チェルシーもメイフェアも、ぜーんぶ彼らの所有地! ロンドンの一等地を握る
英国貴族4つの名家
メイフェア、チェルシー、マリルボーン、オックスフォード・ストリート……。全て名士や有名人たちが住む豪邸や、一流ホテルまたは高級ブランド店、さらには大型デパートなどが並ぶロンドンの一等地だ。街中を歩けば思わずため息が出るほどの建築物が並ぶが、実はこれらの土地の大部分は、たった4つの貴族階級に属する名家によって所有されているということを皆様はご存知だろうか。外国人や外国資本が大量に流入し、国際色の豊かさが強調されるロンドンにあって、その一番輝かしい部分を牛耳っているのは、古くから代々伝わる由緒正しい一握りの貴族たち。在英邦人がなかなか気付かない、階級社会の影響がいまだ色濃く残っていると言われる英国の一面に迫る。(文:長野 雅俊)
Mayfair & Belgravia
20代の若き公爵が見守る
メイフェア、ベルグラビア地区
高級紳士服の仕立屋が並んだサヴィル・ロウ、アンティーク・ショップを内包するロイヤル・アーケード、さらには王立芸術院「ロイヤル・アカデミー・オブ・アーツ」などが存在するメイフェア、ベルグラビア地区。ロンドン屈指の高級住宅街と呼ばれるこの区域の開発は、340年以上も前からグロブナー家と呼ばれる富裕貴族が担っている。
超高級ホテルのクラリッジズ
グロブナー家(1677年~)
1677年、当時グロブナー家の長男だったサー・トマス・グロブナーが、ロンドンに数百エーカーの土地を所有していた荘園領主の娘メアリ・ディヴィスと結婚し、多くの資産を得る。この資産を利用して18世紀前半にグロブナー・スクエアを中心とした街づくりが開始され、現在のメイフェア地区が出来上がった。またグロブナー家は19世紀、ヒュー・ルーパス・グロブナーのときにウエストミンスター公爵の爵位を授与され、代々同家の長男に受け継がれている。(右写真:19世紀後半を生きた初代 ウエストミンスター公爵、ヒュー・ルーパス・グロブナー)
ヒュー・リチャード・ルイ・グロブナー
Hugh Richard Louis Grosvenor
爵位: ウエストミンスター公爵
7th Duke of Westminster
経営する会社: Grosvenor Group www.grosvenor.com
資産: 推定101億ポンド(約1兆3500億円)
所有している土地の面積: メイフェア地区に100エーカー(約12万坪)、ベルグラビア地区に200エーカー(約24万坪)ほか
米国、オーストラリア、日本など世界各国でビジネスを展開していた第6代公爵の死去に伴い、2016年に総資産を相続し若くして世界有数の大富豪になった第7代ウェストミンスター公爵ヒュー・グロブナー氏。30歳未満の世界長者番付でトップの地位は今も維持している。その若さから、会社は家族経営のスタイルに変更。いまだ独身のため、各国の上流階級の令嬢から狙われている。
(写真左)高級店がひしめくオールド・ボンド・ストリートのアーケード
(同右)紳士服の仕立屋が密集したサヴィル・ロウ
Chelsea & Knightsbridge
ハンズ・スローン卿の遺産を受け継ぐ
チェルシー、ナイツブリッジ地区
センスの良いセレクト・ショップが集まる高級住宅地チェルシー。そこから北へ数十分ほど歩くとシャネル、アルマーニなどの一流ブランド、さらには高級デパートのハロッズが立ち並ぶナイツブリッジに到着する。これらの街では、大英博物館の創設に貢献したハンズ・スローン卿の遺産を受け継いだカドガン家が権勢を振るっている。
高級デパートの代名詞、ハロッズ
カドガン家(1753年~)
大英博物館の創設に大きく貢献した収集家で自然科学者のハンズ・スローン卿が1753年に死去した際に、それまでスローン家が所有していたチェルシー区域の広大な土地を娘2人が相続。そのうちの1人であるエリザベスがカドガン家に嫁ぎ、エリザベスの死後にカドガン家へと受け継がれた。もう1人の娘であったサラの相続分も、やがてカドガン家が吸収。19世紀前半にはチェルシー地区の人口が急激な伸びを見せて、現在に至っている。
(右写真:17~18世紀を生きたカドガン家の名士、ウィリアム・カドガン伯爵)
チャールズ・カドガン
Charles Cadogan
爵位: カドガン伯爵 8th Earl Cadogan
経営する会社: Cadogan Estate Ltd www.cadogan.co.uk
資産: 推定68億ポンド(約9122億円)
所有している土地の面積: チェルシー地区に93エーカー(約10万坪)ほか
グッチ、シャネルといった高級ブランドからトム・フォードなどの比較的新しいブランドまで、一流のブランド店を呼び込んでチェルシー、ナイツブリッジ地区を高級住宅街へと変貌させたカドガン・グループ。一方で携帯電話の端末販売店や、ファストフードのチェーン店などの進出には厳しく制限をかけてほかの繁華街とは一線を画した街づくりを進めている。またカドガンの名前を冠したホテル、ホールの運営も行っている。
