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英国ニュース解説

最終更新日:2012年9月26日

イギリス新連立政権が緊急予算を発表

緊縮財政で巨額の赤字解消目指す
新連立政権が緊急予算を発表

予算発表5月の総選挙前、保守党は、政権を取った暁には、財政赤字解消と経済再建のため、今年中に大幅な公共支出削減を実施すると述べていた。同党が自由民主党と組んで誕生させた新連立政権はこのほど、緊急予算を発表し、公約通り緊縮財政に踏み切るべく、一連の政策を発表。今回は、その内容について解説する。


新連立政権による緊急予算の内容(一部)
2010年6月22日発表

 税

  • 2011年1月4日より、付加価値税(VAT)を現行の17.5%から20%に引き上げる。
  • 2011年4月より、所得税基礎控除額を、現行の6475ポンド(約86万円)から1000ポンド(約13万円)引き上げ、7475ポンド(約99万円)とする。
  • イングランドの全地域で2011年度、カウンシル・タックスの税率を凍結する。
  • 2010年6月23日より、高所得者を対象に、キャピタル・ゲイン税の税率を現行の18%から28%に引き上げる。

 福祉手当

  • 2011年4月より、年収が4万ポンド(約532万円)を超える世帯に対する税額控除制度(Tax Credit)の適用範囲を制限する。
  • 児童手当の支給額を2011年度より3年間凍結する。
  • 2011年度の児童税控除制度(Child Tax Credit)による手当支給額は、物価上昇率と連動させて増額後、更に子供一人当たり年間150ポンド(約2万円)上乗せした金額とする。2012年度は同様に年間60ポンド(約8000円)上乗せする。
  • 2011年4月より、住宅手当支給額に上限を設定する。4寝室以上の住宅は週400ポンド(約5万3200円)まで、3寝室の住宅は同340ポンド(約4万5220円)まで、2寝室の住宅は同290ポンド(約3万8570円)まで、1寝室の住宅は同250ポンド(約3万3250円)までとする。
  • 2013年4月より、求職者手当(Jobseekers' Allowance)受給者に支給される住宅手当は、求職者手当支給開始から12カ月以降、当初支給額より1割カットする。
  • 妊娠後期の妊婦を対象とした「妊娠期における健康促進手当(Health in Pregnancy Grant)」を2011年1月より廃止する。
  • 2011年4月より、低所得者の妊婦、または低所得者の妻である妊婦などに支給される「シュア・スタート出産補助金(Sure Start Maternity Grants)」の支給を、第一子の出産 時のみに限定する。
  • 子供を持つシングル・ペアレントの就労を奨励するため、2012年度より、これらの者は、子供が5歳以上になった時点で、「所得支援手当(Income Support)」の受給対象から外し、「求職者手当」の対象者とする。
  • 2011年4月より、福祉手当支給額及び税控除制度による手当支給額は、小売物価指数(RPI)ではなく、消費者物価指数(CPI)の上昇率に応じて引き上げる。

 公共部門職員の給与

  • 2011〜2012年度の2年間にわたり、年間給与が2万1000ポンド(約279万円)を超える公共部門の全職員の給与額を凍結する。
  • ただし、年間給与2万1000ポンド以下の職員の給与については、両年度とも、一律に年250ポンド(約3万3250円)の引き上げを行う。

 公的年金

  • 2011年4月より、公的年金支給額は、(1)平均所得の上昇率、(2)消費者物価指数(CPI)の上昇率のいずれかの最も高い数値に沿って引き上げる。いずれの数字も2.5%を下回った場合は、2.5%引き上げる。

 産業

  • 2011年4月より、雇用者に国民保険料(National Insurance)の支払い義務が発生する被雇用者の給与額の下限を引き上げる。
  • 2011年度より、法人税を現行の28%から27%へ引き下げる。その後、2014年度まで毎年1%引き下げる。
  • 2011年度より、小規模企業に対する法人税を20%に引き下げる。

 銀行

  • 2011年1月より銀行特別税を導入する。詳細は今年中に発表する。

 経済成長率等

 
英国の経済成長率見通し
失業率見通し
2010年
1.2%
8.1%
2011年
2.3%
8.0%
2012年
2.8%
7.6%
2013年
2.9%
7.0%
2014年
2.7%
6.5%
2015年
2.7%
6.1%

