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Tue, 26 November 2024

2008年ニュースを語る

早いもので、2008年もあと2週間で幕を閉じる。今年は世界的な不況のため経済関連のニュースが注目されたが、その他の分野でも多くの事件・出来事があった。今回は、特に重要と思われる10の分野のニュース・サマリーから、今年1年の動きを振り返ってみたい。(猫山はるこ)

果断な経済政策で支持率も回復
首相の来年の采配に期待

瀕死の状態から何とか生還、しかしまだ足元は危うい──これが今年のブラウン首相の姿だったかもしれない。昨年から続いていた政府支持率低下の傾向は今年も一層強まり、労働党は、5月の地方選での大敗に続き、同月及び7月の下院補欠選挙でも敗退。また、ミリバンド外相が党首交代を訴えるかのような記事を新聞で発表したり、一部の労働党議員が公然と党首選を要求するなど内部からも突き上げに遭い、首相の威信はすっかり低下した。

10月初旬の内閣改造では、仇敵ピーター・マンデルソン氏を助っ人として呼び戻し、政府の窮状の深刻さを更に露呈。しかしここで皮肉にも、金融危機が首相に名誉挽回のチャンスを与えることになる。大手銀行への公的資金注入を始めとする果断な経済政策の実行によって指導力を見せつけたことで、首相の好感度は一気に上昇。20%台で低迷していた政府支持率も30%台に回復し、11月にスコットランド中部で行われた下院補欠選では無事、労働党候補を勝利に導くことができた。

しかし、英政界の流れは早く、既に「ブラウンの復興期は終わった」として、保守党が再び盛り返してきたことを指摘する声もある。12月初旬に「クイーンズ・スピーチ」で発表された政府法案を見ると、経済以外にも多くの課題があることが分かるが、首相の指導力は再び発揮されるのか。次期総選挙の実施期限まで残された期間はあと1年半。来年も、ブラウン政権に要注目である。

政治
左写真: 労働党党大会でベテランの余裕を見せた ブラウン首相(写真右)と妻のサラさん(同左)
Picture by: Anthony Devlin/PA Wire/PA Photos
右写真: 労働党には「真の改革」が必要だと訴え、論争を呼んだミリバンド外相
Picture by: Dominic Lipinski/PA Wire/PA Photos

金融危機・不況で英経済が一変
銀行救済、大手破綻など

金融危機と不況の報道が続いた1年だった。まず2月にはノーザン・ロック銀行の一時国有化が決定。民間企業の買収は結局、実現しなかった。一方、バブル崩壊で住宅市場は一気に停滞し、政府は9月、印紙税の非課税枠を拡大するなどの市場救済策を発表した。

9月にはまた、大手銀行ロイズTSBが、経営難の同業大手HBOSの買収を発表。株価が急落していた住宅金融大手ブラッドフォード・アンド・ビングリー(B & B)も国有化され、金融危機の拡大を国民に実感させた。こうした中、政府は10月初旬、500億ポンド(約7兆5000億円)の公的資金注入を柱とする銀行救済策を発表。更にこの数日後、ロイズTSBなど大手3行に総額370億ポンド(約5兆5500億円)の公的資金を投入することを明らかにした。

国立統計局によると、今年6~8月の失業者数は、過去11年で最高の182万人に上った。小売大手ウールワースの破綻は、イングランド銀行が12月初旬に実施した政策金利の2%への引き下げと共に、国民に大きな衝撃を与えたと言える。同銀のキング総裁は、英国は今年後半に景気後退に入ったとの見方を示しており、今後2年間にデフレーションに直面する危険性も口にしている。

ポンドが記録的な安値を続け、去年の今頃には想像すらできなかったような状況が続いている英経済。果たして来年のこの時期には、少しでもこの悪夢から覚めているのか、今は誰にも予測がつかないといったところだろう。

経済
左写真: 住宅市場活性化案を発表するブラウン首相(写真中央)Picture by: Lewis Whyld/PA Wire/PA Photos
右写真: HBOSのホーンビー最高経営責任者(写真左)とロイズTSBのダニエルズ最高経営責任者(同右)
Picture by: John Stillwell/PA Wire/PA Photos

