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日経電子版Pro
Sun, 18 April 2021

第40回 先進国の国内政治の行き詰まり(米国中間選挙から)

米国中間選挙の結果

米国中間選挙において、民主党が12年ぶりに下院の過半数を取り返した。しかし圧勝とは決していえない。長過ぎる共和党政権疲れが選挙争点の主役で、米国のイラクでのもたつきや共和党議員の相次ぐ不祥事がブッシュ批判票となったものの、米国経済の好調の下ではその批判も民主党の地滑り的な勝利にはつながらなかった。両党の勢力は、むしろ拮抗したと見ておくべきではないか。

ここ2年ほど、こうした拮抗する選挙結果が多く見られる。ドイツの大連立(メルケル首相)然り、イタリアの左派連立(プロディ首相)然り。予想するに来年行われるフランス大統領選挙でも、サルコジ内相とロワイヤル女史との一騎打ちでは、かなりの接戦となるだろう。現状が続けば、英国でも労働党のブラウン次期首相候補とキャメロン保守党党首の人気も拮抗するのではないか。

こうした拮抗が続くのは、イラン、イラク、北朝鮮、中東、アフリカ各国など紛争や火種がある国際政治に比べて、国内政治では与野党の主張に大きな差がないためと考える。ラムズフェルド国防長官が更迭されたが、これは国際政治の関係だ。

与野党の主張に差がない理由

国内政治の主な仕事は、治安維持などの夜警国家的な部分を除けば、経済の状態を与件として、短期的、長期的に国内における所得の再分配を仕組むことである。取る方の税金、与える方の年金・補助金、公共工事、教育などいずれも、資本主義、自由主義社会に生きる人々にとっての目先の痛みを和らげつつ、長期的に国の成長を継続させるためにより効率的に資源を配分する機能を担っている。

この点について、与野党の主張の差が小さかったり、各国民に理解できない程度の差しかないのは、世界経済が好調なため、各国がその恩恵を受けており、国内で目先の所得分配を考える切迫感がないためである。こうした目先の問題に目が行き難い社会では、政策は構造改革といった中長期の問題に目が行くことになる。しかしながら、英国のサッチャー改革然り、米国のレーガン改革然り、日本の小泉内閣然り、よほど経済が行き詰っていなければ、構造改革は不人気政策なので国民に受け入れられにくい。これを成し遂げる政治家は、もちろん個人の資質も重要ながら、経済がよほど行き詰った時期に遭うという運が必要になる。経済好調の下では、より分配を拡大すべきという社会民主主義的な立場と、より競争を促進し自由に任せるべきという自由主義的な立場との差が現実にはさほど明確には出せないからだ。

国内政治の活路とは

しかし目先の切迫感がない、というのは本当だろうか。経済がグローバル化すると、一国の不況、特に米国や中国のそれは世界中に伝播する。不安定度は増したと考えるべきであろう。金融市場でも米国の中央銀行(FRB)の影響度は世界的になっている。

この観点からは、自由主義であろうが社会民主主義であろうが、政府の国内政治でもっとも重要なことは危機管理であり、社会的な混乱を抑止するためのセーフティー・ネットである。経済や市場で混乱が起きた時の回復策の点検、整備を行うことが、政治的にもっと訴えられてよいと思う。この点ハリケーン・カトリーナはブッシュ政権の国内政治での大きな減点項目となった。

次に、より大きな影響があるのは労働市場の国際化である。欧州内では東欧からの若年労働者が西欧へ流出している。また中国、インド、ロシアなど世界市場に供給される労働者の数が増えたので、ブルーカラーの賃金はこれらの国の基準に鞘さや寄せされる。この世界的な賃金の上昇鈍化が世界的なデフレをもたらし、先進国内でのホワイトカ与野党の主張に差がない理由ラーとブルーカラーとの賃金格差は拡大してきた。そしてこうしたうねりは景気の拡大と中国などの労働者の収入増加に伴う消費拡大により、インフレ方向へと舵を切りつつある。格差が拡大した後のインフレは低所得層を直撃する。政府は国内政策として、インフレに備えた財政余力の創出や金利政策の立案、労働者の再教育によるグローバル化による国内失業者のスムーズな職業転換などきめ細かい労働政策、そして移民問題に明確な方針を出すことが重要な争点となる。

ブレア政権誕生時の政治的思想は、サッチャー流自由主義でもなく、それまでの社会主義でもない、第3の道であった。しかし、それもグローバリズムの下で再定義が必要である。スローガンとしていえば、「短期的な危機管理と、長期的な社会的共通資本(教育、労働など)の整備を仕事とする比較的小さな政府」ということになろうか。これらの点を避けて通ることのない政治を行うことこそが、英仏の次期リーダーとなるべき資格と考える。

(2006年11月11日脱稿)

 
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Mr. City:金融界で活躍する経済スペシャリスト。各国ビジネスマンとの交流を通して、世界の今を読み解く。
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