 政府債務

 
公的部門純債務の
GDP比見通し
公的部門純借入額の
見通し
2010年度
61.9%
1490億ポンド
2011年度
67.2%
1160億ポンド
2012年度
69.8%
890億ポンド
2013年度
70.3%
600億ポンド
2014年度
69.4%
370億ポンド
2015年度
67.4%
200億ポンド

 公的支出

  • 保健・医療及び海外援助の分野を除く政府全省の予算をおよそ25%削減する可能性がある(詳細は10月発表の「支出見直し(Spending Review)」で明らかにする)

VAT引き上げ、住宅手当に上限など

オズボーン財務相は6月22日、緊急予算を発表した。5月に発足した新連立政権による初の予算である。主な内容は、付加価値税(VAT)を現行の17.5%から20%に引き上げるなど。福祉手当については、児童手当の支給額を2011年度より3年間凍結する。住宅手当は、寝室の数を単位として上限を設ける(これまでは上限がなかった)。更に、来年4月より、年収が4万ポンド(約532万円)を超える世帯に対する税額控除制度の適用範囲を制限する。また、年間給与が2万1000ポンド(約279万円)を超える公共部門の全職員の給与額を2年間にわたり凍結する。更に、保健・医療及び海外援助の分野を除く政府の全省の予算が、今後4年間、約25%削減される可能性があると記している。

「不可避」の予算に非難

同相は、予算発表の際、これらの緊縮財政の方針について、英国が抱える巨額の財政赤字を解消するために「不可避」の措置であると述べた。先月の国立統計局(ONS)の発表によると、今年5月末時点での政府の純債務の総額は、国内総生産(GDP)の62.2%にあたる9030億ポンド(約120兆990億円)にも上っている。また、連立政権が5月に新設した独立機関「予算責任局(OBR)」は6月中旬、今年度の政府借入額が1550億ポンド(約20兆6150億円)に達するとの見込みを発表している。同相によると、政府は、次の総選挙までに構造的財政赤字をゼロにし、英国経済への信頼を回復すると共に、経済再建を図りたい意向だという。

しかし、野党労働党や労働組合などからは、政府の方針に対し、一般庶民の家計を圧迫するばかりか、大量の失業者を生み、英国の経済再建を妨げるとの批判が出ている。VAT引き上げが人々の生活費を押し上げることは言うまでもないが、例えば住宅手当の上限設定については、特にロンドンなどの家賃が高い大都市で、家賃を払えずホームレス化する人を増やすと警告する声もある。また、緊急予算発表の約1週間後には、OBRが、政府の公共支出削減策の影響で、今後6年間で、公共部門で60万もの雇用が失われるとの予測を発表している。

10月に各省の予算削減規模発表

しかし、話はこれだけでは終わらない。政府は今年10月、「支出見直し(Spending Review)」を発表し、政府各省の予算の削減規模を明らかにする。前述の通り、緊急予算には、「各省予算が約25%削減される可能性がある」としか記されていなかったが、省の予算削減規模についての最終的な決定内容を明らかにするのが、10月に発表されるこの文書なのである。最近の報道によると、政府は現在、各省に対し、「25%減」及び「40%減」の2つの予算削減案を提出するよう指示しているらしく、大幅な行政費用削減が行われることは間違いないようだ。

「戦後最大」と言われる大幅な公共支出削減の影響は、英国在住者なら誰しも免れ得ない。オズボーン財務相が言うように、国民が「痛み」を被る代わりに、本当に英国に経済再建がもたらされることを願ってやまないが、さて現政権が任期を全うする頃、英国経済はどのような状態に置かれているのだろうか。

Value Added Tax (VAT)

間接税の一種。日本の消費税に近い。課税対象の商品、サービスを提供する企業で、売上高が年間6万8000ポンド(約904万円)を超える企業は、すべてVAT登録を義務付けられている。VATの税率には、標準税率(17.5%)、軽減税率(5%)、ゼロ税率の3段階がある。2011年1月から20%に引き上げられるのは標準税率。ゼロ税率(VAT非課税)の商品とは、食品(外食を除く)、書籍、雑誌、新聞、子供用衣類・靴など。軽減税率は、光熱費などに適用されている。他の欧州諸国のVAT税率は、ドイツが19%、フランスが19.6%など。

(猫)

 

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