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Wed, 09 October 2024

小林恭子の
英国メディアを読み解く

小林恭子小林恭子 Ginko Kobayashi 在英ジャーナリスト。読売新聞の英字日刊紙「デイリー・ヨミウリ(現ジャパン・ニュース)」の記者・編集者を経て、2002年に来英。英国を始めとした欧州のメディア事情、政治、経済、社会現象を複数の媒体に寄稿。著書に「英国メディア史」(中央公論新社)、共著に「日本人が知らないウィキリークス」(洋泉社)など。

COVID-19の調査委員会が政府の対応検証 - 無修正のWhatsApp情報を提出するかどうかで論争

2020年初頭から世界中に広がった「COVID-19」こと新型コロナウイルス感染症は、英国にも大きな傷跡を残しました。政府の最新データによりますと、感染者は延べで2200万人、死亡診断書で死因がCOVID-19とされた人は約22万7000人。国家統計局の調査では、現在も約200万人が後遺症に悩まされています。

なぜこれほどの被害が出たのでしょうか。前代未聞の出来事とはいえ、政府の対応は十分だったのでしょうか。2021年5月、ボリス・ジョンソン首相(当時)は独立調査委員会の設置を発表しました。「英国Covid-19調査委員会」(UKCovid-19 Inquiry)の目的は、政府のCovid-19に対する対応とその影響を検証し、将来の教訓を得ることです。21年12月、イングランド・ウェールズ地方控訴院の元裁判官ヘザー・ハレット氏が委員長に任命されました。委員会の設置は「審理法」(2005年)に基づいており、何を対象にどのように調査するのかという付託条項が決定されたのは、昨年6月。委員長も含めて6人で構成されるチームが活動を開始しています。


調査は「モジュール」と呼ばれるいくつかの項目ごとに進んでいきます。COVID-19に対する政府の準備の度合い、政策決定、ヘルスケア体制への影響、ワクチン開発とその適用など。昨年10月から事前の意見聴取が始まっており、ここで公聴会がどうあるべきかを査定した後、少しずつ公聴会が始まっています。召喚された人は、宣誓の上で委員会の質問に答えます。予定では2026年夏までに公聴会は終了。報告書が出るのはその後になりそうです。

5月に入って、政府とハレット委員長との間で大きな論争が発生しました。委員長は官邸に対し、ジョンソン元首相のメッセージ・サービス「WhatsApp」の無修正の記録と手帳を渡すよう要請したのですが、政府が難色を示しました。ジョンソン氏とメッセージの送受信を行った政府関係者のプライバシーにかかわる情報や「明らかに調査には関係ない」メッセージが入っていると主張しました。委員長側は「無関係かどうかを決めるのは自分」と答えています。審理法第21条によると、委員長は文書の作成を強制し、宣誓の上で証拠を提出するよう命じることができます。6月1日、政府がハレット委員長からの情報提出命令の合法性を問う、司法審査の判断を仰いでいることが分かりました。政府が無修正のWhatsApp情報の提出にかたくなな態度を取るのは「前例を作りたくないからではないか」という見方があります。


同2日、ジョンソン氏は内閣府にはすでに提出していた「無修正のWhatsAppの情報全てを公聴会に出したい」と述べて、現政府の姿勢との温度差を示しました。ただ、この情報は2021年5月からの記録のみで、COVID-19感染拡大から1年以上後になります。というのも、ジョンソン氏がその前に使っていた携帯電話の番号は長年公にされていたため、安全保障の専門家から保安上の理由で今後使わないように言われ、21年春から使用をやめていたのです。ジョンソン氏はハレット委員長に宛てた書簡の中で、官邸に安全保障上の危険を発生させない形で情報を取り出すことはできないかと問い合わせていることを明らかにしました。また、手帳についてはすでに内閣府に提出しており、これを委員長に渡すように依頼しているそうです。もし渡っていない場合、一旦自分の所に戻し、その後直接委員会に提出する意向も示しました。高等法院での司法審理の開始は6月末ごろといわれています。

もし委員長の証拠提出令が違法となれば、調査委員会の存在意義が大きく損なわれることを意味します。COVID-19で家族を失った人にとっては歯がゆい状況が続いています。

キーワード

Covid-19 Inquiry(Covid-19 調査委員会)

正式名称は「UK Covid-19 Inquiry」。政府が設置したが、政府とは独立した組織として政府、医療、ケア関係者や遺族などから証拠を集めて調査を行う。スコットランドでも自治政府によって独自の調査委員会が設置されており、二つの委員会が協力することになった。公聴会は委員会のユーチューブでストリーミングされ、書き取り内容がウェブサイトhttps://covid19.public-inquiry.uk/に掲載される。

 

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