スティッキー・トフィー・プディング
Sticky Toffee Pudding
しばしば「STP」などと略して書かれていることもあるほど長い名前のデザート「スティッキー・トフィー・プディング」。名前の通り、ねっとりした茶色いトフィーのソースが、焦げ茶色のスポンジにたっぷりかかっていて、口にする前から舌がしびれてきそうなルックスです。
このお菓子を食べるきっかけをくれたのは、友人のトムでした。アルコールの大好きなトムとパブで食事をしたとき、ワインを飲み続けてメイン・コースを終えた後に、デザートとして彼がこれを注文したのです。しばらくして運ばれてきたのは、グレービーのようなどろりとした液体のかかった四角くて茶色い物体。アイスクリームが添えられていなかったら、それがデザートなのか、小さな肉の塊なのか判別がつかなかったかもしれません。「大好物なんだ」と、わずか3口ほどで食べ終えたトムを見て、「英国の左党をこんなにもひきつけるデザートって一体どんなもの?」と、がぜん興味がそそられたのでした。
数日後、スーパーのデザート売り場でSTPを発見。電子レンジで温めるだけの手軽さに(クオリティーへの)若干の不安を感じたものの、とりあえず試してみることに。温めている間に甘いキャラメルの香りがキッチン中に広がって、まるで我が家がお菓子の家になったよう。そして、ひと口食べてみれば、こってりしつつもほどよい甘さで、まさに英語でいう「moreish」な食べ心地。このとき、味とテクスチャーが何かに似ている……と思い浮かんだのは、子供のころに食べた、黒胡麻のかかった黒糖蒸しパン。英国で大人気のプディングは、紅茶に合うのはもちろん、なんとアツアツのほうじ茶とも相性良しでした。
さて、そんな日本人好みの味がするSTP、発祥については諸説あります。まずは、湖水地方にあるシャロウ・ベイというホテルのフランシス・コールソンというシェフが1970年代に作り始めたというもの。このレシピは秘伝のため、ホテルのスタッフは秘密厳守の誓約書にサインをしなければならないと言われています。また、同地方にあるカートメル・ビレッジ・ショップは「STPの故郷」としてプディングを作り続けて今年で25周年と喧伝しています。
実はこの「オリジナル論争」に関して、シェフで著名なフード・ライターでもあるサイモン・ホプキンソン氏が「ガーディアン」紙の電子版に興味深い記事を寄せています。彼によれば1971年に出版された「The Good Food Guide Dinner Party Book」の中に、ミセス・マーティンのレシピとしてSTPが紹介されているというのです。また、彼がコールソン氏に会ったときには、レシピが彼のオリジナルでないことを認めていたらしいという話も。
「本家」「老舗」争いは日本でもよく聞く話。いずれがオリジナルであれ、わずか40数年の間にこのプディングが英国人の胃袋をがっちりつかんだことは間違いありません。
簡単スティッキー・トフィー・プディング(6〜8人分)
材料
【スポンジ用】
- デーツ(ドライのもの) ... 170g
- 重曹 ... 小さじ1
- お湯 ... 300ml
- 無塩バター ... 50g
- ゴールデン・カスター・シュガー ... 50g
- ダーク・マスコバド・シュガー ... 70g
- 卵 ... 2個
- セルフ・レイジング・フラワー ... 175g
【トフィー・ソース用】
- 無塩バター ... 100g
- ゴールデン・カスター・シュガー ... 70g
- ダーク・マスコバド・シュガー ... 70g
- ダブル・クリーム ... 140ml
- ブラック・トリークル ... 小さじ1
- 塩 ... ひとつまみ
作り方
- オーブンを180℃に予熱しておく。
- デーツをみじん切りにし、重曹をふりかけて上からお湯を注ぐ。
- 上記以外のスポンジ用材料をボウルに入れ混ぜ合わせ、それに❷を加えてさらにハンドミキサーかフードプロセッサーなどで混ぜる。
- バター(分量外)を塗ったベーキング皿(約24cm x 24cm)に❸を流し入れ、オーブンで40分程度焼く。
- トフィー・ソース用の材料をなべに入れ、バターが溶けるまでは中火でゆっくり、溶けた後は沸騰させ、とろみがつくまで煮る。
- 切り分けたスポンジの上からソースをかけて出来上がり。バニラ・アイスクリームを添えてどうぞ。
memo
たいていのスーパーでは温めるだけのスティッキー・トフィー・プディングが販売されているので、手作りが面倒な方はそちらでトライしてみてください。「オリジナル」の一つカートメル・ビレッジ・ショップの商品はオンライン https://www.cartmelvillageshop.co.uk やスーパー「ウェイトローズ」でも購入が可能です。