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日経電子版Pro
Tue, 20 April 2021

第39回 穀物価格高騰とインフレ懸念

テスコでは、パンの価格がじわじわ値上がってきたようだ。一斤2~30Pほどの値上がりだが、累積すると大きな費用になる。今年初までは、原油などエネルギー価格の値上がりに伴う農業機械の燃料値上り分を消費者に転嫁する必要があるという説明だったが、オーストラリアにおける小麦や大豆その他穀物の不作が報じられた春先頃から、どうも様子が異なってきている。小麦先物価格は9、10月と異常高騰した。小麦や大豆の価格は、いうまでもないが基本的には実際の需要(実需)と供給で決まる。加えて本欄の読者には既になじみと思うが、金融要因でも価格は上下する。いずれの要因からみても来年にかけて荒い値動きが続きそうである。今回はその背景を考えてみる。

3つの実需要因

供給面では、世界の大部分の主要小麦生産国においての異常気象の影響による小麦の世界的供給不足があるが、これは例年のような振れの範囲内なのか、地球温暖化などに伴う構造的な問題なのかを検討する必要がある。米国農産省によると、今年度の米国の小麦収穫高は過去4年中最低の5000万トン未満となると予測している。さらに今年生じた干ばつにより、小麦価格は過去10年間で最高額を記録する見込みであるという。世界最大の穀物輸出大国である米国の小麦輸出高は今年約270万トン削減され、約2450万トンになる予定だ。

より大きな問題は、不作による世界在庫の減少が一向に回復しないことであり、その主因は中国やインドからの輸入増加である。中国やインドにおける所得増加に伴う消費生活の変化が影響し始めたとみる向きが多い。一般に1人当たりのGDPが伸びるにつれて牛肉の消費量が伸びる傾向があると言われているが、中国においても牛肉の消費量が1人当たりの実質GDPと比例的に高まっている。1999年から2004年にかけて、世界に占める中国の大豆消費量は14%から 20%に上昇した。所得増加に伴うパン食の増加、牛肉嗜好による家畜飼料用の穀物輸入の急増、いずれも人口の多い大国だけに その影響は地球規模になる。

さらには、原油価格の高騰も間接的には影響がある。穀物からのエタノール燃料生産の増加が典型だ。燃料生産業者は、トウモロコシなどからエタノールを精製する。すると玉突きで、家畜用の飼料としてトウモロコシの代替に小麦が使用される傾向にあり、ますます小麦の需要は増える。EUでは2010年までに自動車が使うエネルギーの5.75%をバイオ燃料とする目標を立てており、フランスでは農民保護政策の視点も加え、独自に7%、英国では3.5%を目標としている。日本でも東京都がバス燃料の数%をバイオ燃料に置き換える予定である。

過熱を帯びる金融要因

今一つの大きな要因は金融市場における、特に今年夏場以降の穀物投資熱の高まりの影響を無視できない。金融市場は、各国中央銀行が金融引き締めを強めつつあるといっても、まだまだ金余り現象の中にいる。このため、高利を求めてマネーはヘッジ・ファンド、プライベイト・エクイティ・ファンドなどを通じて、瞬時に世界中を回っている。ここ2、3年は原油、エネルギーが最先端であったが、いまや焦点は穀物にある。

まず値上がりを見越して、実需はないものの投資や先物売却をする投資家やファンドがいる。このため金融市場の思惑も短期的な価格変動に大きな影響を与える。投機などによる価格の振幅は実需の変化がみられ、需要や供給の先行き見通しが立てにくい時ほど、思惑で激しくなる。さらに穀物ファンドといって穀物相場指標の変化を投資対象として、個人などが毎月一定額を積み立てる商品をこぞって大手証券会社は売っている。短期的な売買のみならず、長期定期な投資を行うための新たな資金が流入することで、価格の下支えをしていると考えられる。現在ドイツ銀行グループは投資資金の22.5%を小麦・トウモロコシの取引に配 分しているとの報道もある。

金融要因は、実需要因が続かないといずれは剥落してくる。しかし金融市場からみていると1年くらいはブームが続きそうであり、この間にインフレ心理に火がつくリスクは注意しておく必要があるのではないか。

21世紀は、穀物争奪の世紀であるといわれている。さらに長期の要因をみれば、穀物生産に不可欠な化学肥料の原料であるリン鉱石が枯渇し始めており、米国は輸出を止めている。さらに地球温暖化により中~低緯度の大陸での乾燥化が予想されるため、供給は減少の可能性がある。こうした思惑が広がれば短期的には振幅の拡大を伴いつつ、じわじわ価格は強含 つよふくんでいくと考えられる。その先の問題は、インフレ心理の拡 大と食料安全保障である。第三世界問題の解決は、新たな問題を引き起こすという例であり、その鍵が人間の食欲など良い生活をしたいという欲求であるとすれば、因果は巡るとの印象を持つ。

(2006年10月31日脱稿)

 
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Mr. City:金融界で活躍する経済スペシャリスト。各国ビジネスマンとの交流を通して、世界の今を読み解く。
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