「脳が腐る」?「悪い奴」に新たな意味 - 2024年の流行語とは - オックスフォード、ケンブリッジ辞書などが選出
今年を振り返って、皆さんが最も印象に残った言葉は何でしょうか? 日本では12月2日に「2024ユーキャン新語・流行語大賞」(「現代用語の基礎知識」選)が発表され、年間大賞にはTBS系の連続ドラマ「不適切にもほどがある!」の略称「ふてほど」が選ばれました。
英国では複数の辞書出版社が今年の言葉(Word of the Year)を発表するのが恒例となっています。最も著名なのが、オックスフォード英語辞典を発行するオックスフォード大学出版局による選出です。かつては言語学者たちが選んでいましたが、3年前から一般市民による投票の要素を取り入れました。膨大な言語データの中から専門家が六つの候補を決め、これに投票を呼び掛けました。約3万7000人が参加し、最終的に選ばれたのは「brain rot」。直訳では「脳の腐敗」ですが、その意味は「人の精神および知的状態が悪化すること」で「特に、陳腐で深い理解を必要としないコンテンツを過剰消費したことによって生じる」そうです。昨年から今年にかけて、この言葉の使用率が230パーセント上昇し、「ソーシャル・メディアを中心とした、低レベルのコンテンツの影響に懸念が生じている」ことを示すのではないかと分析されています。ネット時代の新語のように思えますが、19世紀の米作家・思想家ヘンリー・デービッド・ソローが自然の中の生活体験を書いた「ウォールデン 森の生活」(1854年)ですでに使っています。当時の社会が複雑な思考を低く評価しがちであるのは、精神的および知的努力の衰退を示すものとし、「脳の腐敗を治そうと努力すべきではないか」と主張しました。オックスフォード大学出版局によると、ソーシャル・メディアが人気な今、「brain rot」はオンラインのコミュニティーの中でユーモラスにあるいは自虐的に使われることが多く、代表的なコンテンツにトイレと人と顔のアニメ画像を組み合わせた動画「Skibidi Toilet」や米オハイオ州の奇妙な出来事につくミーム「Only in Ohio」など。ちなみに「Skibidi」とは「無意味なこと」を指し、語源には諸説あります。
さて、ケンブリッジ辞書の出版社が今年の言葉として選んだのは「manifest」です。通常は形容詞「明白な」、動詞「明確にする」という意味のほかにカタカナ表記で「マニフェスト」では政党などが公表する政策方針や目標を明示した文書を指しますよね。最近は「自分の望む結果を強く思い描くことで、それが現実になると信じる」ことを指すようになったそうです。著名シンガーのデュア・リパやスポーツ選手などが使って広まりました。
コリンズ辞書が選んだのは「brat」です。これまでは「悪ガキ」、成人に使われると「悪ガキのような奴」を意味しましたが、同時に「クール」「いけてる」という前向きな形容詞としても使われてきました。ロンドンのダンス・ミュージックのアイコンとなったチャーリー・XCXが今年6月、新アルバム「Brat」を出してから、急速に脚光を浴びています。
コリンズは「自信に満ち、独り立ちし、享楽的な態度を持つこと」と定義しています。これだけではちょっと分かりにくいですね。チャーリー・XCX本人によると、「挫折をしてもパーティーになんとか最後まで参加する」女性で、正直でそっけなく、「少し不安定な人」の意味だそうです。見た目でいうと、「安いライターとたばこの箱を持ち、ブラをつけずに白いキャミソール・トップを着ている」女性。フェミニンで身ぎれいな「クリーンな女性」のタイプを拒絶し、家で充実した生活を営むよりも音楽イベントやパーティーに出掛ける方を楽しむ、反抗精神を忘れない女性でしょうか。固定概念や周囲の意見に左右されず、自分らしく生きる人のイメージが湧いてきます。「パーフェクトでなくてもいい」「いろいろと辛いこともあっていい」「人生、楽しもうぜ」というメッセージが聞こえてくるようですね。
Word of the Year(今年の言葉)
その年の価値観やムードを代表する言葉や表現で、英国では辞書出版社が年末に発表するものを指すことが多い。オックスフォード大学出版局が選択した昨年の言葉は独特の様式、魅力を指す「rizz」。ケンブリッジ辞書は「hallucinate」を選び、「AIが幻覚を起こし、間違った情報を生み出す」という意味を持つようになったと説明した。