カドガン家が保有するカドガン・ホテル(写真左)とカドガン・ホール(同右)
Marylebone & Harley Street
女性たちが受け継いできた街
マリルボーン、ハーレー・ストリート周辺
世界的知名度を誇るマドンナやポール・マッカートニーといった有名人が邸宅を持つことで知られるマリルボーン地区。そして高額だが腕利きのプライベート・ドクターが集まるために、この地に診療所を構えることが医師として一流の証と見なされるまでになったハーレー・ストリート。貴族同士の結婚を通じて、さまざまな名家が所有してきたのがこれらの土地だ。
コンサート・ホールとして有名 なウィグモア・ホールが立つウィグモア・ストリート周辺の土地も、ハワード・ドゥ・ウォールデン家の所有となっている
ハワード・ドゥ・ウォールデン家(1879年~)
18世紀初頭まで莫大な資産を持つホールズ家が所有していた地域だが、その後はハーレー家、そしてポートランド家へと、名家の娘や姉妹への遺産相続を通じて所有者は移り変わっていった。1879年に5代目ポートランド公爵が死去した際にも、妹が6代目ハワード・ドゥ・ウォールデン男爵の未亡人になっていたことから、土地は同家の管轄下に。またこの頃から、ハーレー家の名前が残るハーレー・ストリートに病院施設が集中するようになった。(右写真:トーマス・ハワード、初代 ハワード・ドゥ・ウォール デン男爵(1561-1621))
メアリー・ヘーゼル・ツェルニーン
Mary Hazel Czernin
爵位: ハワード・ドゥ・ウォールデン女男爵 10th Baroness Howard de Walden
経営する会社: The Howard de Walden Estate www.marylebonevillage.com
資産: 推定46億ポンド(約6170億円)
所有している土地の面積: マリルボーン・ハイ・ストリート周辺に92エーカー(約10万坪)ほか
9代目ハワード・ドゥ・ウォールデン男爵の死後、激しい遺産争いの末に娘メアリー・ヘーゼル・ツェルニーン氏が2004年に遺産を相続した。本人がカトリック教信者のため、ハーレー・ストリートにおいては中絶を施行する病院の設立を阻んだり、さらには整形医療などを行う医療施設に対して厳しく制限をかけていると伝えられている。またマリルボーン・ハイ・ストリートには現在ファッショナブルな店が集まっている。
おしゃれな店舗が並びつつ、ビレッジ感も残すマリルボーン・ハイ・ストリート
一流の医師たちが集まるハーレー・ストリート
Oxford Street
欧州最大のショッピング街
オックスフォード・ストリート周辺
セルフリッジ、ジョン・ルイス、ハウス・オブ・フレイザーといった巨大デパートが乱立するオックスフォード・ストリート。休日には買い物客でごったがえすため、まともに歩くのさえ困難になるほど、ロンドンで最もにぎわいのあるショッピング街だ。またクリスマス期間中には華麗なイルミネーションを照らすなど、常に注目を集めるショッピングのメッカとなっている。
ロンドンで一番のにぎわいを見せるオックスフォード・ストリート
ポートマン家(1532年~)
英国国教会の創設者として有名なヘンリー8世王制下の裁判所首席裁判官だったサー・ウィリアム・ポートマンが、1554年に270エーカー(約32万坪)にも及ぶ広大な敷地を購入。当時は主に農地として活用されていたが、18世紀中ごろから開発が進み、中流階級の邸宅や、労働者のためのアパートなどの建設が始まった。1900年代後半からはオックスフォード・ストリートやベーカー・ストリート界隈の開発に力を入れるようになった。
(右写真:初代ポートマン子爵となったエドワード・バークリー・ポートマン)
クリストファー・エドワード・バークリー・ポートマン
Christopher Edward Berkeley Portman
爵位: ポートマン子爵 10th Viscount Portman
経営する会社: Portman Estate www.portmanestate.co.uk
資産: 推定20億ポンド(約2846億円)
所有している土地の面積: オックスフォード・ストリート周辺に110エーカー(約13万2000坪)ほか
オックスフォード・サーカス区域を中心に多数の不動産物件を扱うポートマン・エステイトは、現オーナー、第10代ポートマン子爵が1999年に事業を受け継いでから事業形態を刷新。それまでの借し出していた物件などを一気に買い戻した後に、8000万ポンド(約107億円)に及ぶ費用を注ぎ込んだ改築工事を実施するなど、大規模な再開発を行った。このため、同地区の家賃は毎年上昇を見せているという。
オックスフォード・ストリートにある大型デパート、セルフリッジズ