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Mon, 15 August 2022

第83回 iPhoneとC to Cの時代

iPhoneの特徴

以下アップル社の宣伝ではないことをご了解のうえ、お読み頂きたい。iPhoneのすごさというか、画期性はどこにあるのか。アップル社が宣伝しているように、世間では「マルチタッチ・スクリーン、加速度センサー、GPS、リアルタイム3Dグラフィックス、3Dオーディオなど、これまでの携帯電話にはなかった機能、さらにはApple Storeから500を超えるアプリケーションを選んでダウンロードできること」と言っている。

何のことかさっぱり理解できないという人は、完全にデジタルデバイドされている。だが先月に開発元のアップル社のプロモーションで、同社のCEOであるスティーブ・ジョブズ氏が強調したかったのは、これらの機能ではない。一番重要なことは、「無料ソフトを活用して、誰でもすぐにiPhoneで使えるアプリケーションの開発を始めることができる。さらに、アップル社のiPhone開発プログラムに申し込むと、iPhone実機上でコードを検証したり、Apple Store経由でフリーウェアや商用アプリケーションを配布したり、Ad Hoc配布チャンネル経由で友人、家族、同僚に配布したりすることができる」ということだ。

C to Cの時代

つまり、誰でもiPhoneで使えるアプリケーションの開発をして、それを他人に売れるということだ。ここがWindowsやMac、そしてもちろん日本の携帯電話などとは発想が違っている。これらのいわば基盤上で動くソフトを扱う企業は、ライセンス料を支払って互換性のあるソフトを開発し売っている。Wiiとかプレイステーションのゲームソフトもそうだ。

一方でコンピューターの世界では、特定の業者に依存しないオープン・ソース化が非常に進んでいる分野がある。基盤そのものを公開して、インターネットを通じて皆で知恵を出し合ってより良いものを作って共有する、という開発手法である。そこでの動機は金儲けではなく、「楽しい」という気持ちだ。その形式がモバイルまで来たということだろう。

これまで家電メーカーは、目的を特定した外枠に専用に動くソフトを乗せ、その内容は企業秘密にして先行開発利潤を得てきたが、このモデルは崩壊しつつある。iPhoneによって不要になりそうなものを挙げると、電話、手帳、カメラ、パソコン、ラジオ、テレビ、CDプレーヤー、DVDプレーヤー、時計、電子辞書、GPS、メトロノーム、メモ帳、ゲームなどに加えて、他にももっとあるだろう。

今後個人がアプリケーションを自由に開発するとなると、どんなことができるのか。その答えを探るのがジョブズ氏の狙いだろう。これは消費者に消費者がオープン・ソースを通じて対峙する「Customer to Customer(C to C)」という図式である。もちろんアプリケーションの開発はプログラミングの知識を要するので、誰でもできる訳ではないが。

この時代で残っていくもの

C to C時代に残るのものとは何か。やはり本物の作り手と、彼らの技術を求める消費者のニーズとなろう。オーダーメイドのiPhoneの発想は、それこそバイオ・ベンチャーが目指す個人の遺伝子に対応した個人薬、無農薬栽培農家からの野菜の購入、個人のためのオーダーメイドの靴などと同様、本物の職人や作り手に富をもたらし、中間搾取する、中途半端で消費者のニーズに応えられない大企業を淘汰していくであろう。日本ではiPhoneと競合する企業が、嫌がらせのためか同機種へのバッテリー供給を停止していると聞くが、もうそんなことをしている場合ではないと思う。

コミュニケーション・ツールの変革は、ここまで大きな経済変動、構造変動をもたらし得るものである。一方で食欲、睡眠欲、性欲など肉体に関わるもの、直接体験(植物の栽培、旅行、陶芸など)や手触りといったものに関しては、ITのみでは実現できないため、引き続き残ることになる。

こうした事態を鑑みると、需要サイドで個人の好みがはっきりと出されていくのに対して、供給サイドはこれにどんどん応え得る状態になっていくと思う。こだわる人がこだわって楽しめる時代が来たということであり、筆者のように戦後の集団で何でも画一的にやるということに慣れた世代こそ、まさにデジタルデバイドに陥りやすいのではないか。いやもう陥っているかもしれない、と自問自答する今日この頃である。

(2008年7月23日脱稿)

 
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Mr. City:金融界で活躍する経済スペシャリスト。各国ビジネスマンとの交流を通して、世界の今を読み解く。
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