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Wed, 11 December 2019

小林恭子の
英国メディアを読み解く

小林恭子小林恭子 Ginko Kobayashi 在英ジャーナリスト。読売新聞の英字日刊紙「デイリー・ヨミウリ(現ジャパン・ニュース)」の記者・編集者を経て、2002年に来英。英国を始めとした欧州のメディア事情、政治、経済、社会現象を複数の媒体に寄稿。著書に「英国メディア史」(中央公論新社)、共著に「日本人が知らないウィキリークス」(洋泉社)など。

南北をつなぐ高速鉄道HS2、建設予算増大で見直しへ - 年内に計画続行か否かを決定する見込み

「HS2、一体どうなる?」そんな声をニュース番組で最近、聞きませんか。HS2は「High Speed 2」の略で、早ければ一部が2026年末にも開通予定の、英国の高速鉄道路線です。「2」というのは、ユーロスターが走る高速鉄道路線「ハイ・スピード1」の次になるからです。この建設費用がとんでもなく大きな額に膨らみそうで、先月末、政府は計画の見直しを発表しました。建設を中止するわけではないようですが、年内に今後どうするかを決めるそうです。

HS2の元々の建設構想は、2007年。産業界のロビー・グループによるロンドンとイングランド中部バーミンガムを結ぶ高速鉄道建設の提案でした。時の労働党政権がこれを取り上げ、国家プロジェクトの一つになり、2010年に発足した保守党と自由民主党による連立政権に引き継がれました。政府は国民の意見を基にしながら、ロンドンとバーミンガムをつなぎ、さらにバーミンガムを起点として北西はマンチェスター、北東はリーズに延びる「Y字型」の高速鉄道の建設案を打ち出します。12年、政府は2段階に分けた建設を決め、17年、ロンドンからバーミンガムがあるウェスト・ミッドランズ地方までの鉄道建設案(第1期工事)が議会で決定されました。

新高速鉄道建設の目的は2つ。まずロンドンを含む都市近郊の鉄道輸送の混雑改善です。そして、ロンドンとイングランド中部および北部の都市との所要時間の短縮による、中・北部地域の経済活性化も目指しています。この鉄道建設で、北東部のニューキャッスルやリーズ、スコットランド地方のエディンバラやグラスゴー、そして英国全体が大きな恩恵を授かるそうです。

所要時間はどれくらい短縮されるのでしょう? HS2のファクト・シートよると、例えばバーミンガム・ロンドン間が現行の82分から45分に、マンチェスター・ロンドン間が127分から67分、リバプール・ロンドン間が134分から94分になるそうです。さらに足を延ばせば、バーミンガムからエディンバラまでは237分が191分、グラスゴーまでは242分が200分になります。また、輸送能力も3倍になると言われています。

建設計画に責任を持つHS2社の試算によると、HS2による英国経済全体への波及効果は920億ポンド(約11.8兆円)に達し、建設工事のピーク時には3万の職が生み出されます。数万の企業が建設計画に関与し、その70%はロンドン外の企業。98%が英国に拠点を置く企業になるそうです。建設に伴う地域再生によって、10万戸の住宅と、50万の職が新たに生まれます。

良いことばかりのようですが、問題は、膨れ上がる予算です。2010年時点の建設予算は327億ポンドでしたが、現在の予算(2015年発表)は556億ポンド。実際にはさらにこれに300億ポンド上乗せする必要があると言われています。

第1期目の工事となるロンドン・バーミンガム間の高速鉄道は2026年に開通予定ですが、「間に合わない」という声も出ています。第2期目のマンチェスターやリーズに向かう高速鉄道は2032~33年頃に開通予定です。予算オーバーになったからといってすぐに計画を中止できないのは、すでにこのプロジェクトのために74億ポンドが使われてしまったせいもあります。もし中止となれば、このお金が無駄になってしまいますよね。

計画続行か、中止か。国内では意見が分かれています。英国ではロンドンを中心とした南部に多くの投資がなされてきた歴史があり、南部と北部の間の経済発展の違いは「南北の分断」と言われています。HS2はこれをいくらかでも解消する意味がありましたが、ブレグジットによる負の影響を予想すれば、この巨額投資が正当化されるのかどうか、考えどころです。政府の見直し表明で、HS2の行方に強い不透明感が出てきました。

キーワード

High Speed 1(ハイ・スピード1)

高速鉄道「チャネル・トンネル・レール・リンク」(CTRL)のブランド名。英仏海峡のトンネルの英国側出口とロンドンのセント・パンクラス駅をつなぐ。全長109キロメートル。第1期工事が2003年、2期工事が2007年に完成・開通。建設費は約58億ポンド(現在の計算で約7520億円)。運転速度は時速300キロまで対応。運輸省所有のロンドン・コンチネンタル・レールウェイズ(LCR)が運営する。
 
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