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Tue, 10 December 2019

小林恭子の
英国メディアを読み解く

小林恭子小林恭子 Ginko Kobayashi 在英ジャーナリスト。読売新聞の英字日刊紙「デイリー・ヨミウリ(現ジャパン・ニュース)」の記者・編集者を経て、2002年に来英。英国を始めとした欧州のメディア事情、政治、経済、社会現象を複数の媒体に寄稿。著書に「英国メディア史」(中央公論新社)、共著に「日本人が知らないウィキリークス」(洋泉社)など。

離脱延期法が成立、解散・総選挙は否決、追い詰められる政権 - 10月末離脱の公約の行方は?

英国の欧州連合(EU)からの離脱期限10月31日まで、残すところ約6週間となりました。

ボリス・ジョンソン首相は離脱期限を死守し、EU側と離脱後の条件を決めずに離脱する、「合意なき(ノー・ディール)離脱」もやむなしという強気の姿勢を見せてきました。でも、合意なき離脱は「崖から飛び降りるような離脱」と評され、生活のあらゆる面で負の影響が大きいと言われていますよね。下院では多くの議員が合意なき離脱に反対で、夏休みの後の9月3日に再開される議会で、これを止める法案の提出を画策していました。

議員たちが、合意なき離脱を阻止する法案をまとめるべきか、内閣不信任案を出すべきかと考えているところに、8月末、先手を打ったのがジョンソン首相です。9月上旬から10月13日までの約5週間にわたる議会閉会を発表したのです。これにより、新たな会期は10月14日、エリザベス女王による施政方針演説で始まることになりました。時間切れで合意なき離脱となってしまうことを恐れた野党議員らは、9月4日、与党保守党内の賛同議員と協力して「EU離脱延期法」を下院に提出しました。法案は上下院での議論後、同9日、女王の裁可(「ロイヤル・アセント」)を得て成立しました。

この法律は、10月19日までに首相が、①EUとの離脱協定、あるいは、②合意なき離脱について下院で承認を得ることができなかった場合、来年1月31日までの延長をEUに要請することを義務化しています。下院は合意なき離脱反対派が圧倒的ですから、②が承認される見込みはゼロと言ってよいでしょう。ジョンソン首相は合意なき離脱の選択肢を交渉戦略から外さないことを明言していますので、首相の手足を縛るような法律になりました。1月末までの延長要請をしたときに、もしEUが別の離脱日を指定した場合、首相はその提案を受け入れるか、拒否の場合は議会の承認を得る必要があります。また、延期法案は政府が議会に対し、11月30日までに交渉の進行状況を報告する義務も定めています。「首相の独断的行動は許さない」という議員たちの意気込みが伝わってくるような法律ですね。

ジョンソン首相は議会を解散して総選挙に持ち込もうとしましたが、解散法案には下院議員の3分の2以上の賛同が必要です。野党の反対によって十分な賛成票を得ることができないまま、議会は閉会となり、首相は追い込まれました。合意なき離脱の選択肢を事実上否定され、解散総選挙の道も断たれたのです。首相側近は離脱延期法を回避する方法を思案中のようです。

9日朝、アイルランドのレオ・バラッカー首相との会談で、ジョンソン首相は「圧倒的に合意を得たいと思っている」と述べ、強硬姿勢を少し和らげた表現をしました。合意への最大のネックとなっていた、アイルランドと英領北アイルランドとの国境問題の解決策(「バックストップ」)の全面削除を要求してきた首相ですが、代替案の模索に向けて真剣に取り組む意欲を見せました。ただ、果たしてそのような案が本当に見つかるのでしょうか。ランカスター公領尚書のマイケル・ゴーブ氏が、メイ前政権時代のバックストップも含む離脱案を支持していると述べたことで、「中身は同じでも別名で呼ぶ」という線を選ぶ可能性が出てきました。何度も「自分は延期願いはしない」と繰り返す首相を見ていると、ひょっとすると10月19日前後に自ら辞任を宣言するかもしれません。

一方、11日にはスコットランドの最高裁にあたる民事控訴院・内院が、首相の議会閉会を違法とする判断を出し、また同日、合意なき離脱の場合は食料品不足や暴動が起きるという政府文書も公開されたことで、野党側は議会再開を求めています。このコラムが出るころには何が起きているか、想像を絶する波乱万丈の離脱劇が続いています(9月16日脱稿)。

キーワード

Royal Assent(国王の裁可)

議会を通過した法案が法として発効されるには、国王(現在はエリザベス女王)の裁可が必要となる。女王には裁可を拒否する権利があるが、通常は拒否をせず、前回拒否権が発動されたのは18世紀初頭。法案は下院(あるいは上院)での数段階にわたる議論の後、上院(あるいは下院)での同様の過程を経て、両院通過後、必要があれば修正をし、女王による裁可の段階に至る。
 
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