシュしたプランテンから作られる「エト」はガーナの伝統料理だ。
Bottle Gourd (Lauki/Loki) ボトル・グオード(ラウキ/ロキ)
まだ成熟していない若くて柔らかいヒョウタン。ヒョウタンは約1万年前に世界で最初に栽培された植物の一つで、世界中で生育している。栄養価も高く、特にインドでは主食として食されていたこともある。インドやアジア食料品店ではラウキまたはロキというと探せる。コジェットと同様の調理法でOK。
Pak Choi パクチョイ
中国が原産のアブラナ科の野菜。チンゲンサイによく似ているが、その違いは軸。パクチョイは白く、チンゲンサイは青色をしている。チンゲンサイの代用として、炒め物やスープなどの中華料理や、おひたしなど幅広く使える。加熱してもシャキシャキ感が残るのが魅力。葉の色が濃く、軸に厚みがあるものを選ぶとよい。
Cassava (Yuca) カッサヴァ(ユッカ)
タピオカの原料となるカッサヴァは世界中の熱帯地域で栽培され、根元にできる塊(イモ)が利用されている。世界中の約10億人分の食糧源に相当しているほどで、主食となるイモ類ではジャガイモに次ぐ生産量だ。味と食感は甘味の少ないサツマイモに近く、蒸す、ゆでる、揚げる、粉にして炒めるなど調理法も多い。
Round Courgette (Tondo Chiaro di Nizza) ラウンド・コジェット(トンド・キアロ・ディ・ニッザ)
イタリアでよく食されている丸いコジェット。中身をくり抜いて詰め物をし、オーブンで焼くのが一般的。果皮の色は緑色や黄色、薄緑色とさまざまで色合いも美しく、普通のコジェットと同様に炒め物やグリル、煮物などいろいろな食べ方が可能。日本では丸ズッキーニと呼ばれ、かわいらしい見た目なので人気がある。
Green Papaya グリーン・パパイヤ
熟していない青いパパイヤで、東南アジアではサラダを作るために細かく刻んで使うことが多い。白い果肉は風味は余りないが、それよりも歯ごたえが評価されており、主にサラダのベースとして使用される。チリ、ライム、ニンニク、魚醤などの強い風味を引き立てる淡白な味わいで、ベジタリアンにも好まれている。
Tamarind タマリンド
もともとアフリカ原産のタマリンドは東南アジアになくてはならない調味料の素材。タマリンドの木からマメがぶら下がっており、これを水にふやかしてペーストにする。見た目からは想像もつかない、梅干しのような強烈な酸味が特徴だ。パッタイやカレーなどに加えれば本場の味に。ペーストや粉末状でも売られている。