現在、とあるホテルがレコード業界の注目を一身に集めている。その名は「ハボ・ホテル」。なんと人気ロック・バンドのU2が、新作アルバムのプロモーション活動の一環として同ホテルのバーでパブ・クイズを開催するというのだ。
といっても、このホテルの住所は仮想3D空間にしか存在しない。宿泊客は皆、登録ユーザーの好みに合わせてカスタマイズされた「アバター」と呼ばれるキャラクターたちだ。つまりU2メンバーのボノやジ・エッジたちも、アバターとなって登場する仕掛けである。
ハボ・ホテルはフィンランドの会社スラケ・コーポレーションが開発したオンライン上の仮想空間。ユーザーは自分の分身であるアバターを動かし、ホテル内を自由に歩き回る。そこでは部屋を借りたり、他のユーザーと会話をしたり、さらには自分の店を出すことさえも可能。ユーザー数は英国内だけで80万人に上り、その多くが11歳から18歳までの少年少女だという。
このホテルの存在に目をつけたのがレコード業界。なにしろCDの売上高に大きく貢献する10代の若者は、業界の主要ターゲットだ。彼らへのアプローチ方法に四苦八苦していた業界にとって、まさにその年代のユーザーが集まる3D空間は格好のPRチャンスといえる。英国の若手ポップ・グループ、マクフライのメンバーたちも、アバターを通して若者たちと交流することでさらなるファン層を広げている。
そんな風潮の中、今やロック界では大御所と呼べる存在のU2さえもハボ・ホテルに足を踏み入れることになった。若者たちがもはや音楽雑誌やライブ番組といった既存メディアでは満足しないという現実に対して、レコード業界のマーケティング戦略が大きく方向転換しているのが見て取れる。デーモン・アルバーンによる仮想バンド、ゴリラズが05年に同ホテルで「ライブ」を行ったのも記憶に新しい。
現在、ハボ・ホテルを利用しているユーザーの数は世界27カ国のおよそ700万人。ちなみにこのホテルでは日本語も通じる……のではなく、日本語版も存在する。日本版サイトでは「Habooホテルってなに?」というお子様口調でお出迎え。年配の宿泊客にはやや肩身が狭い、気がしなくもない。
「Spiegel 」紙 "Lust auf lovely Deutschland"
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