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Wed, 17 July 2019

第7回 お客様こそ神様です- 多国籍企業の租税回避問題

国際企業は株主利益のために納税コストをギリギリまで切り詰めるべきか、それともビジネスを展開するそれぞれの国の構成員 として応分の法人税を負担すべきなのか。

過去3年間、英国で計12億ポンド(約1600億円)の売上があったのに法人税を全く納めていなかったため、消費者から不買運動を起こされていた世界的なコーヒー店チェーン、スターバックス英国法人のクリス・エングスコフ最高経営責任者は12月6日、今後2年間は利益の有無に関わらず1 年につき法人税として約1000万ポンド(約13億5000万円)を納めると発表した。

クリントン米大統領の側近だったエングスコフ氏は、スターバックスが租税義務を回避していたことを認めたわけではないと 断った上で、「消費者の声に耳を傾けた結果」「創業の精神に立ち返った」と自発的な納税理由を説明した。しかし、アレクサンダー主席財務相(自由民主党)は「大企業に対しても社会のいかなる構成員に対しても税金を自発的な条件で決めることはできないし、そんなことはあってはならない」と税法に基づかない決着に批判的な見方を示した。

 

スターバックス騒動の始まりは、10月に報じられたロイター通信のスクープだった。スターバックスは1998年に英国に進出、累計で30億ポンド以上の売上があったにもかかわらず、課税対象となる利益が発生した年は1年しかなく、納めた法人税はわずか860万ポンドだった。スターバックスが法人税を圧縮していた手口とは。

(手口その1)同英国法人はコーヒー一杯の代金の6%の知的財産使用料をオランダの会社などに払っていた。
(手口その2)コーヒー豆をスイスの会社から購入、法人税が英国の約半分のスイスに利益を移していた。
(手口その3)グループ内の融資の際、同英国法人はロンドン銀行間取引金利(LIBOR)に4%を上乗せした利息を支払っていた。ちなみにファストフード・チェーン、ケンタッキーフライドチキンのグループ内の利払いはLIBORに2%を上乗せ、同マクドナルドはLIBOR以下だった。

複数の国にまたがって活動する多国籍企業の場合、子会社や関連会社との取引を利用して、法人税の高い国で経費を計上し、タックス・ヘイブン(租税回避地)や法人税の低い国で所得を申告する租税回避行為が日常的に行われている。

税金を含めコストをギリギリまで切り詰めて国際競争を勝ち抜き、最大限の利益を上げることこそが株主から委託された経営者の責務だという考え方が米国では定着している。

これに対して、各国の税務当局は法人税を取り損なわないよう、不当な価格でグループ内の取引を行って利益を法人税の低い国に移転させる行為に目を光らせており、他企業と取引を行った場合と同じ価格でグループ内の取引を計上するよう求めている。しかし、知的財産やサービスといった無形資産が取引されるようになり、価格の算定が難しくなった。

各国政府とも雇用を確保するため、できるだけ法人税率を引き下げて多国籍企業が自分の国で法人所得を申告し、法人税を納めるよう促している。しかし、世界金融危機の後、財政再建を強いられている欧米諸国は、法人税率を引き下げて、代わりに所得税や付加価値税(日本の消費税に相当)を引き上げるか否かのジレンマに陥っている。

 

租税回避行為が指摘されているのはスターバックスだけではない。アップル、グーグル、アマゾン、フェイスブックに続いて、コカ・コーラ、米半導体メーカーのインテルなどが次々と俎上に挙げられ、米多国籍企業への批判はドイツ、フランスにも広がった。いずれも合法的な節税行為のため、下院決算委員会のマーガレット・ホッジ委員長(労働党)は「これは法律ではなく、モラルの問題だ」と指摘。所得税や付加価値税を負担させられている消費者は、法人税を納めていなかったスターバックスを許さず、不買運動を起こした。

役員にとって怖いのは株主かもしれないが、企業にとって大切なのはお客様だという基本をスターバックス騒動は教えている。しかし、他の企業がスターバックスの例を見習うかどうかは、また別の問題のようだ。

 
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木村正人氏木村正人(きむら・まさと)
在英国際ジャーナリスト。大阪府警キャップなど産経新聞で16年間、事件記者。元ロンドン支局長。元慶応大法科大学院非常勤講師(憲法)。2002~03年米コロンビア大東アジア研究所客員研究員。著書に「EU崩壊」「見えない世界戦争」。
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