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Fri, 22 November 2024

第79回 インフレーション来たりなば

インフレーションが来るか

今年最大の経済問題は「政治」、そして最大の政策テーマは「スタグフレーション」と年初に書いて半年。その確信は深まっている。各国の政治問題への解決能力の低下と、政党間の政策の無差別化は予想通り進捗(しんちょく)している。また原油や商品作物価格の高騰と米国の景気減速は、はっきりスタグフレーションの形を示している。先日の「エコノミスト」誌も「インフレが戻ってきた」をテーマとしていた。日本はまだしも、ロンドンでは値上げラッシュだ。また中国、インドネシア、サウジアラビアで年率8~10%、ロシアで14%、アルゼンチンで23%、ベネズエラで29%の物価上昇と聞けば、一過性の現象とは断言できないだろう。

「フィナンシャル・タイムズ」紙をはじめ、経済論壇では70年代のオイル・ショックと比較する議論も多くなってきた。共産圏崩壊による低賃金労働者の解放を原因とする世界的なデフレの後なので、人々のインフレ期待(物価が連続して上昇すると期待して、行動すること)はまだ高いとは言えないが、しかし警戒すべきというのが先進7カ国(G7)の公式見解となっている。

それでは、どのように警戒すればいいのか。今回の値上げラッシュは、産油国の石油国有化運動としての供給サイドのショックが問題ではなく、BRICs*1、VISTA*2各国の生産拡大からの需要ショックに加えて、低賃金を原因とした低い物価上昇率ゆえに金利を低く据え置いた金融政策を背景として、流動性の高いマネーが不動産から商品に流れ込んだことが原因である。そうなら、元を叩くためには原油や商品の生産増加と合わせて、総需要抑制を行うしかないと思う。

白川新日銀総裁のコメント

この点、日銀の白川新総裁は、4月に行われた会見でこう説明している。供給ショックに対する金融政策対応がどうあるべきかについては、昔から考え方は比較的整理されている。まず純粋に供給サイドの問題であれば、これは消費国からみると景気減退要因だ。この物価上昇が一時的な要因の場合、つまり期待インフレ率上昇を通じた物価上昇をもたらさないのであれば、金利を上げて、これに対応することは適切でないと考える。一方、期待インフレ率上昇をもたらすのなら、金融政策で対応すべしというのが、オーソドックスな考え方だ。

だが現在起きているショックは、実は単純な供給ショックだけではなく、新興国の成長が拡大し、その結果資源価格が上がっているという需要面の動きが背後にある。そうなると、需要要因が既に働いているので、単純に生産を増やすだけでは適切でないということになる。

基本的には、日銀は物価安定の下での持続的成長を目指すから、少し長い時間的視野の中でデータに則して判断してい く。要するに統計が揃わないので即断できないが、生産増を図ったり、インフレ期待を金利のみで抑えても限界があるので、合わせて総需要抑制が必要ということだろう。筆者も同感である。

賃金インフレ

「エコノミスト」誌の処方箋は、BRICsなど新興国の金利引上げと為替切上げだ。これも総需要抑制策だが、おいおいと思わないだろうか。アングロ・サクソンはまたも自分らの問題を棚に上げて新興国サイドだけ調整を求めるのか。「フィナンシャル・タイムズ」紙においてのマーチン・ウルフ氏の論調もいつもそうだ。次回秋のG7の方針もミエミエで、中国、ロ シアに金融引締めと為替切上げをドル暴落にならない程度に迫るだろう。では、この間の英米の狂った不動産投資や低貯蓄率、さらには投資銀行やヘッジファンドの行動には問題はないのか。世界インフレの碇(いかり)だった中国など新興国の賃金も、先進国が物を買わなければ上がらない。でも中国製品やインドのITサービスがなければ英米企業は経営が成り立たない。結局、筆者の考えでは総需要抑制といっても気休めで、短期的には北京オリンピック前後に踊り場があっても、中期的にインフレは不可避だ。

またインフレで最も苦しむのは、世界の半分の人口を占める新興国未満の国々の国民だ。今こそ世界レベルでの政治の構想力が必要となるだろう。ベネズエラなど新興成金国の無駄遣いを一刻も早くやめさせるべきだ。また7月のサミットでは日本がリーダーシップを取れるのか。福田首相は「大きいことに、どんと挑戦」と言っている由だが、温暖化問題だけで十分か、はてさて。

*1 経済発展著しい、ブラジル、ロシア、インド、中国の4カ国を指す
*2 同じく、ベトナム、インドネシア、南アフリカ共和国、トルコ、アルゼンチンのこと

(2008年5月25日脱稿)

 

Mr. City:金融界で活躍する経済スペシャリスト。各国ビジネスマンとの交流を通して、世界の今を読み解く。
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