ショートブレッド
Shortbread
日本に帰省する際、直前まで忙しくてお土産を準備する時間がなく、ヒースロー空港でパック売りされている、タータン・チェック柄のパッケージに入った「ショートブレッド」を慌てて買ったことがあるという人、私だけではないと思います。空港で山積みになって販売されるほどに英国を代表するこのお菓子ですが、タータン・チェック柄から推察できるように、スコットランドが発祥と言われています。
食べた途端にバターの風味が口いっぱいに広がるリッチな味わいのビスケット。お皿か手で受けていないと、ぽろぽろと粉がこぼれ落ちてしまうのが気になるところではありますが、紅茶との相性が最高だというのは、異論の余地なしでしょう。
ショートブレッドの「ショート」とは、この、ぽろぽろさくさくとした生地のテクスチャーを表しています。英国では料理にもお菓子にもよく使われるパイ生地「ショート・クラスト・ペストリー」のショートもやはり同じところからきています。脂分(マーガリンやラードなど)の割合が多いために、この食感がでるのです。
でも、ビスケットなのに「ブレッド」とつくのはどうしてでしょう?
件のタータン・チェック柄パッケージで世界的に知られるショートブレッド製造メーカー、ウォーカーズによると、もともとショートブレッドは、パンを作ったときに余った生地に甘みをつけてビスケットに焼き上げた「ブレッド・ビスケット」だったといいます。一度焼いたパンをさらにオーブンに入れて2度焼きすることで、硬いビスケットにしたのです。その存在は12世紀ごろまでさかのぼることができるのだとか。
私が初めてショートブレッドを手作りしたのは、ロンドンのアフタヌーンティー・レッスンを取材したときでした。実際の教室でレッスンを受けながらの取材では「スコティッシュ・ショートブレッド・ペチコート・テイルズ」を作りました。バターがちょっとびっくりするほどたくさん入った生地を丸めて、その後、麺棒で延ばし、ケーキ皿の大きさを目安にして、2つの円盤を作ります。その表面に8等分になるように放射線状にナイフの背で筋をつけたら、縁の部分を人差し指と親指を使って少しずつつまむように波型をつけていきます。「ほら、これでペチコートみたいになったでしょう?」先生が笑顔で言いました。確かにそれは、8枚のひらひらしたフリルのスカートかペチコートのようにも見えました。
ところで、このペチコート・テイルズのショートビスケットは、スコットランドのメアリー1世の好物だったという話があるそうです。だとしたら、現在公開中の映画「Mary Queen of Scots」(邦題「ふたりの女王メアリーとエリザベス」)を観に行くときには、ポップコーンではなくショートブレッドを持参した方が気分が盛り上がるかもしれませんね。
ショートブレッド(ペチコート・テイルズ)の作り方
(直径16センチの丸型2枚分)
材料
- 小麦粉 ... 150g
- コーンフラワー ... 75g
- バター ... 150g
- カスター・シュガー ... 75g+上からふりかける分少々
作り方
- 小麦粉、コーンフラワー、カスター・シュガーをボウルに入れて混ぜておく。
- ❶にバターを加えて指で全体をすり合わせるようにして混ぜる。
- 生地を軽くこねて2つに分け、ボール状にする。
- ❸を直径16センチほどの円になるまで麺棒で延ばす。
- 表面全体にフォークで穴を開け、ナイフの背で放射線状に8本の線を描いておく。
- 縁の周りをつまんで波型に模様をつける。
- 生地を冷蔵庫で20分ほど冷やす。
- 160℃に予熱したオーブンで30~35分ほど焼く。この時、色が茶色くならないように注意する。
- 焼き上がったら網の上に移して冷まし、上からカスター・シュガーを振りかけて出来上がり。
memo
19世紀のレシピには、ショートブレッドにキャラウェイ・シードを混ぜたものがあったそうですが、現代ではチョコレート・チップやラベンダー、ナッツに干しぶどう入りなど、さまざまなバリエーションが登場しています。