自治体の管理下にない「半独立校」
イングランドでフリー・スクールが開校
ブレア労働党政権が誕生させた公立校の新しい形態である「アカデミー」は、現在、連立政権に引き継がれ、更にその数が増えている。現政権は同時に、アカデミーと類似した「フリー・スクール」を設置させる方針を決定し、今月、その第一陣が開校した。
2011年9月開校のフリー・スクールの例
Ark Atwood Primary Academy (ロンドン・ウェストミンスター区) 既に英国で複数のアカデミーのスポンサーとなっているチャリティー団体の資格を有する組織「Ark Schools」が運営する小学校。数学、舞台芸術などの指導に重点を置く。 www.arkatwoodprimary.org |
Bradford Science Academy (ブラッドフォード市) 「Kings Science Academy」の名でも知られる中学校。特に科学系の科目に重点を置いたカリキュラムを組む。ブラッドフォード市の科学教師らが設置。 www.kingssa.org |
Canary Wharf College (ロンドン・タワーハムレッツ区) ロンドンのアイル・オブ・ドッグズ地域における公立学校の不足を受け、子供を持つ親のグループが設立。一クラス20人の少人数制。 www.canarywharfcollege.co.uk |
Etz Chaim Primary School (ロンドン・バーネット区) ロンドン北部に設置されたユダヤ教系小学校。地元のユダヤ教会である「ミル・ヒル統一ユダヤ教会」と強いつながりを持つ。非ユダヤ教徒も受け入れている。 www.etzchaim-primaryschool.org.uk |
Maharishi Free School (ランカシャー州) 「超越瞑想」と呼ばれる瞑想法を編み出したニュー・エイジ系思想家のインド人、マハリシ・マヘーシュ・ヨーギーの名前を冠する小中一貫校。瞑想、ヨガなどをカリキュラムに含む。 www.maharishischool.com |
Nishkam Primary School (バーミンガム市) バーミンガム市に設置されたシーク教系の小学校。パンジャブ語が必修。非シーク教徒も受け入れ。保育園も付属している。 www.arkatwoodprimary.org |
The Free School Norwich (ノーフォーク州) 男女共学の小学校。働く親を支援するため、授業時間外も、午前8時15分から午後5時45分まで子供を預かる(学校休暇中も含む。ただしこのサービスの利用は有料)。 www.freeschoolnorwich.org.uk |
West London Free School (ロンドン・ハマースミス・アンド・フラム区) 男女共学の中学校。右派系ジャーナリスト、トビー・ヤング氏が創立者に名を連ねる。音楽教育に重点を置くほか、古典教育に力を入れ、14歳までラテン語が必修。 www.westlondonfreeschool.co.uk |
フリー・スクールに関するアンケート調査結果
フリー・スクールを設置する政府の方針を支持しますか?
Source: New Statesman/ICD Research
(2011年5月21、22日に1010人を対象に行った調査の結果)
カリキュラム設定で大幅な自由
2011年9月、イングランドで、新しい形態の公立学校である「フリー・スクール」が24校、開校した。フリー・スクールは、公立校でありながら、地方自治体の管理下に置かれていない「半独立校(semi-independent)」のような形の学校である。公立校で教えるべき必修科目について定めた「ナショナル・カリキュラム」に従う義務がなく、履修科目の設定において大幅な自由を与えられている。また、学期及び1日の授業時間の長さ、教師の給与などの雇用条件、予算の使途なども自由に決めることができる。学校運営に必要な国からの補助金は、通常の公立校のように地方自治体を通すのではなく、中央政府から直接、提供される。
これらの特徴は、労働党政権下に始まった公立校の形態である「アカデミー」と同じである。しかし、アカデミーにないフリー・スクールの特徴は、学校を、親や教師のグループ、チャリティー団体の資格を有する組織、大学、教会など宗教組織、民間企業などが設置する点である。親や教師のグループが学校を新設するというアイデアは、これまで行政機関が行ってきた公共サービスを地域コミュニティーが引き継ぐことを奨励する政府の「大きな社会(BigSociety)」政策の方針と一致する。
14歳までラテン語必修の学校も
フリー・スクールでは、学力に基づいて入学者を選抜することはできない。フリー・スクールへの入学を希望する場合は、通常の公立校の場合と同様、地域の自治体を通して申し込みを行う。
フリー・スクールの設置が可能になったのは、現政府が昨年7月、新法を成立・施行したからである。その後、政府はフリー・スクールの設置申請の募集を行い、様々な団体やグループから323件の応募があった。そのうち24の申請が、審査通過を経て、9月に学校の新設にこぎ着けたのである。
開校した24校は、ほとんどが小学校だが、中学校及び小中一貫校も含まれている。ヒンズー教、ユダヤ教、シーク教、英国国教会などの宗教系の学校も目立つ。特に知られているのが、右派系ジャーナリストであるトビー・ヤング氏が創設者に名を連ねるロンドン西部の「ウェスト・ロンドン・フリー・スクール」で、古典教育に重点を置き、14歳までラテン語が必修科目となっていることなどが話題を集めている。同校は定員120人に対して500人もの応募を集め、人気の高さをうかがわせた。
無資格教師も勤務可
フリー・スクールの利点については、「公立学校に関する選択肢を拡大し、学校間の競争を高め、生徒の学力向上を促す」などの意見がある。一方、主に左派系の人々などからは、「従来の公立学校との格差を生じさせ、公教育に分裂を招く」などの批判の声が上がっている。また、フリー・スクールでは無資格者も教師として勤務することが可能な点を問題視する向きもある。
なお、来年9月に開校されるフリー・スクールの設置申請は既に締め切られており、政府は、今年よりも多くの学校を新設したい考えだという。この新たな試みが、英国の教育にどのような影響をもたらすのかは、非常に興味深い点である。
E-Act
ロンドンに拠点を置く教育サービスの提供を目的とする社会的企業(social enterprise)。チャリティー団体の資格を有する。イングランド内の11のアカデミーのスポンサーとなっているほか、今年9月、ロンドン北東部レッドブリッジ区にフリー・スクールの小学校「Aldborough E-ACT Free School」を開校した。E-Actの会長は、ブレア労働党政権下において教育・技術省(現教育省)でアカデミーの設置業務を担当し、後に英国初の「学校コミッショナー(Schools Commissioner)」に任命されたブルース・リディントン氏である。ウェブサイトはwww.e-act.org.uk(猫山はるこ)
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