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英国ニュース解説

最終更新日:2012年9月26日

変わりゆく英国の初等・中等教育

報奨制度の導入に外国への進出
変わりゆく英国の初等・中等教育

他国と同じく、英国でも初等・中等教育のあり方に関する議論は尽きない。最近では、学習の奨励を目的として行われている「報奨制度」への批判が高まっている一方で、伝統・名門のパブリック・スクールが海外校を開設するという動きが顕著になってきた。今週は、英国の初等・中等教育における現状を覗いてみる。


イングランド・ウェールズにおける初等・中等教育の流れ
年齢 公立学校
(State School)
パブリック・スクール
(Public School)
10歳
初等教育修了
プライマリー・スクール
通常は5歳から初等教育を開始。10歳までの5年間を過ごすことになるが、5~7歳、7~10歳でそれぞれ別機関に通うことになっている地域もある。いずれの形態も公立であるため、授業料・教材費は無料。
プレパラトリー・スクール
プレップ・スクールとも呼ばれる。パブリック・スクールへ入学する生徒の多くが、その入学試験の準備のために通う。入学年齢は各校により異なる。
11歳
中等教育スタート
12歳
セカンダリー・スクール
コンプリヘンシブ・スクール : 入学条件のない地域制の総合中学
● グラマー・スクール : 成績などにより入学者が選出される中学。男女別学が一般的。
いずれも、16歳の学期末に、GCSEレベルを受けて義務教育を終了。
13歳
14歳
15歳
パブリック・スクール
入学試験を設ける学校が大半。授業料が高いが、オックスフォード大学やケンブリッジ大学などの名門大学への進学においては、公立学校よりも有利だとされる。定員が少ないため競争率が高い。近年では11歳から入学を受け入れる学校も多くなった。通常、18歳の学期末にAレベル試験を受ける。
16歳
義務教育修了
高等教育スタート
17歳
18歳
シックス・フォーム、シックス・フォーム・カレッジ
地域のセカンダリー・スクールに併設されているのが、シックス・フォーム。セカンダリー・スクールからは独立して運営されているのがシックス・フォーム・カレッジ。いずれも、大学入学のために必須となり、18歳の学期末に受けるAレベル試験に備えるための教育課程。
 
大学進学、就職

報奨に値すると見なされる行為の例
● テーブル・マナーが良い
● 皆が楽しく遊べるように努力する
● 話をよく聞き、発言する前にはきちんと挙手する
● じゅうたんの上にきちんと座ることができる
Sources: The Daily Telegraph
海外校を持つ英国の代表的なパブリック・スクール
1ハロー・スクール校(ロンドン): バンコク(タイ)、北京(中国)
2シャーボーン(ドーセット): ドーハ(カタール)
3 ダリッチ・カレッジ(ロンドン): 上海、北京、蘇州(中国)
4 レプトン・スクール(ダービシャー): ドバイ(アラブ首長国連邦)
5へイレイバリー・スクール(ハートフォードシャー): アルマトイ(カザフスタン)

報奨制度の功罪

生活態度に問題がある生徒などに対する方策として、労働党政権は、数年前に生徒への報奨制度(Reward Scheme)を導入した。今では多くの公立学校、さらにいくつかの私立の初等教育機関が積極的に取り入れており、中には生徒の学業成績の向上や出席率の安定という効果を生み出して、地域の問題校から、全国の注目を集める優良校へと変化を遂げた例もある。

しかしながら、その運営には批判の声も寄せられている。一つは、その報奨が特に過剰であること。いくつかの学校では、政府からの予算上限である3万ポンド(約435万円)を使い切って、プラズマ・テレビや海外への航空券、さらにはゲーム機など、およそ教育とは関係のない物品を生徒に与えたという。このような高額商品は、教育本来の目的である「自ら学ぶ姿勢」を損なうと教育心理学者等から批判が集中。高額な報奨制度の運営を教育機関ではない一般企業が下請けしていることにも、非難の声が上がっている。

また初等教育において、できて当然と見なされることにまで「よくできました」賞を出し続けるという点も問題視されている。「きちんと床に座ることができました」「他の子と仲良く遊ぶことができました」といった評価で、毎日のように賞状を与える学校もあるという。

外国が憧れるパブリック・スクール

英国の教育システムを語る上で今も存在感を失わないパブリック・スクール。英国内での教育制度の混乱をよそに、今その教育の質が世界で求められている。

名門のハロー校は、既に中国とタイに。ロンドン南東部の伝統校ダリッチ・カレッジは中国に開校している。そのきっかけとして、アジア諸国へと進出する英国企業や世界各地に住む英国人の増加という背景もあろう。しかしながら、諸外国が英国におけるパブリック・スクールの教育制度を強く望んだ結果、名門校の現地校を開くために誘致したというのが大きな理由となっているようだ。パブリック・スクールが生徒たちに教えてきた真摯に勉学に励む態度、自ら物事を考える姿勢、そして社会人としてのマナー。これらに、彼らは英国人以上に価値を見出している。

総選挙の中心となる教育制度

報奨制度を導入することで教育制度が混乱に陥りつつあるという議論と、パブリック・スクールの海外進出という2つの事象の間には、一見したところ、何の関連性もないように見える。しかしながら、国内では機能麻痺が叫ばれ、外国からは熱い期待が寄せられているという状況は、英国の教育制度が抱える現実と理想のギャップを表しているとも言えるのではなかろうか。言い換えれば、教育の「質」が生み出す格差を表しているように捉えることもできなくはない。

労働党政権は、この教育の質の格差の是正を基本政策の中心に据えてきたが、どのような成果が出ているかは分かりづらい。今年前半に行われると見込まれている総選挙では、与党・野党共に、独自の教育改革案を出してくることが予想される。どのような改革案にしても、児童・生徒が振り回されることにならないものであって欲しいところだ。

Public School

パブリック・スクール。かつて高等教育を受けるためには上流階級の出身であることが必要とされた時代においても、試験に受かり授業料を払えるのであれば、誰でも入学できると謳ったことから、私立でありながらパブリック(公的)と呼ばれるようになったと言われている。学校によって、入学年齢は若干異なる。小学校から高校までの一貫教育が主流だが、編入も可能。近年では海外からの寄宿学生が増大、また奨学金制度を拡充して労働者階級に属する家庭出身の学生を積極的に受け入れるなどの傾向が見られる。卒業生は、英国を代表する著名人が多い。

(守屋光嗣)

 

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