レモン・ポセット
Lemon Posset
5月に入ったというのに寒いです。実は、原稿を書いている今、暖房を入れています。でも、4月の半ばには、まるで夏かと思うような、美しい晴天が続きましたね。
英国暮らしも長くなってくると、この国では「夏が来た」と思ったら、そのときに思う存分満喫しておかないと、その後、いつ夏がやって来るか分からない(もうその年に夏はやって来ないかもしれない)、ということをイヤというほど実感しています。なので我が家ではもちろん、急遽、バーベキューをしました。そして、せっかくなら夏のような陽気に合うデザートも用意しようと、初めてチャレンジしたのが「レモン・ポセット」。レモンの酸味がしっかり効いた冷たいプディングです。
ちょうど、図書館から借りて来ていた「ザ・シェイクスピア・クックブック」という本にこれが紹介されていました。シェイクスピア劇に登場するほど古くからあるデザートなら、一度食べてみたい、と思っていたところでした。同書によれば、「ウィンザーの陽気な女房たち」「マクベス」にポセットが登場しています。
調べると、ポセットとは、元々はデザートというよりも、飲み物だったそうです。温めたミルクにワインやエール、あるいは柑橘類の果汁を加えて、とろみを付けたもの。それに砂糖を加えたり、スパイスで風味を付けたりしていました。17世紀には、特にサック(Sack)という、シェリーに似たお酒を使ったものが富裕層の間で好まれ、更にアーモンドやビスケットが加えられて「飲み物と食べものの中間」という感じになっていったようです。
「ザ・シェイクスピア・クックブック」には、大英博物館所蔵という、ポセット専用の「ポセット・ポット」の写真が紹介されています。それには、ティー・ポットに似た形で注ぎ口が1つ、そして取っ手が2つ付いています。実は、この注ぎ口のように見える部分に口を付けて、液体部分を飲み、固まっている分は、蓋を取ってスプーンですくって食べていたのだそうです。美しくデザインされた陶製や銀製のこうした専用の器を持っていたのは、当然のことながら、かなり裕福な人々。でも、スプーンはさておき、上流階級の人たちが、口をすぼませて、この細い注ぎ口から液体を吸いあげて飲んでいる姿を想像すると、ちょっと笑ってしまいます。
さて、このように長い歴史を持つポセットですが、現在紹介されているのは温かい飲み物ではなく、冷たいデザートとして。特にレモンを使ったレシピが圧倒的に多いのです。これが濃厚なレアチーズ・ケーキのようで、とてもおいしい。そして材料はダブル・クリーム、砂糖、レモンの3つだけと超シンプルな上に、作り方も驚くほど簡単です。この後、もし英国に夏がやって来たら、皆さんもぜひこの冷菓を作ってみることをお勧めします。
レモン・ポセットの作り方(4人分)
材料
- レモン ... 1個
- ダブル・クリーム ... 300ml
- カスター・シュガー ... 70g
作り方
- レモンの皮をすりおろし、果汁を絞っておく。
- 鍋にダブル・クリームとカスター・シュガー、レモンの皮を入れて煮る。沸騰したら弱火にして約3分程調理する。
- ❷を冷まし、レモン果汁を加えてよくかき混ぜる。
- ❸の液を漉したものをガラスの器に4等分して入れる。
- 冷蔵庫で2~3時間冷やして出来上がり。ミントの葉やレモンの皮などを飾ると見た目もラブリー。
memo
砕いたダイジェスティブ・ビスケットにバターを混ぜた生地を丸いケーキ型に敷き詰めて、その上からポセットを流し込み、冷蔵庫で冷やせば、レモン風味のレアチーズ・ケーキに似たデザートにもなります。