Tue, 30 April 2024

小林恭子の
英国メディアを読み解く

小林恭子小林恭子 Ginko Kobayashi 在英ジャーナリスト。読売新聞の英字日刊紙「デイリー・ヨミウリ(現ジャパン・ニュース)」の記者・編集者を経て、2002年に来英。英国を始めとした欧州のメディア事情、政治、経済、社会現象を複数の媒体に寄稿。著書に「英国メディア史」(中央公論新社)、共著に「日本人が知らないウィキリークス」(洋泉社)など。

6月21日から25日まで、世界最大規模の野外音楽祭「グラストンベリー・フェスティバル」が英南西部サマーセット州ピルトンで開催されました。最終日に登場したのが、国民的ロック歌手エルトン・ジョンです。この日は引退ツアーの最後の日でもあったので、聴衆にとってもミュージシャン自身にとっても格別に思い入れが深いコンサートとなりました。BBCテレビでこのコンサートを視聴した人は700万人を超え、昨年の同音楽祭に登場したポール・マッカートニーのときの3倍だったそうです。この音楽祭は、一般的には「グラストンベリー」と略して呼ばれていますよね。英国の初夏の風物詩となっているグランストンベリーが終わると、いよいよ本格的な夏の始まりです。


最初の音楽祭が開催されたのは、1970年。ピルトンのワージー農園の持ち主マイケル・イービスが当時開催されていたいくつかの野外音楽祭にヒントを受け、自分でも小規模ながら開催してみたいと思ったそうです。最初の音楽祭には1500人が集まり、チケットは1ポンド。ロック・バンドのキンクスやTレックスなどが演奏しました。71年からは近隣の町グラストンベリーにちなんで「グラストンベリー・フェスティバル」と名付けられ、年を追うごとに聴衆の数が増え、アーティストの幅も広がっていきました。1994年にチャンネル4が放送を開始し、この年以降、現地に行けなかった人もテレビでコンサートを楽しめるようになりました。

フェスティバルはワージー農園に設置された、約3平方キロメートルが会場となり、20万人以上がバス、電車、キャンピング・カー、自転車などを使って音楽を楽しもうとやってきます。野外コンサートのため、年によっては雨が降ることもあり、長靴は欠かせない必需品になります。敷地内にテントを張って宿泊する人、泥が付いた長靴を履いて歩く著名人などが連日、新聞紙面を飾ってきました。この音楽祭は1960年代の「ヒッピー文化」を色濃く反映しています。ヒッピー文化とは、米国で既存の道徳観や生活様式に反抗し、長髪とひげをたくわえ、サイケデリックなロックを聴き放浪した人々の文化で、世界中に広がりました。野外で気取らない格好で、ロックを自由気ままに楽しむのが当時からこの音楽祭のスピリットです。

しかし、当初は1ポンドだったチケットは今年は335ポンド(約6万1000円)に。5日間全て参加する場合です。このほかに予約料として5ポンドがチャージされます。昨年は265ポンドだったので、26パーセントもの大きな増額となってしまいました。物価の高騰や新型コロナの発生で2年間、開催できなかったことで増額に踏み切らざるを得なかったそうです。

チケット代には3000を超えるパフォーマンスへのアクセス、キャンプ代、ミニガイド、専用アプリ、新聞、子ども用の娯楽施設「キッズ・フィールド」の利用、オックスファムなどの慈善施設への寄付代、インフラ支援、環境負荷対策などが含まれています。


1990代以降チケットを持たずに会場に入る人が多くなり、運営側は会場を囲むフェンスの補強を行ってきました。ヒッピー文化の名残、反体制のスピリットを持つグラストンベリーですが、近年は著名人の庶民度を測るものさしという様相が出てきたように筆者は感じています。2016年、労働党のジェレミー・コービン党首(当時)はグラストンベリーに参加し、同党の好感度を上げました。一方、与党保守党の党首だったデービッド・キャメロン氏はグラストンベリーを「いつも家のテレビで暖をとりながら見ている」と発言し、「夏開催なのに?」「暖炉?」と失笑を買いました。現在の高額チケット代を考えると、グラストンベリー・フェスティバルは若者にとっては高値の花になりつつあるように思うのは筆者だけでしょうか。

キーワード

Glastonbury Festival(グラストンベリー・フェスティバル)

正式名称は「コンテンポラリーなパフォーミング・アーツのグラストンベリー・フェスティバル」(Glastonbury Festival of Contemporary Performing Arts)で、子どもから大人まで楽しめる野外音楽祭。秋にチケットの販売が開始される。今年6月25日の最終日、「ピラミッド・ステージ」でエルトン・ジョンとデュエットしたのは日本人ミュージシャンのリナ・サワヤマだった。

 
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