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Thu, 25 April 2024

第17回 経済から見た2006年(予想と予想外)

今年の英国経済

英国の年末商戦は予想ほど盛り上がらなかったという結果が報道されていたが、実感として英国の景気が今後急速に陰るとは思いにくい。ロンドンと地方は違うということかもしれないが、クリスマス前のオックスフォード・ストリートは 人込みで歩けないくらいであった。シティのエコノミストや経済紙、政府、イングランド銀行など専門家の予想を見ても去年と大きな変化があると予想する人は少ない。

英国の経済成長は、これまで調子が良かった景気が後退するとの予想や住宅価格の上昇が一息つくとの予測から、消費者の購買意欲が伸び悩み、全体として鈍化するとの見方が多い。しかし鈍化といっても1.5から2%くらいで、これくらいなら景気が悪いとは言いにくい。英国経済の好調の基本的な原因である世界経済の好調、移民流入の拡大と中国などからの安い製品の輸入が続けば、大きな崩れは予想しにくい。
そうであればポンドの対円、ユーロ相場も大きく崩れることはないとみておくべきであろうと言われている(奥歯に物の挟まった言い方だが、最後まで読んでもらいたい)。

財政赤字が労働党政権下でじわじわ膨らんでおり、北海油田の生産量減少とあいまって、英国経済がゆるやかにピーク・アウトしつつあるということだけは確かそうであるが、急に悪くなるという感じではない。

世界経済では

より重要なことは、英国が典型であるように、世界経済と先進国のみならず、あらゆる国との連動性、連携性が非常に強まり、そのスピードが一段と加速しているのが2000年以来の世界経済の特色である。これまでは、そうした構造は世界的な経済の好調を支えてきた。中国やロシア、東欧からの低賃金労働の解放、インドでの識字率向上への地道な試みの開花などから、安い労働力が世界的にあふれた。この労働力により物価の上昇予測が非常にマイルドなものとなったため、ITバブル崩壊に対して下げられた金利が世界で反転することなく、カネが世界中で余っている。米国が世界中から安い商品を買い続ける限り、こうした循環は続きそうである。

米国について景気はピーク・アウトしたとの見方でエコノミストは一致している。そうであれば、米国の金利はもう少しで天井となる。それでも米国人の購買意欲が強いとすれば、世界の景気は悪くなりようがない。

God Knows.

では、まったく楽観的でいて良いのか。
ここが肝腎なところである。

上に述べたような去年と比較的大きく変わらない という予想は、普通に皆するところである。1929年の世界 的な金融恐慌の前年に発表された米国の中央銀行であるFRBの年次報告にも、上に述べたのとほぼ同じような非常に楽観的なことが書いてあり、気がかりなのは「住宅価格が少し下がったことだ」とある。大恐慌の前年は、後から考えれば滑稽なことだが非常に経済予測は落ち着いていた。だからというわけではないが超楽観論は禁物と思う。皆が安心したとき は安心しない方がいい。何せグローバライゼーションのスピ ードは一段と加速している。 去年、金融市場に有り余るカネは、極端な金融商品まで行き着いた(ブラジルの裁判所での損害賠償請求権を束にして買い取る例もあった)。
グローバル化で人間の考えることは地理的な際限がなくなった。共産主義だから相手にしないということがなくなった。通信手段の発達と航空規制の緩和が効いていることは言うまでもない。人の活動があれば借金や貸し借りが生じる。それを安く買い取って差額をもうけることができないか、自分のリスクを移転し、またはあえてリスクを取れないかと考えている人がシティには五万といる。母国語英語で商売できれば何ら障壁はない。こうした債権を買い取れる人は、損しても問題ない欧州の金持ちたちではあるが、英国人の年金運用会社も、日本人の年金運用会社も、こうした投資の前座に手を出し始めている。もちろんリスク管理をしながらなのだが、こうしたリスク管理の前提は、上に述べたような、常識的な人々の予想である。もっと詳しく言えば、過去10年くらいに一時期に起こった損失の3倍くらい大きな損失が実現しても破産しないような範囲で投資をやっている。しかし、過去10年は比較的平和な時期であった。その3倍より極端なことが、1%くらいの確率で起これば、破産者が山となる。1929年から約80年、一旦こうしたことが起これば、グローバル化は世界を同時に恐慌に陥れるであろう。昔、鄙*の1年は、江戸の1日と言った。今ならロンドンの1秒か。

お金のない人は、どう備えるべきか。自分にしっかり投資することが最もリターンの大きな方法と信じる。その上で、こういう大きな歴史のうねりの時こそ歴史をもう一度学び返し、そもそもの原則に立ち返り物事の原理から考え直す必要が出てきていると思う。通信技術と輸送手段の発展は、近代の人間関係、企業や市場と人との関係、国家関係を加速度的に作り変えている。

2006年だけを心配しても、予想は当たらないし、意味もないという結論になった。

(2006年1月4日脱稿)

*都から離れた土地のこと。

 
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Mr. City:金融界で活躍する経済スペシャリスト。各国ビジネスマンとの交流を通して、世界の今を読み解く。
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