カタールの政府系投資会社が新オーナー
高級デパート「ハロッズ」が売却
緑色の手提げバッグやテディベアの縫いぐるみなどの定番商品でおなじみの老舗高級デパート、ハロッズ。品揃えはもちろん、豪華な店構えや内装で海外からの観光客にも人気が高く、店内はいつも賑わっている。今回は、英国を代表する小売店の一つである同店の売却のニュースについて取り上げる。
数字で見るハロッズ
・9万平方メートル | 売り場面積 | ||
・330 | 売り場総数 | ||
・1500万人 | 1年間の来店客数 | ||
・最高30万人 | 繁忙期の1日の来店客数 | ||
・5000人以上 | 現在の店員数 | ||
・2人 | 1849年に現在の場所に開店した当時の店員数 (ほかに使い走りを1人雇っていた) |
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・28店 | ハロッズに入っているレストランの数 | ||
・6億1500万ポンド | アル・ファイド家が1985年にハロッズを所有する「ハウス・オブ・フレイザー」を買収した際の買収額 | ||
・15億ポンド | アル・ファイド氏が2010年5月、カタール・ホールディングにハロッズを売却した際の売却額 |
ハロッズの歴史
1834年 | チャールズ・ヘンリー・ハロッド氏が、ロンドンのイースト・エンドで、特に紅茶に重点を置いた食品卸売業を開業する。 | チャールズ・ヘンリー・ハロッド氏 |
1849年 | ロンドン西部ナイツブリッジの、現在のハロッズの店舗がある場所で、ハロッド氏が紅茶と食品雑貨の小売店を開店する。 | |
1861年 | チャールズ・ヘンリー・ハロッド氏の息子であるチャールズ・ディグビー・ハロッド氏が店を継ぐ。 | |
1883年 | 火災で店舗を焼失。その後、建て直しを行い、現在も残る豪華絢爛な店舗を完成させる。 | |
1889年 | 「ハロッズ・ストア・リミテッド」の社名でロンドン証券取引所に株を上場。 | |
1893年 | ハロッズ銀行を設立。 | |
1897年 | 不動産会社「ハロッズ・エステート」を設立。 | |
1898年 | 世界初のエスカレーターを店内に設置。 | |
1913年 | 王室御用達店に指定される。 | |
1914年 | アルゼンチン・ブエノスアイレスに出店。これまでで唯一の海外支店である(同店は、1960年代にハロッズ・グループを離脱したが、同国ではまだハロッズの名を使って営業している)。 | |
1959年 | 大手小売グループ「ハウス・オブ・フレイザー」がハロッズを買収。 | |
1985年 | エジプト人実業家、モハメド・アル・ファイド氏とその家族が「ハウス・オブ・フレイザー」を買収。モハメド・アル・ファイド氏は会長に就任し、3億ポンドを投入してハロッズの改修を行う。 |
モハメド・アル・ファイド氏 |
1983年 | 北アイルランドのカトリック系テロ組織「アイルランド共和軍(IRA)」による爆弾事件がハロッズの店舗外で発生。6人死亡、75人が負傷。 | |
1989年 | 来店客のドレス・コードを導入。サンダル履き、半ズボン着用などでの入店を禁止する。 | |
1994年 | アル・ファイド家が、ハロッズを除いた「ハウス・オブ・フレイザー」グループのすべての株を再上場することにより手放す。 | |
2006年 | 本店の向かいに「ハロッズ102」が開店。回転寿司店「Yo! Sushi」、ドーナツ店「クリスピー・クリーム」などが入っている。 | |
2010年 | カタールの政府系投資会社「カタール・ホールディング」がハロッズを買収。 |
売却額は推定約2000億円
ロンドンのナイツブリッジにある高級デパート「ハロッズ」が、中東の小国であるカタールの政府系投資会社に売却されたとの ニュースが5月初旬に伝えられた際は、各メディアで大きく取り上げられた。デパートのみならず、不動産会社なども含めた「ハロッズ・グループ」をまとめて売却したものであり、売却額は15億ポンド(約1995億円)相当と伝えられた。同グループのオーナーであるエジプト人のモハメド・アル・ファイド氏には、売却後も名誉会長の地位が与えられるという。
ハロッズは、1834年にチャールズ・ヘンリー・ハロッド氏がロンドン東部で始めた食品卸売業がその前身である。1849年には現在の場所に移り、主に紅茶と食品雑貨の小売店を開業した。その後、火事で店舗を焼失するなどの不運に見舞われながらも急成長を遂げ、1913年には王室御用達店に指定された。モハメド・アル・ファイド氏は、故ダイアナ元皇太子妃と一緒に交通事故死したドディ・アル・ファイド氏の父親であることでも知られており、1985年からオーナーを務めていた。近年は、国内の多くの小売店が不況のあおりを受けて売上不振に悩む中、ポンド安の影響で海外からの買い物客が増え、2008年1月〜12月の収益は過去最高の7億5200万ポンド(約1007億円)に達している。
天然ガス資源背景に潤沢な資金
ハロッズの売却先であるカタールの政府系投資会社とは、同国の政府系ファンドであるカタール投資庁(QIA)傘下のカタール・ホールディングである。報道によると、カタール・ホールディングへの売却は、アル・ファイド氏自身が、ハロッズの長期的成長を支える「ビジョンと財力」を持っているとして、「特別に選んだ」結果であるという。カタールは、豊富な天然ガスと石油資源を背景に近年目覚ましい経済成長を遂げており、潤沢な資金を元手に、世界各国で活発に投資を行っている。英国では、バークレイズ銀行、ロンドン証券取引所、大手スーパーマーケット「セインズベリーズ」の親会社などの株を所有しているほか、ロンドン西部チェルシーの元英軍兵舎、ロンドン中心部の米大使館の建物を買い取るなどしている。今後は、南米や極東、アジアにも投資先を拡大する見込みであり、米国の不動産サービス提供会社が最近発表した報告書では、同国は今年、世界最大の海外不動産への投資主になると予測されている。
中国・上海に出店か
ハロッズの今後について、カタール・ホールディングは、中国・上海での出店を検討していると言われる。ハロッズは、過去にアルゼンチンのブエノスアイレスに出店した以外、これまで海外展開はしていない。また、高級品のオンライン・ストアを新たに立ち上げるほか、既存のロンドン店も売り場面積拡大のため、改装を検討している。
創業百数十年にして、新たな変化を遂げるハロッズ。アル・ファイド氏の広報担当官によると、同氏は今後も、これまで自らが築き上げてきた遺産と伝統が守られることを願っているという。英国を代表する老舗の今後の展開が楽しみである。
Qatar Investment Authority(QIA)
アラビア半島東部に位置する首長国、カタールの政府系ファンド。同政府が、天然ガス、石油からの収益を運営する目的で2005年に設置した。カタールの首相であるハマド・ビン・ジャーシム氏が最高責任者兼会長を務める。財務情報は明らかにされていないが、2007年に米紙に掲載された記事では、資金額は600億ドル(約5兆4402億円)と記されていた。最近は、米銀大手シティグループ株の購入に関心を示していると伝えられている。また08〜09年には、イングランド北部リバプールのサッカー・チーム、エバートンを買収するとのうわさもあった。(猫)
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