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Thu, 26 December 2024

第19回 預言者風刺に思う

騒ぎの拡大と金融市場

イスラム教預言者の風刺漫画が昨年9月デンマークの新聞に掲載され、それを今年1月ノルウェーの雑誌が転載した。
これがイスラム教徒の間で問題視され、各地でデンマークやノルウェー大使館に対するデモや暴動が起きている。

(表1)風刺漫画をめぐるこれまでの動き
2005年9月 デンマークの新聞が預言者ムハンマドの風刺漫画を掲載
2006年1月10日 ノルウェーのキリスト教雑誌が転載
2006年1月29日 リビアがデンマーク大使館の閉鎖を発表
2006年2月1日 フランスなど欧州(英国を除く)の新聞が転載
2006年2月2日 アナン国連事務総長が報道とイスラム教徒に自制を求める
2006年2月4日 シリアのデンマーク大使館が襲撃される

これに対して金融市場はどのように反応したのか。
デンマーク・クローネ相場は、暴動が始まり、騒ぎが大きくなる2月より前の1月20日から急落している。

(表2)デンマーク・クローネの対ドル現物為替レート(左目盛%)

注意すべきは先物相場の動きで、現物相場に先駆けて1月上中旬から大きく下がり始めている(先物3カ月レートが拡大しているということは、先物が相対的に安く、将来のクローネ安が予想されているということ)。ということは、騒ぎを見越して通貨を先に売った者がシティにはいるということであり、そのディーラーは下落により大もうけしたと予想される。もちろん為替相場は今回の要因だけで動くものではない。ただ現実の暴動と金融市場での通貨や当事国の債券の売買は一見何の関係もないようだが、ここまで相場が事実を先読みしているとなると、マッチ・ポンプのリスクがあるかもしれないと思うのは考え過ぎだろうか。両者を結び付けているものは、ITによる個人同士の直接のつながりではないか。

ブログ、インターネットという接点

表1をみると暴動はこの1カ月で大きな盛り上がりを見せた。新聞報道が後追いとすると、短期間での抗議行動の拡大には、ブログやネットのサイトでの会話が大きな力を持ったのではないか。去年の中国での反日デモや暴動、フランスのパリ郊外などでの移民2、3世の暴動も同じ構図だ。経済的に恵まれなかったり、どうしようもない貧富の差があったり、強い憎しみがあったりすると、ある事件とそれをセンセーショナルに取上げるブログとメールによって、国を越えて連帯が広がり、直接行動につながっていくパターンが出来つつある。これは、プロが時には自爆もいとわず、社会システムを破壊することで強い憎しみを実現するテロとは異なる、いわば扇動型の大衆動員による反社会行為だ。
ただ、インターネットの世界はヒトラーという求心力がある世界とは異なる。ブロガーは軽い気持ちでしか書いていないことも多い。しかし、求心力のなさは自由な金融市場の得意とするところだ。最先端のディーラーはブログをよく見ているし、書込みさえしている。
クローネの大きなポジションを持つディーラーが、1月初め位からブログに匿名でイスラムを扇動する書込みを行い、同時にクローネを先物で売っていたとしたら? 個別企業の株で同じことをすると相場操縦や風説の流布(根も葉もない噂をわざと流して、株価に都合のよいように影響を与えること)で犯罪になるが、社会や国家に関わる場合には、立証は非常に難しい。そういうことが実際にあったかどうかはわからない。しかし、そういうことが可能な社会に我々は生きており、そういうことを考える人が金融の世界にいないわけではないと知ることは今後の対応を考える上で重要だ。

ロンドン・シティという場所

世界的なカネ余りの下、金融機関、投資家は投資先に飢えている。価格の動くものは何でも投資対象になるし、動かないものは動かしてしまえというところまで来ているような気がする。
「ル・モンド」など仏各紙や独伊の新聞や雑誌は、表現の自由を守ると主張し風刺漫画を転載したが、シティを擁する英国の新聞は転載していない。
「EVILにはならない」を謳い文句とする米国のGOOGLEは中国版における検閲を容認したし、BBCも中国向け教育番組で同様の容認をしたとの報道がある。

英米、特に英国のプラグマティズム、バランス感覚というか、ご都合主義は、堂に入っていると思えるがどうだろうか。

(2006年2月6日脱稿)

 

Mr. City:金融界で活躍する経済スペシャリスト。各国ビジネスマンとの交流を通して、世界の今を読み解く。
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