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日経電子版Pro
Sat, 17 April 2021

第69回 欧州春闘とスタグフレーションの行方

欧州春闘始まる

欧州では、年始から春闘が始まっている。ドイツの公務員が皮切りだ。中国など新興国からの安い輸入品の影響で物価が安定していたため、これまでは景気が良くても賃金は抑えられてきた。そこで今年ドイツ公務員労組はこれまでの抑制分を取り戻すべく、3年ぶりのプラス、しかも驚きの8%賃上げを要求している。その半分となる4%でも欧州のインフレ率3%を上回るほどの賃上げ額になる。

労組が強気なのは、今年は地方選挙を前に政治の強い後押しがあるからだ。メルケル首相を始めとする政治家は、賃上げの必要性と経営陣の高額賃金批判を訴えている。特に鉄鋼、化学、鉄道、農業の分野が強気だという。またフランスではサルコジ大統領が人員減と昇進スピードを遅くする代償として公務員の賃上げを約束した。労組との交渉を拒む経営者には補助金と税制優遇の廃止をほのめかしている。

一方の英国では景気の陰りが見えはじめ、ブラウン首相は賃上げをインフレ率未満とすると強硬に主張している。イングランド銀行は金利を下げつつも、潜在的な賃上げ圧力が強いことに警戒感を示すなど、大陸とはやや様相が異なる。もちろん教師や看護婦、警察、地方公務員からの反発が強いのは新聞報道通りだ。エネルギー、食料価格の上昇から一定程度の賃上げは不可避であろう。


世界経済との関連

前回、今年の経済の課題の1つはスタグフレーション* だと書いた。今年の春闘がスタグフレーションの行方を考える上でなぜ重要か、少しこれまでの世界経済の歴史を復習しておきたい。共産圏崩壊が引き金を引いたグローバリゼーションは第3段階に入った。2000年までは中国経済が勃興し、低価格品を世界中に輸出したため、製品価格が下落した。だから世界物価は安定し、世界賃金は下落、金利も低下したのだ。第2段階として、20世紀末に世界景気の好調と新興国の需要増から一次産品価格が急騰したが、中国での賃金上昇がマイルドなものに留まったため(農村からいくらでも人が来た)、世界賃金も横ばい、世界物価もマイルドな上昇に留まった。この間、経済好調な英米は金利を引き上げ貯金したが、バブルの後始末と構造問題を抱えるその他の欧州諸国は金利の引上げが出来なかった。

そして去年からが第3段階で、中国の賃金がいよいよ上がり始め、中国製品価格が値上がり始めた。一方欧米や日本企業は景気の恩恵を受け収益が好調だ。労組の要求どおり賃上げが通れば、単純な原材料価格の上昇から賃金を介して製品価格に跳ね返ってインフレに入る。そこに米国発のサブプライム・ローン問題を起因とする消費不況が来る。英米はまず金利を引き下げに来た。イングランド銀行が2007年12月に金利を下げ、FRB議長も大胆な引き下げを1月中旬に明言した。過去の貯金が効いてきたというべきだろう。しかしインフレのプロセスに入ったときの金利引き下げには限界がある。そこは財政の出番となろう。

世界経済の動向を決める要因の変化


日本でのベアの意味

苦しいのは金利の下げ余地が限られるECB(欧州中銀)と日銀だ。そして日本は財政も後がない。そうした中で日本経団連は賃上げを容認した。日本の素材産業大企業の社長の年収は今や1~2億円で、交際費も同額という。さすがにベアもやむを得ないということなのだろうが、本当に経営努力によるのか、単なる中国勃興による僥倖(ぎょうこう)なのか、よく考えた方が良い。

* インフレと景気悪化が同時に進む状況。金利政策をどちらの状況に合わせるべきかの判断が難しい

(2008年1月12日脱稿)

 
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Mr. City:金融界で活躍する経済スペシャリスト。各国ビジネスマンとの交流を通して、世界の今を読み解く。
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