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Thu, 26 December 2024

第41回 ブラウン氏は次の首相として適当か

ブラウン氏評価のポイント

他に人がいないから多分次期首相になると思うが、決着がつく前のこの時期に、改めてゴードン・ブラウン財相を積極的に評価するのかどうか考えておいてもよい。何回か彼の演説を聞いたが(1回はかぶりつきで)、時を経るごとに自信を増しており、声も大きく、メリハリも利いてきた。内容は英国国内のことよりも、むしろ欧州全体やアフリカ問題などグローバルな視点とこの点での英国の強みを強調することが多く、世界のリーダーとしての自負心を感じる。しかし、3年前に聞いたブレア首相の演説には大分及ばないように思う。なぜであろうか。

持って生まれた花というのはどうしようもないのでこの点は置いておくとして、国内政治で語るべき夢がないことが最大の問題であろう。ブレア首相の敷いた第3の道の先にあるものが特に見えない英国民に対し首相候補は夢を語る必要があるが、聞こえてくるのは外交やグローバルな話ばかりである。超大国の米国やせいぜい中国以外の国の政治家にとって、国際政治は政治家の業績や力量を計る材料としては普通二次的なものである。国民は国内政治の結果によって主に政治家を選ぶ。国際政治は、国内の目をそらしたり、国内をある方向に誘導したりする時に効果的に使える道具立てとしての意味を持っていると考えた方がよい(もちろん筆者は英連邦やEUを通じた英国の隠然たる外交力を評価しないものではないし、こうした視点も英国を見る上では極めて重要と思うが、本稿では国内政治に着目する)。「戦い取らない政権は短命」という政治の鉄則から見て、ブラウン財相の業績を振り返りつつ、国内的に何を目指しているのか、戦っているのかを問うてみたい。

ブラウン財相の国内業績

ブラウン財相就任以来の目立つ国内的業績は2つあると言われている。1つはマクロ経済政策の枠組みを一新したことと、もう1つはその枠組みをだましだまししながら徐々にNHS、教育などサッチャー政権時代に徹底的に切り詰められた社会福祉分野への投資を増やしてきたことである。

1997年の財相就任直後の金融政策で行ったイングランド銀行への移管、財政ルール作り(1つの景気サイクル内では、投資的財政支出に見合う分以外の借金をネットでは行わないというゴールデン・ルール)は、経済学の背景を持った施策として市場でも高く評価されている。もっとも、こうした政策による好景気はブラウン氏の単独の功績とは言えない。むしろサッチャー政権下での財政規律の回復、構造改革、これに伴うポンドの安定こそがマクロ経済政策の枠組み変更の大前提であって、ブレア、ブラウンの業績とは言いにくい。むしろニュー・レイバーの功績は、企業の国有化をうたっていた労働党綱領旧第4条を削除したことであろう。しかし、これは後向きの政策を排除しただけで、付加価値はほとんどない。前政権が用意した緊縮財政と構造改革の余得で、社会福祉分野への投資を増やすのは誰でも出来ることであり、それが効率よくなされていないとすれば、むしろやり方がまずいと批判される必要がある(キャメロン保守党党首は具体論でもっとここを突くべきだ)。後世の経済史家は、サッチャー氏は評価しても現在までのブレア、ブラウン氏の経済政策は、運用者としてはともかく、改革者としては評価されない可能性が高い。

どういう夢を語るか

英国で感じる最大の問題は、公的部門を含む独占または寡占組織、すなわちそれを担う中産階級や労働者のサービスの質の悪さ、非効率さである。実はいくらマクロ経済政策の枠組みがしっかりしていても、NHSや教育の理想や構想が立派でも、それを担う人材の意識や行動が変わらなければ、国民の利便は上しない。こうした組織は、独占や寡占(ここには、鉄道など国内における独占のみならず、国際弁護士など国際的に寡占を生む「英語が世界の共通語」という障壁などが広く含まれる)の上にあぐらをかいているのである。インドへのアウトソースや移民流入に危機意識があるのは、労働者の怠惰の裏返しとも言える。階級社会という面はあろうが、インド系も含めた勃興する中産階級をどのように市場原理に巻き込みつつ、弱者への保障をも重視する「第3の道」を実あるものにしていくかの方法論こそ、ブラウン氏が語るべきテーマではないか。PPP(政府と民間の共同事業)や市場化テスト(民間と公的部門とのコスト比較で事業の担い手を決める)など民営化手法をいくら工夫しても、結局その現場の担い手の多面的な気働きをどう引き出すのかが鍵だ。集団で付加価値を上げる点で優れているトヨタに学ぶべき点が多いと思うがどうだろうか(逆に日本企業トップは構想力のなさが問題であり、この点は英国のリーダーに学ぶべき点が多い)。12月6日発表のプレバジェット・レポートの評価も、こうした内容を含んでいるかどうかで評価するのがよいと思う

(2006年11月28日脱稿)

 

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