第166回: 省エネルギーと二酸化炭素に関する報告
近年のESG(環境・社会・ガバナンス)意識の高まりのなか、英国では省エネルギーと二酸化炭素に関する報告開示(SECR=Streamline Energy and Carbon Reporting)が施行され、2019年4月1日以降にスタートする会計年度から、条件を満たす企業に対してエネルギー消費量や二酸化炭素排出量に関する開示が求められています。SECRは施行から少し時間が経っていますが、相談をいただくことが多いトピックについて、今回は復習してみようと思います。
日系子会社も対象となりますか。
SECRは英国の大企業に適用されます。大企業とは、売上が3600万ポンド以上、総資産が1800万ポンド以上、従業員が250人以上、という三つの条件のうち二つ以上を満たす企業のことです。ただし、上場企業は規模に関わらず大企業として扱われ、SECR適用対象となります。通常は決算書の取締役報告書(Directors Report)で開示されますが、企業にとって戦略的に重要な内容であれば、同じく決算書内の戦略報告書(Strategic Report)で開示することも認められています。
私の会社はまだ大企業ではありませんが、数年内には条件を満たしそうです。
SECR開示には企業内で多くのプロセスを実施する必要があるため、早い段階で準備を開始することをお勧めします。まず自社の環境への影響や責任を把握し、的確な重要業績評価指標(KPI=Key Performance Indicator)を特定することが大切です。開示のために必要なデータ収集と、その測定や管理には、環境マネジメントシステムを構築する必要があります。開示要件の正確な把握には時間や手間がかかります。
SECR開示内容について教えてください。
求められる開示レベルは上場企業と非上場企業で大きく異なりますが、ここではほとんどの英国日系企業のように非上場である場合について説明します。
・エネルギー消費量: 報告期間内に使用したエネルギーについて、電気、ガス燃焼、輸送や移動といった種類ごとの消費量を開示
・温室効果ガスの排出量: 報告期間内の上記の使用エネルギーから発生させた温室効果ガス(CO2e)の量を開示
・強度比率: 少なくとも一種類の数的強度比率の開示と前年度との比較が求められる
・方法論の説明: エネルギー消費量と温室効果ガス排出量を計測するために用いた方法論や算出方法を説明。特定の方法論の指定はないが、GHGプロトコル企業基準などを参照することが推奨されている
・エネルギー効率化へのアクション: 省エネ化やエネルギー消費の効率化を進める具体的な取り組みを説明
かなり詳細な開示が求められるのですね。
確かにSECR開示対応は容易ではありませんが、大きなプラス面もあります。開示プロセスは、省エネ化や脱炭素へ向けた姿勢を強めるきっかけとなります。数値化し、各種比較や分析を容易にすることで、自社のエネルギー消費や効率性への関心が高まり、改善へ向けた具体的な施策を取ることにもつながるでしょう。ESGへの取り組みは、結果として消費エネルギー低減によるコストダウンといった財政上の好影響だけでなく、顧客や従業員、サプライヤーといったステークホルダーへの広報にもなり得ます。
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高西祐介
監査・会計パートナー
英国大手会計事務所にて多くの英系大企業監査を担当。日系企業をサポートしたいという強い思いからGBAへ。監査、ファイナンスデューデリ、組織再編アドバイスを専門とする。