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Mon, 23 December 2024

育自の時間。親と子を育てる英国の学校

2002年に画家の夫とともに当時7歳の息子を連れてイングランド南西部コッツウォルズ郊外に移住。現地の小学校から大学受験までを実体験した母親の目から英国教育を見つめます。


第02回 子連れ旅行で知った教育格差

「子供の教育はカントリーサイドよ」という、親切でおせっかいな英国人たちのアドバイスを忠実に守った結果、息子の転校先はコッツウォルズ郊外の村にある、全校生徒60人ほどの小さな小学校に決まりました。

では、なぜカントリーサイドが子供の教育のために良いのか、ここで当時の英国人たちの主張(?)を分析してみましょう。

私たち家族が1999年に敢行した、3カ月にわたる英国縦断旅行で出会った英国人の大多数は、ごく一般的な「労働者階級」の人たちでした。「労働者階級」という響きは日本人としてはやや抵抗を覚えますが、ここで言うところの「労働者階級」とは、要は高額な授業料が必要な私立校や、ロンドンの高級住宅地にあるような「優良な」公立校へ子供を通わせることはないけれども、良識があり、休日にはガーデニングやバーベキューなどを楽しむ、贅沢ではないものの、それなりに英国らしいゆとりある生活を送っているファミリー層や、リタイアした人たちです。

彼らのアドバイスをもう少し詳しく説明すると、大都市圏はもちろん、大きな市街地の中心地にある大規模な公立校より、できれば田舎の小規模な公立校のほうが子供の教育にはベターであるということでした。

実は私と夫は移住する前年の2001年、英国で日本文化紹介を目的とした大規模な交流事業に参加し、その一環として全国各地の小学校に赴きワークショップを行いました。訪問した小学校はロンドン中心地の学校から、地方の小さな村にある学校まで様々。このワークショップは近年まで続き、これまで訪問した学校数は公立、私立ともに数十校に上ります。そうした自らの体験も踏まえたうえで言えることは、学校施設の充実度や先生方の教育熱心な姿勢は、都会もカントリーサイドも大きな格差はありませんが、違いは生徒の多様性です。

ロンドンは白人の英国人(ホワイト・ブリティッシュ)が、人口の50%以下という統計が発表されて既に数年が経ちますが、マンチェスターやバーミンガムなどの大都市圏の学校を訪れると、移民の子供やその子孫たちが大多数を占めています。その善し悪しは別として、私たちにアドバイスした英国人たちは、それは芳しくない教育現場だと判断していたのでしょう。そうした学校に、例えば英語を十分に理解できない子供が転入するとどうなるか……。英語もたどたどしいアジア人の親子3人(つまり私たち家族)と接し、親切な英国人には余程頼りなさそうに映ったのでしょう。

こうして全校生徒がすべてホワイト・ブリティッシュという小学校へ転校した息子。息子も私たち親も、新たなカルチャー・ショックが待ち受けていようとは、当時は想像すらしていませんでした。

ナショナル・トラストのガーデン「Stourhead」で開催した墨絵ワークショップ
世界的に有名なナショナル・トラストのガーデン「Stourhead」で開催した墨絵ワークショップでのひとコマ。ワークショップを通じて、英国中の何千人もの子供たちと接することができた

 

小野まり小野まり NPO法人ナショナル・トラストサポートセンター代表。2002年、画家で夫の小野たくまさ氏とともに当時7歳の一人息子を連れコッツウォルズ郊外へ移住。現地の小・中・高等学校、大学受験を母親の立場として体験。教育関連の連載エッセイやナショナル・トラスト関連の著書多数。最新刊に「図説 英国ナショナル・トラスト (河出書房新社)」がある。
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