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Thu, 26 December 2024

第8回 ポンドはなぜ高いと感じるか?為替レートの決まり方(1)

1ポンド=100円が実感?

8月15日のロンドン銀行間市場でのポンドの対円為替レート(両通貨の交換比率)は、198円50銭である(歴史的推移は表参照)。1ポンド=100円の方が実感に合うとよく言われる。それならどうして200円前後が8年も続いているのか。今回は、世界一の為替取引量があるロンドンで、為替レートの決まり方について考えてみる。

Mr.City

為替レートはどこで決まるのか

為替相場は、各通貨の交換比率(値段、レート)である。銀行間では、ドル、ユーロ、円の主要三通貨で毎日平均8000億ドル(90兆円、4500億ポンド)もの取引が行われ、毎秒刻々レートが変わる。いわば卸売価格である。一方、銀行や両替屋が個人や企業と売買するレートは、いわば小売価格で1日1回決められる。卸売にせよ小売にせよ、レートは需要と供給で決まるのだが、その需給は売買する銀行、企業、個人のニーズにより決まる。

すなわち、個人や企業は、使うため(個人なら旅行に行くため、企業ならモノやサービスを外国に売った代金を自国通貨に換えるために外国通貨を売り、また原材料購入費や外国人への給与支払のため外国通貨を買うなど)や、貯めるために街の両替屋や銀行で通貨を換える。両替屋は明日の両替に必要な分以外は銀行に預ける。こうして通貨は銀行に集中する。銀行は、企業や個人が取引に使いそうな通貨をあらかじめ買う(これを売って手数料を取る)ほか、将来価値が上がりそうな、またはすでに金利の高い通貨をあらかじめ買って運用する。注意が必要なのは、卸値は銀行だけで決められるわけではなく、背後にある個人や企業の需要もあることである。

銀行、個人、企業からの通貨ニーズは多様であり、どのニーズを重視するかによって為替レートの決まり方の説明は異なってくる。ニーズ毎に想定している期間が異なっていることから、期間毎に為替レートの決まり方を支配している要因を説明する。

為替レートの決まり方──支配的な要因

(1)1秒~1カ月(超短期)──予想銀行の為替
ディーラーの投資期間は、1日、いや1時間、極端な場合には1秒である。最近のディーラーはプレステ世代なので、速射砲のように端末を叩く。また機械取引も飛躍的に増大している。超短期の間に値上がりすると予想するか、否かが支配要因である。値上がり予想は買い、逆は売りである。この予想は、バックにある企業や個人の需要(経済のファンダメンタルズ)を基礎にしつつも、それに影響を与える政治・経済・文化的な出来事など一切合切が瞬時に考慮され、また他の人がどう思うかにも非常に影響される。黒でもみんなが白と思えば、そうなる自己実現的な世界なので、流れを読めるかという理屈を超えた世界である。ただし、短期間だけに、英国株の暴落や当局の合意による誘導(プラザ合意など)など、ディーラーの予想を極端に変える事件でもなければ、1ポンドが1日で300円や100円になることは考えにくい。また1つの要因を巡って、今日の予想と明日の予想が逆になることもありうる。予想という要素が持つ為替相場への影響は、超短期では非常に大きいが、持続性はなく、毎日の振れを説明できる。

(2)1~6カ月(短期)──他国との金利差(英国の金利高)
通貨を持つことは投資の意味を持っている。投資で重要なのは、値上がり予想と金利である。通貨への投資は、その発行国への投資という側面がある。一国の経済は半年未満では金利を除き、そう大きくは変化しない。そこで銀行、企業、個人は短期的に高い金利の通貨を持とうとする。日本の金利がゼロ、英国が4・5%と累積して差が開いてきたのでポンド高となった。日英金利差がポンド高の一因である。ただし、この説明も半年程度の動きを説明するに過ぎない。

3)6カ月~1年(中期)──景気、財政政策
1年経てば国の経済は変動する。英国で企業の投資増加や公共投資の拡大などで景気が良くなれば、通貨に対する需要が増える、このため金利が上がり、ポンド高となる。一方、景気刺激のためイングランド銀行が金利を下げると、ポンド安になる。ポンド高は日本のデフレ、英国の好景気を反映している面がある。

(4)1~10年程度(長期、超長期)──他国との物価格差、経済成長格差
長い期間でみれば、ビッグマックはどの国でも同じ値段であるべきだという考えがある。同じモノやサービスの値段を、円とポンドで表示した場合のその比率に収斂(しゅうれん)していくという考え方(専門用語で購買力平価という)で、ビッグマックが英国で2ポンド、日本で200円なら1ポンド=100円であるべきという考え方である。この考え方は、長期レートを考える基本となるものだが、2つ落とし穴がある。

1つは輸出入できないサービスの値段は、国ごとに異なるということである。英国は、金融商品と情報を人種のるつぼロンドンで取引する。帝国主義時代からその経済力、政治力を背景に長年仕向けてきた結果、他国の競合を許さず、それにより大きな所場代を稼いでいる。すなわちホテル、レストランも含めた、その周辺法人関係サービス(弁護士、会計士、アナリスト、IT、情報メディアなど)は、サービス料金が輸入できるモノよりも極めて高くなる。したがって英国内外で同じ値段に収斂する筋合いの貿易品に比べ、サービス料金も含めると英国内での生活実感は、非常な物価高になる。さらに、そうしたサービス関係は職種の給料が高いため、それらの人が買うモノは英国産、輸入品を問わず、特にロンドンでは値段が上がることになる。このため、輸入品だけで見た購買力平価よりも市場レートはポンド高になる。

もうひとつは、日本の輸出品である工業製品の質が年々良くなっており、図式的に言えば、日本は2倍性能が良い製品を同一価格で売れるようになっている。そうすると従来の製品の価格は半額になることから、そうした進歩がない英国の工業製品との購買力平価は半額の円安になる。これら2つが、特にポンドが高い要因となる。

為替レートの予想

こうした考え方は、どれか1つだけが正しいわけではなく、想定している期間内にどの要素が重視されるか、という問題である。その意味で、為替レートの将来予測をすることは際めて難しい。なぜなら、どれくらいの人がどの期間、いくら投資するのかは事前にはわからない、途中で気が変わるかもしれないなど不確定なことが多すぎる。これで「将来はわからない」ということがわかっていただけただろうか。

なお、為替相場制度の問題は、今後ますます重要性を増す。先進国間での変動相場制と途上国の対米ドル固定相場制(ペッグ)という70年代以来続いている現在の世界通貨の枠組みに今後大きな変化が生まれることもありうる。7月21日には中国が人民元の通貨バスケット制移行を表明した。なぜ、かつてのように1ドル=8・27~8人民元の固定相場ではいけないのか、次回は為替相場における応用問題を取り上げたい。

(2005年8月15日脱稿)

 

Mr. City:金融界で活躍する経済スペシャリスト。各国ビジネスマンとの交流を通して、世界の今を読み解く。
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