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英国ニュース解説

最終更新日:2012年9月26日

リビア騒乱と多国籍軍の軍事介入

民衆蜂起から内戦、そして戦争へ
リビア騒乱と多国籍軍の軍事介入

リビア最高指導者カダフィ大佐の支持派勢力と反体制勢力の間で衝突が激化する中、欧米諸国は遂に一般市民を保護するための軍事介入を開始した。しかし、軍事介入によるカダフィ政権打倒の是非を含む出口戦略が不明確な今回の軍事作戦は、暗礁に乗り上げるリスクを伴う。

リビアにおける情勢(2011年3月21日現在)

リビア情勢
参考: BBCほか

トマホーク
19日、リビアに向けて発射された米巡航ミサイル「トマホーク」

リビアでの民衆蜂起から戦争まで

2月17日 「怒りの日」と称した大規模デモが各地で発生
2月22日 カダフィ大佐が国営テレビに出演し、退陣要求を拒否。デービッド・オーウェン元英外相が、リビア上空飛行禁止空域における軍事介入の必要性に言及
2月24日 各地でデモ隊と治安当局が衝突し死傷者急増。EU諸国などが軍事介入の検討を開始
2月25日 ブレア元英首相がカダフィ大佐と極秘電話会談
2月26日 治安部隊による民衆弾圧に抗議し法相を21日付で辞任したアブドルジャリル氏が、暫定政権の樹立を表明
2月27日 反体制派勢力が北東部の第2の都市ベンガジで「国民評議会」を結成した旨を発表。国連安保理がリビアに対する制裁決議案を全会一致で採択
3月1日 ウィリアム・ヘイグ英外相が、リビア上空の飛行禁止空域設定に対する国連安保理決議は「必要不可欠ではない」と言明
3月2日 リビア暫定政権が国連に対し飛行禁止空域設定を要求、クリントン米国務長官が支持。アラブ連盟、アフリカ連合などが国連安保理決議を待たずに飛行禁止区域における軍事介入を示唆
3月3日 国際刑事裁判所がカダフィ大佐、及び関係者に対する戦犯取り調べを開始する旨を表明
3月9日 欧州議会がEU諸国に対してリビア暫定政権を認めるよう要請
3月10日 仏・ポルトガル政府などがリビア暫定政権を承認。NATO加盟28カ国がブリュッセルで開催された国防相会議で、リビア沖への艦船配備に合意
3月16日 国連安保理がカダフィ支持派勢力及び反体制派勢力に対し停戦を要求、リビア飛行禁止空域設定に関する決議草案を発表
3月17日 カダフィ大佐が「ベンガジ侵攻」を宣言。国連安保理がリビア飛行禁止空域設定及びあらゆる必要な措置などを加盟国に認める国連安保理決議1973号を賛成多数で採択
3月18日 リビアのクーサ外相が即時停戦を表明。オバマ米大統領はカダフィ大佐に対して主要3都市からの撤退を要請
3月19日 カダフィ支持派勢力がベンガジなどに対する空爆を実行。米・EU加盟国・アラブ連盟などの代表者が緊急首脳級会議開催後、連合軍による「オデッセイの夜明け」軍事作戦を開始
3月20日 カダフィ大佐は「(イスラム教徒に対するキリスト教徒の)第2の十字軍攻撃」と欧米諸国を激しく非難した一方、リビア政府軍が改めて停戦を表明

Source: ONS

内戦から戦争への序曲

キャメロン首相は19日、英軍による対リビア軍事介入は「必要かつ法的に正当」であり、国益に沿ったものであると強調した。2月中旬以降、リビア最高指導者カダフィ大佐の支持派勢力と反体制 勢力との間で内戦状態が続いていたが、欧米諸国による軍事介入でリビア情勢は大きな局面を迎えた。

支持派勢力による攻勢が強まる中、リビア市民を守るための措置として、17日、国連安全保障理事会が同国上空の飛行禁止空域設定などを含む決議案を採択。翌18日には、リビアのクーサ外相が即時停戦を表明したものの、その後もカダフィ支持派勢力による反体制勢力への攻撃が続いた。これを受け、19日、欧米諸国は軍事作戦に踏み切ったとみられるが、翌日、カダフィ大佐は「限度のない長期戦を約束する」とし、徹底抗戦する構えを示した。

国際社会の軍事介入

今般の多国籍軍による軍事介入の目的は、あくまでも「一般市民の保護」であり「カダフィ政権打倒」ではない。他方、リビア情勢の不安による原油価格高騰や世界経済への打撃を最小限に抑えるという狙いに加えて、リビアの石油利権と引き換えにカダフィ大佐を国際社会に迎え入れ、結果としてリビア独裁政権を支えた欧米諸国の反省の表れであるとも解し得る。

イスラム世界との摩擦を避けたい欧米諸国は、アラブ諸国から対リビア軍事介入の支持を取り付けることが不可欠だった。アラブ・アフリカ諸国によるカダフィ大佐への説得が失敗した可能性も考えられるが、以前から煙たい存在であったと見られる同大佐に対して、湾岸協力会議やアラブ連盟などが「正統性を失った」との見切りをつけ、リビア上空の飛行禁止空域設定を支持したことで事態が急展開。リビア同様、緊張が高まるバーレーンとイエメンへの軍事介入を懸念する声も高まりつつあるが、親米である両国に対して欧米諸国が武力行使を実行する可能性は極めて低いと言える。

最悪のシナリオとは

「カダフィ政権の是非は最終的にリビア国民が決めるべき」とする国際社会による軍事介入の実効は未知数である。現時点におい て想定し得る最悪のシナリオは、カダフィ政権の延命などによる「地中海・北アフリカの戦場化」や「第二のイラク・アフガン化」といった戦況の泥沼化である。仮に、カダフィ政権が失脚した場合でも、実質的な次期指導者の不在などから、無政府状態に陥る可能性も否めず、更には、トリポリ(カダフィ支持派)とベンガリ(反体制派)を拠点とする分裂国家が生まれる危険性も孕んでいる。

ヘイグ英外相は「(軍事介入が)許される範囲は状況次第」と述べ、カダフィ大佐が標的になる可能性を示唆する一方、米当局は、同大佐の早期退陣を模索する方針を示しつつも、北大西洋機構(NATO)軍へと指揮権を移譲して側面支援に回るとし、米軍主導で開始した2003年のイラク戦争とは差別化を図る構えを示すな ど、英米間には温度差もあるようだ。そんな中、ニック・ハーヴェイ英国防担当相が対リビア作戦の出口戦略が固まっていないことを認めるなど、見切り発車的な軍事介入により戦況が膠着状態の様相を呈し始めてきたようにも見える。

No-fly zone

交戦国などに対して軍用機などの飛行を禁止する措置(上空における非武装地域の意)。主に軍事物資の搬入及び市民の保護などを目的に設定される。3月17日に採択された国連安保理決議1973号で、人道支援目的で使用されるもの以外のあらゆるリビア機を対象に、上空での飛行禁止空域が設けられた。決議においては中国、ロシア、ドイツ、インド、ブラジルが棄権したが、常任理事国の中国とロシアは拒否権を行使しなかった。これまでには、1991〜2003年のイラク上空、1993〜95年のボスニア・ヘルツェゴビナ上空でも飛行禁止空域が設定された。

(吉田智賀子)

 
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