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Wed, 24 July 2024

小林恭子の
英国メディアを読み解く

小林恭子小林恭子 Ginko Kobayashi 在英ジャーナリスト。読売新聞の英字日刊紙「デイリー・ヨミウリ(現ジャパン・ニュース)」の記者・編集者を経て、2002年に来英。英国を始めとした欧州のメディア事情、政治、経済、社会現象を複数の媒体に寄稿。著書に「英国メディア史」(中央公論新社)、共著に「日本人が知らないウィキリークス」(洋泉社)など。

アサンジ被告の米国移送に「待った」
英国裁判所、身柄引渡しへの異議申し立てを認める

内部告発サイト「ウィキリークス」のことを覚えていらっしゃいますか。オーストラリア出身のネット活動家ジュリアン・アサンジ氏(Julian Assange)が、匿名で政府や企業などの機密情報を公開する場所として立ち上げたサイトです。2010年、ウィキリークスは米陸軍情報分析官ブラッドリー・マニング氏(現在はチェルシー・マニング氏)がリークした情報をもとに、アフガニスタン戦争やイラク戦争に関わる大量の米軍機密文書や米国の外交公電を公開しました。数万点から数十万点に及ぶ情報のリークは「メガリーク」と呼ばれ、米国の「ニューヨーク・タイムズ」紙や英「ガーディアン」紙など国際的な大手報道機関と公開時期を合わせ、大々的に報道されました。米政府は、機密暴露は「国家の安全保障を危うくする」「人命に危険が及ぶ」などと非難しましたが、アサンジ氏は報道の自由の実践者として高い評価を受けました。


でも、2010年夏、アサンジ氏のスウェーデン滞在時に性的暴行容疑事件が発生します。同年11月までに国際刑事警察機構による国際手配に発展。12月、英国にいた同氏は警察に性犯罪容疑で逮捕されてしまいます。スウェーデン当局はアサンジ氏の身柄移送を求めましたが、アサンジ氏側はスウェーデンから米国に移送される恐れがあるとしてこれを拒絶。12年5月、英最高裁がスウェーデンへの移送判断を下すと、翌月、同氏は「政治的亡命者」として在英エクアドル大使館に居住するようになりました。筆者の観察では、このころからメディアや支持者たちのアサンジ氏に対する疑念が広がっていったように思います。性犯罪の容疑があるというだけで懸念が生まれ、スウェーデンに行って無罪を主張するべき、逃げているだけではないかという見方が出てきました。19年4月、ロンドン警視庁はアサンジ氏が先の性犯罪容疑に関連して「保釈中の規則を破った」という理由でエクアドル大使館内にいた同氏を逮捕します。同年秋、スウェーデン当局は性犯罪容疑の捜査を停止すると発表しましたが、現在も同氏はロンドン南東部のベルマーシュ刑務所に収監されています。一部の英メディアはアサンジ氏を「被害妄想を持つ奇人」という扱いで報道するようになりました。

今回焦点となっていたのは、アサンジ氏が米国に移送されるかどうか。19年5月、米司法省は同氏を機密漏えいなど18の罪状で起訴しています。米国側は英国にアサンジ氏の身柄引き渡しを求め、21年には高等法院が引き渡しを認めました。英政府も翌22年にこれを追認して移送が決まりました。アサンジ氏の弁護団は将来、反逆罪やスパイ罪など死刑が適用される罪状で、米国が同氏を起訴する恐れがあるとして引き渡しに抵抗してきました。今年3月に高等法院は、引き渡しをめぐって米政府に対し、同氏に言論の自由があること、死刑に処さないことへの保証を要請しました。4月、米国側は上記の保証を裁判所に確約したものの、翌5月20日、高等法院はアサンジ氏に対し、英国に留まって追加の裁判を行うことを認める決定をしました。これによって、弁護団には米国側の保証に異議を唱える機会が与えられたことになります。米当局側はアサンジ氏が機密書類の中の情報部員の名前を消さなかったので、「人命を危険にさらした」と主張してきましたが、アサンジ氏側は否定。これも争点となるかもしれません。


メガリークから14年が経ちました。情報リーク者となったマニング氏は機密情報を漏えいした罪で2013年に35年の禁固刑の判決を受け、服役。大統領恩赦によって減刑され、17年1月に釈放されました。英刑務所に収監中のアサンジ氏が機密漏えいなどの罪で米国への移送を求められている一方で、リーク情報を基にウィキリークスと協力し暴露記事を掲載した大手新聞の編集長が何らかの罪に問われたという話を聞きません。腑に落ちない思いを抱く筆者です。

キーワード

Julian Assange(ジュリアン・アサンジ)

1971年、オーストラリアのクイーンズランド州生まれのインターネット活動家、ジャーナリスト。2006年、内部告発サイト「ウィキリークス」を創設。22年、弁護団の1人だったステラさんと結婚し、2人の子供をもうけた。オーストラリアに住む父ジョン・シップマン氏や異母兄弟ガブリエルさんもアサンジ氏の釈放運動を熱心に続けている。

 

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