安楽死法案、今回は可決されるか? - 2015年の下院議論では否決
「安楽死」というと、皆さんはどんなイメージを持ちますか? 広辞苑によりますと、「助かる見込みのない病人を本人の希望に従って苦痛の少ない方法で人為的に死なせること」を指し、英国では「Assisted dying」という言葉が使われています。患者の自発的な要求に応じて、医療関係者が患者への致死薬の提供に関与する状況を指します。医療関係者が患者が自己投与する致死薬を提供する「Assisted suicide」(自殺幇助)、あるいは医療関係者が投与する「Euthanasia](安楽死)はこれに含まれます。英国全体で後者の安楽死は許可されていません。イングランドとウェールズでは1961年自殺法によって、他者の自殺あるいは自殺未遂を奨励したり、支援したりすることは違法です。北アイルランドでは1966年犯罪正義法の違反になります。スコットランドでは自殺幇助を禁止する直接の法律はありませんが、1971年の薬事誤用法違反となるかもしれません。安楽死が合法なスイスなどに行って最後を迎える例が報道されてきましたよね。
ところが、法律が変わる可能性が出てきました。スコットランドでは成人の末期患者の安楽死法案が準備中です。また、10月16日、イングランドでも労働党議員キム・レッドビーター氏が安楽死法案を議会に提出する見込みです。2015年、下院に安楽死を合法にする法案が出されたのですが、このときは却下されてしまったので、再挑戦になります。キア・スターマー首相は「個人的には安楽死を支持する」と述べており、労働党自体はこの法案に中立の立場を取るそうですので、400人を超える労働党議員らは自由に票を投じることになります。
元BBCの司会者で肺がんの末期症状に苦しむエスター・ランツェン氏は安楽死支持者です。自分の人生を終えたいと思ったときに死ぬための援助を受けることは、人間としての尊厳を維持することだとランツェン氏は説明しています。一方、安楽死反対派の一人が元パラリンピック選手のタニ・グレイ=トンプソン氏です。安楽死にするかどうかの選択がどのように決められるかについて懸念があるからです。高齢者、障がい者などが「自分がいない方がよい」と考えてしまう、あるいはそう考えるように説得される可能性もあるでしょう。レッドビーター議員はそうならないようにする対策を設けることでリスクを回避できるとしています。法案の詳細については広い範囲の人から話を聞いた後で、「その人の意思に反して死を選ぶことがないようにする」そうです。詳細はまだ明らかになっていませんが、前回の法案では余命6カ月以下とされる末期症状の患者が死を選択するために医療的な支援を要請する形となっており、これに近いものになりそうです。
筆者は合法化に大いなる懸念を持つ方ですが、安楽死実現のキャンペーン組織「ディグニティー・イン・ダイイング」の3月の調査によると、英国に在住する人の75パーセントが安楽死を支持していました。支持の広がりを考慮して、スターマー首相は労働党議員に対し自由投票制にしたのかもしれません。
もし合法になれば、欧州ではスイス、オランダ、ベルギー、ルクセンブルグ、スペインに続くことになります。
10月5日付のBBCの記事ではポーリーン・マクロードさんの話を紹介しています、夫のイアンさんは難病を患い、昨年亡くなりました。病気のためにイアンさんは首がひどく痛み、話すことができなくなりました。食べ物のそしゃくや呼吸も困難な状態でした。薬の過剰摂取で死のうとしましたが、医療関係者が違法行為を犯したことになるのを避けるため、3週間食事の摂取を拒否して亡くなりました。イアンさんの人生の最後は満足のゆくものではありませんでした。ポーリーンさんは安楽死合法化に賛成しています。皆さんはどうお考えですか。
Assisted dying(臨死介助・安楽死)
医療関係者が致死薬の提供など患者の死期を早める状況に関与する状況。Euthanasiaともいう。これはギリシア語の「良い」(eu)と「死」(thanatos )から派生し、「良い死」の意味に。分類は多様で、「自発的安楽死」、自発的要請を欠く「非自発的安楽死」、患者の意思に反する「反自発的安楽死」のほかに治療の差し替えや中止も。