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英国ニュース解説

最終更新日:2012年9月26日

北アイルランド自治政府首相夫人に不倫・金銭スキャンダル

北アイルランド自治政府に衝撃
首相夫人に不倫・金銭スキャンダル

北アイルランド自治政府の首相が今月初旬、妻の不倫と自殺未遂を告白した。その数日後に放映されるBBCのテレビ番組 でこれらの事実が暴露されることを見越し、先手を打って告白に踏み切ったのである。番組で明らかにされた内容はあまりにも衝撃的であり、北アイルランドの政界を揺るがした。

アイリス・ロビンソン・不倫・金銭スキャンダル関係者

アイリス・ロビンソン Iris Robinson

1949年ベルファスト生まれ。クリガー・テクニカル・カレッジ卒業後、秘書として働く。70年、ピーター・ロビンソン氏と結婚。89年、北アイルランドのカッスルリー市(Castlereagh)でプロテスタントの強硬派、民主統一党(DUP)から地方選挙に出馬、当選。92年には同市地方議会の初の女性議長となる。98年、ストラングフォード(Strangford)選挙区から北アイルランド自治政府議会選挙に出馬、当選。更に2001年、やはりストラングフォード選挙区から英国下院総選挙に出馬、アルスター統一党(UUP)の現職候補を破り、当選を果たす。これまで、DUPの保健問題担当広報官、北アイルランド自治政府議会の保健委員会委員長などを務めた経験がある。

今回のスキャンダルを受け、DUPから党籍を剥奪された上、下院議員、北アイルランド自治政府議会議員、地方議員のすべてのポストから退いた。不倫問題が原因でうつ病を患い、昨年12月の時点で既に政界引退の意向を明らかにしていた。

ピーターさんとの間に息子が2人、娘が1人いる。08年6月、ラジオ番組で、同性愛は「恥ずべき行為」であり、同性愛者はカウンセリングによって「矯正」できるという趣旨の発言を行い、強い非難を浴びたことがある。

ピーター・ロビンソン Peter Robinson

1948年、ベルファスト生まれ。カッスルリー・カレッジ(現ベルファスト・メトロポリタン・カレッジ)卒業後、不動産会社で働く。71年、イアン・ペイズリー氏らと共にDUPを結成。政治に興味を持ったきっかけは、カトリック系武装組織アイルランド共和軍(IRA)による爆弾事件で友人が死亡したことだったという。77年、カッスルリー市でDUPから地方選挙に出馬、当選。79年、ベルファスト・イースト(Belfast East)選挙区から英国下院議員選挙に出馬、当選を果たす。80年、DUPの副党首に就任。98年、同じくベルファスト・イースト選挙区から北アイルランド自治政府議会選挙に出馬、当選。同自治政府では、地域開発相、金融・人事相を歴任。

頭の切れる戦略家として知られ、DUPの選挙キャンペーンで指揮役を担ってきた。DUPの初代党首だったペイズリー氏の忠実な右腕として活躍し、ペイズリー氏の引退を受けて2008年6月、同党の党首及び北アイルランド自治政府首相の座を引き継いだ。

カーク・マカンブリー Kirk McCambley

アイリス・ロビンソンさんの元愛人。ベルファスト東部で肉屋を経営していた父親がアイリスさんと親友だった。2008年2月に父が癌で死亡した後、自分の面倒をみてくれるようになったアイリスさんと恋愛関係になった。小学生の頃から父の肉屋の手伝いをしており、店を訪れるアイリスさんをたびたび見かけていたという。現在21歳。アイリスさんの援助でベルファスト市内にカフェを開業したが、その後間もなく関係を解消した。

フレッド・フレイザー、ケン・キャンベル 
Fred Fraser、Ken Campbell

マカンブリー氏のカフェ開業資金を提供した2人の不動産業者。それぞれ2万5000ポンド(約365万円)ずつを提供した(フレイザー氏はその数週間後に死亡)。フレイザー氏は北アイルランドの不動産業界の大物として知られていた。キャンベル氏は、北アイルランド・ダウン市で不動産業を営んでいる。BBCの番組では、「2万5000ポンドのうち、5000ポンドがまだマカンブリー氏から返済されていない」というキャンベル氏のコメントが紹介されていた。