ポイント制実施など規制厳格化
秋にはIDカード導入

スミス内相
IDカード導入スケジュールを
発表するスミス内相
Picture by: Jack Hill/
The Times/PA Wire/
PA Photos
英国の移民規制厳格化の動きを実感させられた年。最大のニュースは、新たな移民規制のシステムとして「ポイント制」が始まったことだ。従来の複雑な制度を簡素化し、欧州経済領域(EEA)加盟国以外の国からの移民労働者の入国を制限するものであり、着々と導入が進められている。

偽装結婚などを防止するため、結婚ビザの申請可能最低年齢は18歳から21歳へ引き上げられた。また不法労働取り締まりなどを目的とするIDカードは、まず滞在期間延長を申請する学生ビザ、結婚ビザ保持者を対象に、11月から発行が始まった。12月の「クイーンズ・スピーチ」で発表された政府法案の一つは、市民権取得に関する規則を更に厳格化するものである。

フィル・ウーラス移民担当大臣は、10月の就任以降、移民に対する厳しい姿勢を示す数々の失言で物議を醸している。景気悪化で英国人の雇用確保が最優先課題となるなか、移民規制は今後、更なる厳格化はあっても、緩和されることは考えにくい。

英国国教会のキーワードは「分裂」
女性主教問題などで紛糾

カンタベリー大主教
英国国教会発足以来の危機に
直面する ウィリアムズ・
カンタベリー大主教

今年の英国国教会関係のニュースでは、「分裂」という言葉が目立った。7月初旬に行われた同教会の総会は、女性主教を認めることを決定。カトリック教会から「(英国国教会との)和解に対する更なる障害」と非難されたほか、今後、この方針に反対する教区が英国国教会から離脱することも懸念されるという事態を引き起こした。

また、同月中旬から8月初旬にかけて、全世界の聖公会の主教が集まる10年に1度の会合「ランベス会議」がケントで開かれたが、女性主教及び同性愛者の聖職者任命の問題をめぐって、主にアフリカや南米の200人以上の主教が出席をボイコットすることになり、保守派と進歩派の分裂を露呈した。会議では結局、これらの問題について解決は見出せず、ウィリアムズ・カンタベリー大主教が「一致と相互理解」を訴えるに留まった。その他には、同大主教が2月、イスラム法のシャリーア法の英国への部分的導入を支持する発言を行ったことも大きく報じられ、物議を醸した。

「CO2排出量を8割削減」と表明
政府の意気込み見せる

環境
ビニール袋の無料配布を禁止する
スーパーが増加
Picture by: Clara Molden/PA Wire
/PA Photos
景気が悪いと環境対策は二の次になりがちだが、エド・ミリバンド・エネルギー・気候変動相は、就任早々の10月中旬、二酸化炭素(CO2)の削減目標を、これまでの「1990年比で2050年までに60%減」から「同80%減」へと修正することを発表。環境対策に対する政府の強い意気込みを見せつけた。

そうは言っても世界的な不況の影響はやはり避けられず、今年はリサイクル資源の需要が大幅に低下し、価格が暴落。このため、引き取り手のいないリサイクル資源を大量に抱えた地方自治体の一部では、既に一般世帯からのリサイクルごみの回収をやめる例も出ており、環境保護策を後退させる動きであるとして懸念する声が上がっている。

皇太子は還暦、息子は軍隊で活躍
元妃は事故死との評決

ヘンリー王子
陸軍士官としてアフガニスタンに
駐留したヘンリー王子
Picture by: John Stillwell/PA Wire/PA Photos
昨年から行われていた故ダイアナ元皇太子妃の死因審問で4月、「過失による事故死」だったとの評決が出された。一方、その元夫のチャールズ皇太子は11月14日、60歳の誕生日を迎えた。なかなか国王になれない皇太子には同情論もあるが、これを期に慈善活動なども改めて評価され、幸せな還暦を迎えられたと言えるだろう。

一方、2人の息子たちは、次男のヘンリーが昨年末から今年2月末まで陸軍士官としてアフガニスタンの前線に従軍。兄のウィリアムは年初の4カ月間、空軍のパイロット養成集中訓練を受けた。来年は、ウィリアムが空軍捜索救難隊、ヘンリーは陸軍航空隊でそれぞれパイロットとしての訓練を受けることが決まっている。

