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Wed, 24 July 2024

小林恭子の
英国メディアを読み解く

小林恭子小林恭子 Ginko Kobayashi 在英ジャーナリスト。読売新聞の英字日刊紙「デイリー・ヨミウリ(現ジャパン・ニュース)」の記者・編集者を経て、2002年に来英。英国を始めとした欧州のメディア事情、政治、経済、社会現象を複数の媒体に寄稿。著書に「英国メディア史」(中央公論新社)、共著に「日本人が知らないウィキリークス」(洋泉社)など。

台風の目?ファラージ氏が総選挙に立候補
英国のEU離脱の立役者、今度こそ当選するか

いよいよ、総選挙の日が再来週に迫りました。連日、テレビのニュースやウェブサイトで選挙戦の様子が伝えられています。さて、今回の選挙で、もし1点だけ注目するとすれば、英国の欧州連合(EU)離脱のきっかけを作った、欧州懐疑派の政治家で右派政党「リフォームUK」(Reform UK)のナイジェル・ファラージ党首(60)が国会議員として初当選するかどうか、です。ファラージ氏は過去7回立候補しましたが、常に落選し、今回が8回目の挑戦となります。

ファラージ氏は英南東部ケントで生まれました。ロンドン南部にある私立校ダリッジ・カレッジで学んだあと、大学には進学せず、金融界に就職します。ロンドン金属取引所のトレーダーとなり、複数の金融機関で働きました。カレッジ在学中に保守党に入党。自由主義経済を信奉し、後に首相となるマーガレット・サッチャー氏に共鳴したといわれています。政治家になるきっかけは、1992年、保守党政権が欧州内の政治経済統合の推進を目的とするマーストリヒト条約を批准したときでした。ファラージ氏はこれに抗議して保守党を離党し、翌年、英国のEUからの離脱を求める「英国独立党」(UKIP)の創設メンバーの一人となりました。


1994年、初出馬の下院補欠選では落選しましたが、同年の欧州議会選挙では当選し、その後も5回当選を実現して2020年まで欧州議会議員(MEP)を務めました。06年にUKIP党首となり、歯に衣を着せぬ物言い、豪快な笑いとビール好きな同氏は、庶民に人気がある政治家になっていきます。

04年、旧東欧の10カ国がEUに加盟。新EU市民の流入に制限を設けなかった英国には多くの移民がやってきて、公的サービスが滞るようになり、「仕事を奪われる」と心配する国民も出てきました。こうした不安を拾い上げ、国民の気持ちを代弁してくれる政治家としてファラージ氏は支持者を広げました。UKIPも移民流入に懸念を持つ人、以前からEUの官僚機構に反感を持つ人、英国の歴史や文化に誇りを持つ人などを中心に、次第に支持基盤を拡大させます。主要政党がこうした懸念に正面から取り組もうとしないなか、14年の欧州議会選挙でUKIPは24議席を獲得し、第1党となりました。デービッド・キャメロン保守党党首(当時)はかつてUKIPを「狂人、変人、隠れ人種差別主義者の政党」と呼びましたが、ここまでくるともう無視できなくなりました。キャメロン氏は15年の総選挙で保守党が単独勝利したら、EU離脱か残留かの国民投票を行うと宣言します。これが現実化し、16年6月に国民投票が行われ、英国の有権者は離脱の道を選択。20年1月31日、英国はEUから完全離脱しました。

ファラージ氏は国民投票の結果が出て間もなく、UKIP党首を辞任しますが、離脱交渉に時間がかかることに嫌気がさし、18年11月には「ブレグジット党」(現「リフォームUK」)を立ち上げました。21年以降、ファラージ氏は政治の第一線から離れ、新設のテレビ局「GBニュース」の司会者としてのキャリアをスタートさせました。7月の下院選には出馬しないと言っていましたが、6月3日、突然、イングランド東部エセックスのクラクトン選挙区から立候補すると宣言しました。


下院選ではこれまでに何度も落選しているファラージ氏ですが、人気が下降するばかりの与党保守党にとって、保守党に入るはずの票がファラージ氏に吸い取られる可能性があり、大きな脅威になるといわれています。ただ、同氏を庶民の代表として支持する人がいる一方で、人種差別主義者として嫌う人は少なくありません。遊説中に物を投げつけられたことが何回もあります。それでも、ひょっとすると、ひょっとするかもしれません。いつの日か保守党に戻るともいわれており、今回の選挙の注目点であることは間違いありません。

キーワード

Reform UK(リフォームUK)

2018年、「妥協無しのEU離脱」を掲げて「ブレグジット党」として発足。後に現在の名称に改名。その政策は移民流入の凍結、小型ボートの航行停止、対外援助の半減、税金制度の簡素化、警察官の数を増やすなど。YouGovによる調査では、6月13日時点で有権者の37%が労働党に投票を意図し、これに19%のリフォームUK、18%の保守党が続いた。

 

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