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Fri, 19 April 2024

第18回 ロシアの熊

ビジネス界でホットなロシア

17日にモスクワの最低気温はマイナス30度を記録したそうだが、一昨年来ロシアは、シティではホットな話題の中心にいる。

話題となる理由の第1は、ビジネスにおける存在感の高まり。ロシアの大富豪で英国の名門サッカー・クラブ、チェルシーのオーナーになったアブラモビッチの例を出すまでもなく、2002年以来高騰してきたエネルギーの売却代金は、大きな富をロシアにもたらした。こうした富は一部の富裕なロシア人を生み、金持ちの大消費ブームとなっている。日本車や電化製品が売れており、対応して在英日本企業も工場、事務所、支店開設などを目指して、ロシア詣でが一種のブームとなってきた。これまでのロシア・ビジネスのイメージは、官憲は袖の下を要求し、それがばれないように現金決済を求めるというものであった。ビジネスが長期に続く要諦である透明性、公平性に欠けていた。現に日本製品の決済代金は隣国フィンランドの保税倉庫に一旦持ち込まれ、ロシア国境で品物と引き換えに現金を払うということが多かったと聞く。さすがにロシアもそうした評判が続くのは好ましくないと考えたらしく、最近では銀行を通じた代金決済を認めるようになってきたようである。さらにプーチン大統領は、ロシア企業の経営の透明性を高め、資本主義的なセンスを見につけさせるために、米国の企業経営者を政府系企業のトップに招こうとしているとの報道が連日なされている。

経済面での今ひとつの存在感は、エネルギー売却代金が外貨準備として蓄積され、その運用が金融市場に大きなインパクトを持ってきつつあることである。現在最大の外貨を持つ国は日本であるが、中国がその3分の2、ロシアがその3分の1弱の外貨を持ちつつある。仮に、彼らのポートフォリオ*がドルから離れ始めたことがはっきりすれば、国際通貨としてのドルのヘゲモニーに大きな影響を与えるであろう。

資源国としての強気の政治姿勢

存在感を高めている第2の理由は、強気の政治外交戦略。

例を挙げると、

A)今年初めのウクライナに対するガス供給停止。かつての最大の友邦に対して、これまでの安いガス供給を止め、市場価格での売却をのまねばパイプラインを閉めるとの一方的な
通告を行い、実際パイプラインを閉めた

B)イランの核利用再開が核拡散の観点から世界政治で大きな問題となる中で、イランの原子力発電施設に対する濃縮ウラン提供などの商業面からの支援を行い、査察強化や制裁一方の欧米と異なるアプローチをとっている

C)日本と共同開発で進めてきたシベリア天然ガスの中国への供給可能性に言及したと、いずれも高騰するエネルギー、すなわち原油、天然ガスとその価格高騰の反射効果である原子力問題における資源国として有利な立場を通じた、強気の政治外交戦略が目立ってきた。ロシアの「熊」が、ソ連崩壊後の冬眠から覚めてのっ
そりと出てきた感じである。

そして第3の理由は、軍事力における復調傾向である。むろん最大の軍事大国米国には及ばないが、2002年の軍事費はGDP比4%とG8や中国を含めた大国の中では格段に大きく、経済成長を背景に装備の充実が図られていると言われている。

そしてこれから

資源価格が大きく低下するとは考えにくい状況下、ロシアの存在感の高まりは今後も続くと予想される。ロシア語のできる人は、もてはじめている。
しかし落とし穴はないであろうか。日本人のみならず英国人にとっても、ロシアは熊のイメージがある。何となく垢抜けていなくて、ご愛嬌という面もあり、反応も鈍いが、腕力はあるし、何を考えているのかわかりにくい。as sulky as a bearという感じである。政治的な不安定さ、官僚主義、腐敗と犯罪というイメージはいまだ払拭されていない。ロシアは米国主導のグローバルな秩序の安定を与件として、資源国や消費国を超える産業を育成できるのか、それができる人材を国際的に招けるのか、ロシア人自身が育つのか、第二世界からの脱却に長い戦略を描いていることであろう。
しかし、事は簡単ではない。地下から掘り出した資源を売って得たあぶく銭は身につかない。最悪シナリオは、民主主義や透明性がなく、こわもて強権官僚と資本主義の暗部を兼ね備えた世界の脅威である。笑顔でもプーチンの目は笑っていない。
ところで極東の安全保障は、第二次大戦前と同様、日中朝(南北)米ロの5カ国が大きな利害関係を持つ。日本にとっては、もちろん対米関係を対中国とどのようにバランスをとりながら維持・再構築していくのかが最重要ながら、ロシアとどういう関係を結べば、対中、対米に有利になるのかを忘れてはなるまい。ロシアは南下を牽制すべき対象であると同時に、帝国である米国と中国に対する牽制カードでもある。
ロシアの第二世界から第一世界への脱却に日本はどういう手を差し伸べるべきかを考えることが、北方領土返還の近道であろう。

(2006年1月19日脱稿)

*運用対象となる資産の組み合わせ

 
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Mr. City:金融界で活躍する経済スペシャリスト。各国ビジネスマンとの交流を通して、世界の今を読み解く。
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