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英国ニュース解説

最終更新日:2012年9月26日

格安高級紙「i(アイ)」が創刊

新たな読者層を開拓できるか
格安高級紙「i(アイ)」が創刊

英国の大手紙「インディペンデント」の発行主が、10月26日、格安高級紙「i(アイ)」を創刊した。「ブロードシート」と呼ばれる高級紙が 英国で新たに誕生するのは、1986年の「インディペンデント」紙以来。高級紙としては格安の値段となる20ペンス(約27円)で販売中のアイは、果たして新たな読者層を開拓できるのだろうか。


「アイ」と「インディペンデント」本紙の違い

媒体名 アイ インディペンデント
創刊日 2010年10月26日 1986年10月7日
価格 20ペンス(約27円) 1ポンド(約130円)
互いの
関係
「インディペンデント」から
派生
「アイ」にコンテンツを提供
発行元 インディペンデント・プリント社 インディペンデント・プリント社
セールス・
ポイント
破格の値段で、高級紙の内容が さっと読める。 深い分析に支えられた、優れたジャーナリズム。
紙面構成・
デザイン
写真を大きく使った、カラフルな紙面。 2、3 面の「マトリックス」で、紙面全体を見渡せる。記事の一部に、{i} で短いコメントを挿入。記事は本紙より短くかつ軽め。 抑えた色調で、真剣さかつ重厚さを強調。
想定読者 忙しくてじっくり新聞を読む 時間がない人。 知的関心が高い若者や通勤者層など。 左派系知識人や若者。人権、 環境、音楽などに興味を持つ人。
政治志向 左派中道だが、本紙よりやや中央寄り。 左派中道。前回の選挙では自由民主党を支持。
競合誌 朝刊無料紙「メトロ」「シティー・AM」夕刊無料紙 「イブニング・スタンダード」。 左派高級紙「ガーディアン」を筆頭とした他の高級紙すべて。
今後の
展望
本紙の「インディペンデント」紙の部数を追い抜く可能性も。 「アイ」と読者層を奪い合う形と なり、部数が大幅下落する可能 性が懸念されている。

サイモン・ケルナー編集長

「インディペンデント」紙及び「アイ」紙の編集長。1957年、ランカシャー州生まれ。53歳。 地元の大学を卒業後、地方紙でスポーツ記者としての経験を積む。86年の「インディペ ンデント」紙創刊時のスタッフの一人。98年に、当時の「インディペンデント」紙の編集 長アンドリュー・マー氏が辞任した後に編集長に就任。99年と2003年、業界関係者が 選ぶ最優秀編集長に選ばれる。03年9月には、大判(ブロードシート判)だった「インデ ィペンデント」紙を小型タブロイド判に変更し、販売部数を大きく伸ばす。一時、経営に 専念するために編集長職を退いていたが、3月末にロシア人の富豪アレクサンドル・レベ ジェフ父子が「インディペンデント」紙を買収し、4月に同紙の編集長に復帰した。

The Independent

主要新聞の発行部数(2010年9月時点)

平日・日刊有料紙
新聞名 発行部数
サン 297万4405
デーリー・メール 214万4229
デーリー・ミラー 121万3323
デーリー・スター 86万4315
デーリー・エキスプレス 65万9650
デーリー・テレグラフ 65万9445
タイムズ 48万6868
フィナンシャル・タイムズ 39万228
ガーディアン 27万8129
インディペンデント 18万2776

日曜紙
新聞名 発行部数
ニューズ・オブ・ザ・ワールド 294万8328
メール・オン・サンデー 196万9990
サンデー・ミラー 112万6035
サンデー・タイムズ 109万1869
サンデー・エキスプレス 56万273
サンデー・テレグラフ 50万7860
オブザーバー 32万5502
インディペンデント・オン・サンデー 15万5174

大衆紙並みの値段で読める高級紙

10月末、左派系高級紙「インディペンデント」の廉価版「i(アイ)」 が創刊された。本紙扱いとなる「インディペンデント」紙の主要記事や論説記事を、短く編集し直した上で掲載。「インディペンデント」紙がこれまで提供してきた良質のジャーナリズムを、大衆紙並みの値段(一部20ペンス=約27円)で気軽に読めることを売り文句としている。

「アイ」紙は、全面カラー印刷。「インディペンデント」紙同様に、 小型のタブロイド判サイズとなっている。1面には、媒体名である 「i」を強調した真っ赤なロゴと共に、大きな写真付きのトップ記事を 掲載。2、3ページ目には、その日の紙面全体の構成を示す見取り図がある。同様に読みやすさを売りとしている朝刊無料紙「メトロ」 紙と比較すると、レイアウトが凝っていて、大部分が「インディペンデント」紙の執筆陣による自社記事で構成されている点に「アイ」 紙の特徴がある。

変革を続ける「インディペンデント」紙

「アイ」紙の創刊と同時に、本紙の「インディペンデント」紙も紙面を刷新した。色の使用を極力押さえ、原則的には白黒色で構成されている。抑えた色調が、「まじめな新聞」を強調しているかのようだ。

「インディペンデント」紙は、1986年の創刊後、一時は発行部数が40万部を超えるまでに部数を伸ばしたが、90年代に起きた新聞の安値競争によって、大きなダメージを受けた。そこで2003年9月に、紙面のリニューアルを実施。朝刊無料紙として人気を集めていた「メトロ」紙の判型に目をつけ、高級紙「インディペンデント」を、大衆紙の専売特許と思われていたタブロイド判で発行したのである。この動きは当時低迷していた高級紙市場の起爆剤となり、「タイムズ」紙もタブロイド判へと変更。また「ガーディアン」紙が縦に細長いベルリナー判へと移行した。

しかし、タブロイド化人気はその後すっかり衰えてしまい、今年 に入った時点では、「インディペンデント」紙の部数は20万部を切るようになっていた。関係者が廃刊の可能性を検討していたところ、窮地を救ったのが、現在の経営者であるレベジェフ父子である。

創刊のきっかけとなった新所有者

「アイ」紙創刊のきっかけは、ロシアの大富豪アレクサンドル・レベジェフ父子が今年春、「インディペンデント」紙と「インディペンデント・オン・サンデー」紙を買収したことに始まる。レベジェフ氏はかつて旧ソ連国家保安委員会(KGB)のスパイとして活動し、ソ連崩壊後には銀行業で財を成した人物だ。今では英国の新聞業に強い関心を持ち、昨年は、損失を出し続けていた夕刊紙「イブニ ング・スタンダード」の株の約75%をわずか1ポンドで取得し、事実上の経営者となっている。

この父子による新たな挑戦が、「アイ」紙の創刊である。英国の新聞業界における、「大衆紙並みの価格で高質のジャーナリズムを提供する」という試みは、果たして成功するのだろうか。少なくとも、新聞離れが懸念されている昨今の新聞市場では、新たな話題として好意的に受け止められているようである。

Tabloid

タブロイド判、あるいはタブロイド紙。新聞の用紙サイズとして使われる、縦約43センチx横約29センチの大きさのこと。英国の新聞のサイズには、ほかに大判=ブロードシート判と、ベルリナー判(「ガーディアン」紙など)がある。1880年代に、ある製薬会社が「凝縮された錠剤(タブレット)」を販売したことから、「タブロイド」という言葉が「小型」を意味するようになった。また娯楽、ゴシップ、スポーツ、芸能情報を主に扱う大衆紙が総じてタブロイド判であったことから、タブロイド=大衆紙との解釈が一般市民の間に広まった。

(小林恭子)

 

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