少年によるナイフ刺殺事件が多発
少女失踪は捜査中止に

嘆き悲しむ母
6月、ロンドン南部ウォータールーで、15才の娘を殺害されて嘆き悲しむ母親(写真左)Picture by: Stefan Rousseau/PA Wire/PA Photos
特に今年前半、ロンドンを中心に、ナイフを使って10代の少年が同年代の少年を刺し殺す事件が多発。若者の犯罪問題の深刻さを浮き彫りにした。今年初めから11月中旬までの統計によると、ロンドンにおける若者の刺殺被害者は25人に達している。

また、昨年5月、ポルトガルで英国人少女マデリン・マッカーンちゃん(当時3)が行方不明になった件で、同国の警察が7月、捜査打ち切りを決定したことも大きなニュースだった。少女の両親が「容疑者」に特定され、センセーショナルな報道が目立ったこの事件では、同国警察の捜査能力、報道機関の役割などの問題が浮かび上がった。

更に、ロンドン・ハリンゲー区の「ベビーP」虐待死事件、ウェスト・ヨークシャー州での母親による少女誘拐偽装事件では、地方自治体の児童福祉サービスが、地域の子供の保護という責務を果たせていない実態が暴露され、強い批判を浴びた。ハリンゲー区では事件を受け、児童サービス部長が解雇された。

ボリス・ジョンソン新市長が誕生
「タレント政治家」から転身

ボリス・ジョンソン氏
5月、ロンドン市長に選出されたボリス・ジョンソン氏(写真右)と妻のマリーナさん
Picture by: Dominic Lipinski/PA Wire/PA Photos
5月の市長選で、保守党のボリス・ジョンソン候補が、ベテランのケン・リビングストン氏を破って初当選。当初は、公共交通機関での飲酒禁止や若者のナイフ犯罪対策などで一定の評価を得るものの、次第に「我がまま」ぶりも目立つようになった。

10月初旬には、かねてから好ましく思っていなかったロンドン警視庁のイアン・ブレア警視総監に対し、スミス内務相への事前連絡なしに事実上の解雇宣告。また11月には、テムズ・ゲートウェイ橋建設やテムズ河横断トラム導入計画など、前市長の構想による大規模交通計画を、費用削減のためとして片っ端から廃案にした。ロンドン西部での混雑税課金については、最短で2010年までに取り止めることを決定し、環境団体などから批判の声も聞かれる。「次の市長選ではリビングストン氏が復活するのではないか」との見方も出ているが、2012年オリンピックの準備も本格化する来年以降、新市長の行政手腕が注目されるところである。

「ヒト性融合胚」の作製を容認
難病治療の研究目的

科学
同法改正では妊娠中絶可能期間も焦点となった
Picture by: Katie Collins/PA Wire/PA Photos
科学の分野では、ヒト胚研究に関する過去20年で最大の法改正が実現したことが特に大きなニュースだった。11月末、「2008年ヒト受精・胎生学法」が施行されたことによるもので、これにより、パーキンソン病やアルツハイマー病などの難病治療の研究のため、ヒトの細胞核を動物の卵子に注入する「ヒト性融合胚」の作製が容認されることになった。この法改正をめぐっては、カトリック教徒など保守派から反対意見が続出し、いまだに「将来、クローン人間が作製される可能性を生む」などとする批判の声が強い。同法にはまた、レズビアンのカップルが、体外受精(IVF)で生まれた子供の両親として法的に認められるとの条項も含まれた。

学力試験の採点遅延で批判の嵐
新資格導入は問題含み

教育
中等教育の最終試験「Aレベル」では史上最高の合格率を記録
Picture by: Owen Humphreys/PA Wire/PA Photos
今年の夏、イングランドの公立学校の全国共通学力テストである通称「SATs」の採点が大幅に遅れ、児童・学校・家庭省は大きな批判を浴びることになった。採点を委託されていた米系民間会社「ETSヨーロッパ」は失態を演じた末に政府との契約を切られ、これがきっかけとなって10月、14歳向けのSATsが今年限りで廃止されることが決まった。

また、9月の新年度より、新たな資格として「ディプロマ(Diploma)」が導入された。14~19歳を対象にした、職業技術と教養科目を同時に学べることが売りの資格だが、導入前には現場の教師から準備期間不足との不満の声が続出。生徒への周知も十分とは言えず、浸透には時間がかかりそうだ。

 

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