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Sun, 22 December 2024

第2回 Cowley - Kings Langley
大混雑のパブで夕食にありつく

16 September 2010 vol.1267

カヌー旅行の航路 - Kings Langley

自分で開けたロックに感激

6月26日。さあ、ロック(閘門 -こうもん-)の扉を開こう。期待を込めて、その開閉に必要な「ウィンダラス」と呼ばれる道具を差し込んだ。安全装置の歯止めを外して、ハンドルを回す。恐る恐るだが、順調に進んだ。だが、ロックを開けるためのもう一つの道具である、バランス・ビームは手強い。この50センチ角の木製のてこ棒は、初動をかけるのに全力が必要だ。両足を踏ん張り、腰で押してなんとか開いた。この間、約30分。自分自身でロック・ゲートを開いて越えていくなんて、感激である。ちなみに、アムステルダム〜パリ〜マルセイユを渡った欧州大陸縦断のルートでは332個のロック(フランス語ではエクルーズ)を越えてきたが、開閉はすべてロック・キーパーが手動または全自動でやってくれた。カヌーを通してくれない所も数多くあった。

ところでロックはどんな仕組みになっているのか、下の写真で説明しておく。①下流扉を開き、カヌーを閘室(こうしつ)内に入れる。②下流扉を閉じる。③上流扉を徐々に開き、閘室内に注水する。カヌーは次第に浮上する。④上流の水位に達したら上流扉を開き、カヌーは前進する。入れ替わりにナロー・ボートが閘室内へ入る。⑤閘室内を排水し、ボートは出ていく。

こうして、最初のロックは通過できたのだが、今日の航程はこの先どれ程なのか(結果は19キロ)。静水であれば時速5キロとして進み具合が読めるのだが、この日だけで18カ所も存在したロックを越えるのに時間がかかったりするので、到着地は見当もつかない。

ロックの仕組みを示した模型。上流扉にナロー・ボート、下流扉の右側にカヌー 写真:吉岡嶺二
ロックの仕組みを示した模型。
上流扉にナロー・ボート、下流扉の右側にカヌー
写真: 吉岡 嶺二

老夫婦は何を考える

運河に並行して、トゥパス(側道)が切れ目なく続いていく。元々は馬が舟を引いて歩いた道なのだが、今はジョギングやサイクリングの道として、野越え山越えのクロス・カントリーのトラックになっている。それにしても、人家もまばらなこんな場所に、老夫婦が仲睦まじく歩いていたり、恐らくは長い間変わらぬ姿勢で座っている人などがいる。彼らは一体何を考えているのだろうか。あくせくと動いている日本人にはとても考えられないスロー・ライフを実感しながら過ぎていった。途中に水車小屋だったという建物も見えてくる。当初は紙すきの水車だったのだが、その後、舟の底板に張る銅板を作る水車に変わったという説明板が立っていた。

ラムのパイで1日を終える

18番目のロックを越えた所で、夜の7時になった。手元の地図にあるビールのグラスや受話器の絵は、近くにパブや公衆電話があることを意味している。あらかじめマークしておいた候補地でもあるから、まだ日は高いが、今日はここまでだ。前日同様、ロックの横にある芝生を寝床とするのが良さそうだ。

早速にお目当てのパブに繰り出した。まだ慣れないパブには、意気込みをつけていかなければ入れない。ロンドン滞在中にも体験したのだが、入り口を立ち塞ぐ群集をかき分けてビールにありつくには相応の勇気がいる。ましてやサッカーのW杯開催中で、店頭は熱気むんむんの大混乱。おかげで大苦戦をしてしまった。当地のパブはこの店1軒だけなのか、仕事を終えた近在の人たちが集まってくるのだろう、駐車場は満杯だった。それでもなんとか室内のテーブル席に座って、まずはカスク・エールを注文する。食事は、メニューをにらみつけるようにして選んだラムのパイ。パイはパブ・メニューの定番だという。さすがにビールとよく合う、納得の味だった。


 

吉岡 嶺二(よしおか・れいじ)
1938年に旧満州ハルビンに生まれる。早稲田大学卒業後、大日本印刷入社。会社員時代に、週末や夏休みを利用して、カヌーでの日本一周を始める。定年後は、カナダやフランス、オランダといった欧州でのカヌー旅行を行っている。神奈川県在住。72歳。
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