最終回 巣立ち
外国育ちの子供が日本社会、すなわち日本の企業に入り、活躍できるのか。海外で子育てをしている親の目から見ると、「グローバル化を進めている日本企業には、ネイティブ並みに英語が話せる我が子のスペックは高いに違いない」と思ってしまいますが、そんなに甘いものではないことを、息子の日本での就職活動に触れて思い知らされました。
バイリンガル児を持つ母親が望む子供の就職先は、日本の親御さんと同様、一般的に名の知れた一流企業が多いように思います。しかしながら、そうした一流企業には、何万通もの応募がオンラインを通じて殺到する時代。日本の新卒採用制度は、学生のポテンシャルだけで判断する、英国にはない良い制度だと思いますが、海外からの留学生にとっては、これがときにマイナスとなってしまう現実があります。
留学生にとっての壁の一つは、インターネットによる適正検査です。大量の応募者の能力を見極めるために、現在は1万社以上が導入しています。その試験内容は、性格と知能・学力の2領域を測定するものですが、当然ながら日本人と変わらない高い日本語能力が必要です。英語での学位コースには、日本語を学ぶ授業ももちろんありますが、あくまでも補助的な存在なため、優秀な学生でも高度な日本語力を習得できるほどの時間はありません。
また、外国人留学生が留学生ビザから日本の就労ビザへ切り替えるためには、大学で学んだ専攻と就職先の業務が、関連性を持っていることが認定要件の一つとなっています。こうした条件も、「日本で働きたい」と思っている留学生にとって障壁となっているそうです。
なお、ホームページ上で「留学生枠」を設け、外国人留学生ウェルカムと門戸を広げているように見える企業でも、実際に息子が問い合わせてみると、日本人と同じ新卒採用枠での応募に限るという回答がほとんどでした。近年では日本で学び、できれば仕事をして暮らしてみたいと思う外国人学生が多くなっているだけに、この現実は残念なことです。
とはいえ、サバイバル方法もあります。近年、日本でも盛んに行われるようになっている「インターンシップ」です。大学2年次に、希望の業種や企業のインターンシップに参加し、その時点で優秀な人材と判断されれば、企業から声を掛けられる場合も少なくありません。
留学経験者や外国人学生向けの就職セミナーへの参加も、通常の選考とは異なる採用方法で決まることがほとんどです。息子も、インターンシップや就職セミナーで、複数社の内定を得ることができました。
ようやく巣立ってくれるわけですが、日本特有の企業文化に、「英国育ち」が果たしてなじめるのか。そのご報告は、また数年後にできればと思います。
国際色豊かな学友たちと息子(写真左端)の卒業記念写真