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Fri, 29 March 2024

小林恭子の
英国メディアを読み解く

小林恭子小林恭子 Ginko Kobayashi 在英ジャーナリスト。読売新聞の英字日刊紙「デイリー・ヨミウリ(現ジャパン・ニュース)」の記者・編集者を経て、2002年に来英。英国を始めとした欧州のメディア事情、政治、経済、社会現象を複数の媒体に寄稿。著書に「英国メディア史」(中央公論新社)、共著に「日本人が知らないウィキリークス」(洋泉社)など。

混迷のブレグジット交渉「People's Vote」は実現するのか? - その目的、提案事項、投票体制とは

来年3月29日に実施される、英国の欧州連合(EU)からの離脱(「ブレグジット」)。実施まであと半年を残すところとなりましたが、いったいどんな条件で離脱するのか、誰もその答えを持っていない暗中模索状態となっています。テリーザ・メイ首相がEU側に提示した離脱案(首相の公式別荘「チェッカーズ」でまとめられたので、通称「チェッカーズ案」)は、貿易においてEU共通のルールに従うもので、親EUかつ現状維持の提案でした。そのため7月上旬、ボリス・ジョンソン外相とEU離脱担当大臣デービッド・デービス氏は「これでは離脱にならない」と抗議の辞任をしてしまいます。これにめげないメイ首相は、9月19日、チェッカーズ案をEU加盟国首脳会議で披露しましたが、「うまく機能しない」(ドナルド・トゥスク欧州理事会議長)と言われてしまい、再考を促されました。こうした混迷が続くなか、残留支持者が中心となって、新たな「国民による投票」を行ってはどうかという意見が日増しにその支持を拡大させています。果たして2016年6月のように、二者択一の選択を迫る 「国民投票」の再来になるのでしょうか。

2年前のEUからの離脱(あるいは継続加盟)を問う国民投票では、離脱票(51.9%、約1700万票)が僅差で残留票(48.1%、約1600万票)を上回り、残留支持の国民の中に、「再度、投票をやるべきだ」という声が上がったのは結果が判明して間もないころでした。複数の残留派ロビー組織が中心となって運動が続き、与野党の残留派議員の支持の下、「国民の投票」(「Peopl e' s Vote」)という新たな組織が発足しています。今年4月にはロンドンで決起集会を開催し、約1200人が参加。9月には「国民の投票のためのロードマップ」と題するレポートを出しました。また一方で、9月25日、最大野党労働党の党大会に出席したキア・スターマー影のEU離脱担当相は次のように宣言しました。膠着状態にある離脱交渉を打開するために労働党は総選挙を望むけれども、これが実現しない場合「ほかの選択肢も考慮する」、この中には「国民による投票のためにキャンペーン活動を行うことも含まれる」、と。同氏が「残留という選択肢も除外しない」と述べると、会場に大きな拍手がわき起こりました。

でも、国民が再度、離脱交渉について票を投じる案は実現可能なのでしょうか? ロンドン・ユニバーシティ・カレッジで憲法問題を専門とするアレン・レンウィック博士によると「国民の投票」が2016年の国民投票に相当するとした場合、これを実行するための新法が必要となるそうです(BBC ラジオ4「ブリーフィング・ルーム」、9月20日放送分)。法案提出から投票までには「最短でも22週必要」で、来年3月29日までにやるとすれば、10月第2週までには法案を提出しなければなりません。法案には提案内容、選挙体制(例えば下院選挙の選挙区や年齢規定)などの情報が入ります。現状ではスケジュール的に難しいですよね。

ただし、抜け道があります。ほかのEU加盟国や欧州議会の合意が必要となりますが、離脱交渉を規定する条約によると、英国が離脱時期を延長することは可能なのです。ただ、もし離脱時期を延ばせたとして、今度は5月に行われる予定の欧州議会選挙をどうするかの問題にぶち当たります。その時点でまだ英国がEU加盟国であった場合、議会選挙に候補者を出さなければなりませんが、当選しても実際の活動が中止になるかもしれない議席のために選挙を戦うことになります。

また、投票で何を問うかも悩みどころです。今回は例えば「チェッカーズ案で離脱、合意なしの離脱、離脱しない」といった三択になった場合、それぞれの比率が半数にも満たない可能性があると専門家は見ています。そもそも、「既に国民投票で離脱と決まったのに、蒸し返すのは民主主義の冒涜だ」と大きな反発を感じる離脱支持者が出そうですね。

キーワード

国民の投票のためのロードマップ
(The Roadmap to a People's Vote)

残留支持者、議員らで構成されるロビー組織「国民の投票」が9月に発表した、新たな国民投票のための計画表。EUからの離脱を規定する「第50条」の策定にかかわったジョン・カー上院議員が中心となって作成された。第50条の進行停止の可能性などについて説明している。
 
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