セルウィン・ブラック Selwyn Black

アイリス・ロビンソンさんの元政治アドバイザー。過去にメソジスト教会の牧師、英空軍付き牧師などを務めたことがある。現在はアルスター大学講師。アイリスさんの今回のスキャンダルを告発した人物。アイリスさんの政治アドバイザー職を辞したのは、このスキャンダルを世間に暴露するためだったという。BBCの番組では、アイリスさんが、カフェ開業資金の返済についてブラック氏に何度もテキスト・メッセージを送り、相談していたことなどが明らかにされた。

友人の息子と恋愛関係に

BBCは今月初旬、北アイルランド自治政府のピーター・ロビンソン首相(61)の妻で、自らも政治家であるアイリスさん(60)の金銭・不倫スキャンダルに関する調査報道番組を放送した。番組の内容の大半は、昨年末までアイリスさんの政治アドバイザーを務めていた男性の告発に基づいたものだった。

この番組によると、2008年2月、アイリスさんの友人だった肉屋経営者の男性が病死。アイリスさんは、友人との生前の約束通り、当時19歳だった彼の一人息子の面倒をみるようになったが、間もなく2人の関係は性交渉を含む恋愛関係に発展した。

夫に不倫を知られ自殺未遂

同年6月、アイリスさんが地方議員を務めている北アイルランド内の自治体が、新プロジェクトとしてカフェの経営者を公募。アイリスさんは、今や愛人となった40歳年下の青年にとって良い機会だと考え、知り合いの不動産業者の男性2人から計5万ポンド(約730万円)の資金を調達、青年に譲渡した。同年7月、同プロジェクトの選考が行われ、青年は、必要な条件を満たしている唯一の応募者であると判断され、カフェの経営者に選ばれた。

しかし同年秋、2人の関係は終わり、アイリスさんは青年に、彼女が調達したカフェの開業資金を返還することを要求(その後、青年はカフェの権利の一部を売却し、売却金で5万ポンドのうち4万ポンドを返済した)。09年3月、ロビンソン首相は、妻が青年に宛てて書いた手紙を発見し、不倫の事実を知る。翌日未明、アイリスさんは自殺未遂。同年12月、アイリスさんは、うつ病のため政界を引退する意向を明らかにした。

夫は金銭取引を知らなかったと主張

アイリスさんは、不動産業者からの資金について英国下院及び北アイルランド議会に報告する義務があったが、これを怠っていた。また地方議会で、カフェのプロジェクトへの金銭的関与を明らかにしなかったことなどで、地方議員の行動規範に違反した。今月21日には、アイリスさんの金銭取引について警察が刑事事件として捜査を開始したことが伝えられている。

一方、ロビンソン首相については、妻の金銭取引について知っていたにも関わらず、当局に報告しなかったことで、北アイルランド自治政府の大臣規範に違反したとされている。しかし首相は、金銭 取引については知らず、非難されるべき点はないとして、英国下院及び北アイルランド議会の議員の倫理基準に関する委員会に対し、行動規範に違反したかどうか調査するよう、自ら要請した。同氏は同時に今月11日、家族の問題に対処するためとして、6週間、首相職を離れることを明らかにした。

政界きってのパワー・カップルと称された夫婦だったが、ソープ・オペラさながらのこのスキャンダルで、すっかり顔を潰した。ちなみに、年配の女性と年下の男性の不倫と言えば映画「卒業」が有名だが、偶然にもヒロインの女性がアイリスさんと同じ「ロビンソン夫人」だったことから、今回のスキャンダル発覚後、北アイルランド各地のラジオ局には、サイモン・アンド・ガーファンクルが歌った同映画の挿入歌へのリクエストが殺到したそうである。

Democratic Unionist Party(DUP)

北アイルランドのプロテスタント強硬派の政党。略称は「DUP」。日本語では「民主統一党」などと訳される。1971年設立。本部はベルファスト。現在、北アイルランド自治政府議会で最大の議席数を有し、カトリックの最大政党「シン・フェイン党(Sinn Fein)」と連立政権を形成している。英国下院での議席数は8議席。1998年のベルファスト合意には反対の意を表明した。ピーター・ロビンソン氏は、今回の妻のスキャンダルで北アイルランド自治政府の首相職は休職中だが、DUPの党首の座は保持している。ウェブサイトは www.dup.org.uk

(猫)

 

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