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英国ニュース解説

最終更新日:2012年9月26日

スカイの司会者と解説者の失言で騒動 - サッカー界と性差別

スカイの司会者と解説者の失言で騒動
サッカー界と性差別の問題とは

サッカーは多くのスター選手が存在する華やかなスポーツであるが、これまでの歴史の中で、差別という暗い一面が存在していたことも事実である。先日、テレビのサッカー中継番組の司会者と解説者が女性副審判に対する差別的発言を行ったことは、そうした歴史を思い出させるものであり、「サッカーと性差別」についての議論を引き起こした。

「スカイ・スポーツ」のサッカー司会者、
解説者による性差別発言


リチャード・キーズ:
(司会者)
やれやれ、誰かグラウンドに降りて、あの女(副審判の シアン・マッシーさん)にオフサイドのルールを説明してやった方が良さそうだな。
アンディ・グレイ:
(解説者)
全くだ。信じられるかよ? 女の審判だってさ。(中略)あいつら多分、オフサイドのルールなんか知らないぞ
リチャード・キーズ: そりゃ知らないだろ。
アンディ・グレイ: なんで女の審判なんか存在するんだ?とんでもない間違いだぞ。
リチャード・キーズ: 今日は絶対、ひと騒動あるな。ケニー(・ダルグリッシュ。リバプールの監督)がキレるだろ。女の審判て、これが初めてじゃないよな。前にもいたろ?
アンディ・グレイ: いたな。
リチャード・キーズ: ウェンディ・トムズとかいったな
アンディ・グレイ: ウェンディ・トムズ、そんな名前だったな。あいつも役立たずだった。
リチャード・キーズ: (怒りを表現してうなり声を出す)
アンディ・グレイ: (聞き取り不可能)
リチャード・キーズ: いや、それはやらないと。良いことだって。サッカーはおかしくなっちまった。カレン・ブラディーが今朝、性差別だとか言って文句言ってたろ?(*)頼むよ、姉ちゃん。

(*)プレミア・リーグのチーム、ウェストハム・ユナイテッドの副会長である女性、カレン・ブラディーさんが、新聞のコラム で、サッカー界の性差別について触れていたことを指す。


性差別発言の対象となった、
シアン・マッシーさん
2011年1月22日、イングランド中部ウォルバーハンプトンのモリノー・スタジアムで行われたウォルバーハンプトン・ワンダラーズ対リバプールの試合中継時に2人の間で交わされた会話。この日は、シアン・マッシーさんという25歳の女性が副審判を務めていた。この会話は放送されなかったが、会話を録音したテープが、「メール・オン・サンデー」紙にリークされた。

アンディ・グレイ、リチャード・キーズ両氏の
プロフィール

アンディ・グレイ Andy Gray

スコットランド出身。55歳。1973年、ダンディー・ユナイテッドに加入。ポジションは フォワード。アストン・ビラ在籍中の76〜77年のシーズン中、PFA年間最優秀若手選手賞とPFA年間最優秀選手賞を同時受賞。その後、ウォルバーハンプトン・ワンダラーズ、エバートンなどでプレー。90年に引退。その後は、92年のプレミア・リーグ設立以降、今回の騒動で解雇されるまで、「スカイ・スポーツ」で同リーグの試合の解説を務めていた。

リチャード・キーズ Richard Keys

イングランド中部コベントリ—出身。53歳。80年代、民放テレビITVで情報番組、サッカー中継番組などの司会を担当。90年、同年に開局した英国衛星放送局(BSB)の「ザ・スポーツ・チャンネル」の番組に出演。91年、BSBとスカイ・テレビジョンの合併を機に「ザ・スポーツ・チャンネル」から改名した「スカイ・スポーツ」に移籍。グレイ氏と同様、92年のプレミア・リーグ設立以降一貫して、同リーグの試合の中継を担当していた。


「女にオフサイドは理解できない」

先月下旬、スポーツ専門チャンネル「スカイ・スポーツ」のサッカー中継番組司会者と解説者の2人が、プレミア・リーグの試合で副審判を務めた女性について性差別的発言を行ったことで、同局での仕事を失うという騒ぎがあった。司会者のリチャード・キーズ氏と、元サッカー選手の解説者、アンディ・グレイ氏は1月22日、ウォルバーハンプトン・ワンダラーズ対リバプールの試合中継を担当した際、副審判を務めていた女性について、「女にはオフサイドのルールなんか理解できない」などといった発言を行った。この発言は、放送中ではない時間に行われたものであったが、会話を録音したテープがマスコミにリークされた。更にその後、2人が今度は番組の共演者に対して性差別的言動を行っている映像が「ユーチューブ」に投稿され、「スカイ・スポーツ」はグレイ氏を解雇。キーズ氏も間もなく同局での仕事を辞任した。  

サッカー界においては、人種差別と同様に性差別も、長らく存在する問題である。今回と類似の事件は以前にも起きており、2006年には、ルートン・タウン(現在5部リーグ所属)の監督が、女性副審判の起用について、「形だけの平等主義」であるなどと発言、サッカー協会(FA)から罰金を科された。

また現在、イングランドでプロのサッカー試合の審判を務めている女性は、今回の発言の対象になった女性を含め、わずか3人しかいない。今回の騒動を受け、ウェストハム・ユナイテッドの副会長であるカレン・ブラディー氏は、「サッカー業界における女性の役割に関しては、依然として旧態依然とした見方が残っている」と発言している。

昔に比べると性差別は改善の傾向

しかしそれでも、昔に比べると、サッカー界における性差別はかなり改善されてきていると言われている。例えば現在、プレミア・リーグに所属する20のサッカー・チームのうち、ほぼすべてのチームに女性の幹部職員がいる。FAやプレミア・リーグ、フットボール・リーグなどの上層部のポジションにも、女性が就任している。また、新聞やテレビのサッカー報道でも女性キャスターや女性記者が数多く活躍しているのは、ご存知の通りである。

そして何より、今回の発言に対するサッカー界やメディア、世間 の反応が、グレイ、キーズ両氏への反発の声でほぼ占められてい たことが、サッカー界に女性が受け入れられてきていることの証である、との声も聞かれる。イングランド代表主将のリオ・ファーディナンド選手は、両氏の発言を、「先史時代的(prehistoric)」であるとして批判した。また、リバプールのケニー・ダルグリッシュ監督は、「仕事ができれば性別は関係ない」として、両氏に嘲笑された女性副審判を擁護した。

「差別解消に向けた前進の機会」

サッカーにおける差別反対を唱えるキャンペーン団体などからは、今回の件について、サッカー界の差別解消に向けた更なる前進の機会を提供する出来事である、との声も上がっている。多くの人を不快にさせた今回の騒動であるが、すべての人が性別に関係なく平等に扱われるサッカー界の実現に貢献することが期待される。

Premier League、The Football League

プレミア・リーグは、イングランドのサッカー・リーグ・システムのトップに位置するリーグ。同リーグに所属する20のサッカー・チームを株主とする法人であり、日常の業務は、理事長を含む理事会、及びフルタイムの職員が行う。フットボール・リーグは、その下位に位置し、「チャンピオンシップ」「リーグ1」「リーグ2」の3つに分かれる。フットボール・リーグの理事会メンバーには、「リーグ1」のチームの一つである「トレンメア・ローヴァーズ」のディレクターである女性が含まれている。ウェブサイトはwww.premierleague.comwww.football-league.co.uk

(猫山はるこ)

 

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