ウルトラマンとサンダーバード
80回記念にちょっと変わった視点から。ウルトラマンとサンダーバードを知っていることが以下の話の前提になるので、まずはその説明をしたい。ウルトラマンは日本の円谷プロが1966年から製作した子供向けヒーローもののテレビ・ドラマの傑作で、筆者も子供の頃夢中で見ていた。まず怪獣が出現し、科学特捜隊(自衛隊よりだいぶ強い)がミサイル攻撃などで何とか退治を試みるがうまくいかず、日本がピンチに陥る。その時、同隊員の1人ハヤタがウルトラマンに変身し、怪獣を退治する、という30分番組だ。
一方、サンダーバードはロンドン、ハムステッド生まれのジェリー・アンダーソン氏率いるAPフィルムズが1965年に製作した子供向けのテレビ人形劇で、時代設定は西暦2065年となっている。米国の世界的な大富豪、ジェフ・トレーシーが、一つの国や救助組織では対応できない大惨事から人々を救出するため国際救助隊を設立。南海の孤島から、トレーシーが指示を出しつつ、5人の息子スコット、ジョン、バージル、ゴードン、アランが超音速ロケット機サンダーバード1~5号に乗り込み、事件を解決したり、悪者を懲らしめたりする。ウルトラマンのような超人は出てこない。ロンドンには従姉妹できれいなクイーンズ・イングリッシュを話すペネロープ嬢がいて、スパイ活動をしている。
いずれも60~70年代の子供が夢中になった番組で、最近ではリバイバルもなされている。
日英番組の違い
さて、ここからが本論だ。両者共に子供番組ではあるのだが、それぞれ問題解決のパターンが異なっている。ウルトラマンでは、科学特捜隊は問題解決に直接役立ってはいない。同隊は、怪獣から逃げる人々の避難誘導などはするのだが、怪獣そのものに対しては無力だし、怪獣を操る宇宙人をやっつけたりすることはない。結局ウルトラマンが出てこないと問題解決はできない。
一方サンダーバードでは、まず長兄スコットはいつも真っ先に現場に駆けつける。問題に直接手を下すことはなく、周りの関係者に事情を聞いたり、現場検証をしたりして徹底的に問題点を洗い出す調査を行い、その調査結果を南海にいる父親に報告する。すると父親は、いろいろなものを運搬できるサンダーバード2号(次兄バージル搭乗)に必要な機器を積み込ませ出動を命じる。2号は現場で適切な機材(地底車、深海艇=4号、クレーンなど)を使い、ロケット=3号、宇宙ステーション=5号などとも連絡を取り、問題を解決する。
鍵は、1号に乗り込む長兄のスコットの調査と父親が務める司令塔にある。ヒーローが問題をすべて解決する水戸黄門のようなウルトラマンと、①現場での調査②リーダーシップに基づく問題解決、を重視するサンダーバードは、日英の違いを表していないだろうか。
英国の調査癖
英国の調査癖が始まったのは、古物の収集が盛んに行われるようになった16~18世紀からではないか。特に17世紀の海外貿易や植民地政策は、海外から希少な動植物や珍品を英国にもたらした。そして上流階級のコレクションが、当時の社交場として機能していたコーヒー・ハウスの陳列室に展開。1759年になると大英博物館が開館し、産業革命を経て、中産、労働者階級の教育を主な目的としたその他の博物館が相次いで作られた。
今でもオックスフォードやケンブリッジでは、非常にマイナーだがユニークで、何の役に立つのかと思われる調査を行う学者も多い。筆者は英国人の学者から、ケンブリッジで三島由紀夫、谷崎潤一郎、丸谷才一の文章読本の違いを、王立国際問題研究所チャタム・ハウスでは京都の町の構造を、いずれも日本語で説明されて面食らったことがある。子供の通っていた小学校でも3年生でローマ帝国が現代英国に与えた影響という題でリサーチ、発表させ、その後激しい討論が生徒間で行われた。「調査分析とその批判的討議」に意味があるというのが先生の説明だった。ロンドンの金融業も世界的な情報収集や調査が土台である。この点で日本、東京の金融業は、まだローカル色を脱していないように思われる。
政治分野でも、筆者の専門である経済分野でも、グローバルなスタグフレーションの下で行き詰まり感があるが、従来と異なる発想は地道な調査からしか生まれ得まい。さて、ウルトラマンとサンダーバードを両方見て育った筆者も含め、日本の40歳代から地道な調査を踏まえた新発想が生まれるだろうか。
*本稿は、大垣尚司氏の本からヒントを得ている
(2008年6月15日脱稿)
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