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Mon, 15 August 2022

第96回 2009年の世界経済 - 変動と安定どっちが好き?

変動は当然の資本主義

あけましておめでとうございます、本年もよろしくお願いいたします。

年頭にあたって、2009年の世界経済を考える視点を提供したい。端的に言うと、皆さんは変動と安定のどちらが好き? ということだ。どちらがいいという普遍的な価値判断はなく、いわば好みの問題とも言えるのだが、生まれた国や住んでいる国がこの問いに対してどう対応するかにより、個人の人生は左右される。英国は歴史的に変動好きだし、日本は小泉総理のときに少し変動好きになったが、今や安定好きに針が戻った。

資本主義、グローバリゼーション、企業はもともと変動好きだ。予測できない未来のリスクを取って商売する。成功も失敗もある。当然、予期せぬ変動で損することも多い。サブプライム問題で企業や金融機関が大きな損を被るという事態は当然予想されたもので、それ自体はあわてるほどのことではない。去年前半は、素材価格上昇の一方、サブプライム問題で景気が悪化し、スタグフレーション(景気悪化と物価の連続的上昇が同時に起こること)がテーマだった。後半は金融危機と景気悪化の深刻化だ。前半は読み通りだったが、後半で発生した金融市場の相場の崩れと景気悪化の速度は筆者の予想を上回るものだった。企業にとっては、世界経済の変動スピードの「速さ」を身をもって学んだことになる。その上で今年、特に春先まで警戒すべきは、米国経済の極端な落ち込みによるニューヨーク株価のハード・クラッシュである。そうなると世界恐慌になり、以下の議論は一時棚上げになることには留意されたい。


予期せぬ変動に耐えられない個人・政府

生身の個人すなわち労働者や、民主主義を前提とする政府、そして公的側面を有する金融機関は予期せぬ変動に耐えられない。ある程度の安定が必要だ。サブプライム問題でトヨタ自動車が減産し、名古屋の中小企業の派遣社員が首を切られて野宿では、本人は何も悪くないのにあまりに可哀想、ということになる。クルーグマン米プリンストン大教授(昨年のノーベル経済学賞受賞者)が言うように、米国はもはや比較優位からみても自動車を作る競争力がないにもかかわらず、オバマ新大統領はビッグ3(米国の3大自動車会社)を救済せざるを得まい。

今年の世界経済の動きを左右するのは、各国政府の動きだ。ポイントは、①景気悪化において財政赤字が拡大・深刻化②規制色の強い政治③自国に有利なように国際政治を動かすブロック経済化④米国が内向きになればテロリストが蠢動(しゅんどう)、と結構難しい年になる。大事なことは、各国政府や中央銀行が企業の経済活動の回復振りをよく見ることと、過度にパターナリスティックにならないことだろう。干渉主義は資本主義のダイナミズムを台無しにして、将来の発展を阻害する。この辺り、変動好きな英国や米国のさじ加減が重要で、過度の財政赤字は将来の大インフレになりかねない。


安定好きな日本の将来

もともと安定好きな日本は、最も困難な状況にある。日本政府はサブプライム問題の打撃は小さいと言っているが、これは間違いだ。去年は、日本の構造問題(ここでは生産性を向上させない企業は倒産制度を通じて退場し、または株主を交替させ、より生産性を上げうる事業主体の下で生産要素を再編すべきなのにできていない問題のこと)がほとんど何も解決していないことを思い知らされた。構造改革のための時間的猶予を与えてくれていた世界経済の好況が終わり輸出が急減した結果、日本の貿易黒字が激減している。貿易立国が難しくなる時代、日本は何で食べていくのかがはっきり問われている。これまでは技術というのがその回答だったが、アジア諸国が猛追してきている。地方経済の構造改革は、中小企業への公的な信用保証、地方銀行に対する資本注入で一段とモラル・ハザードを招くことになろう。総務省と地方公共団体は悪乗りをして、自治体の子会社を税金で救おうとしている。経営責任、株主責任、刑事責任はどこに行ったのか。経営の失敗を、公的資金注入や税金で賄うことに日本国民はもっと厳しく反応すべきだ。

米国や英国の公的資金投入は、もともと自由主義的な国での大きな損失に対する政府の援助なのであって、日本のように非常に政府の力の強い国での大きな損失に対する政府の援助とは、その性質を大いに異にする。変動好きの英米での政府活動の干渉、安定好きの日本での更なる政府の干渉のうち、より深刻なのは後者であろう。


(2008年12月8日脱稿)

 
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Mr. City:金融界で活躍する経済スペシャリスト。各国ビジネスマンとの交流を通して、世界の今を読み解く。
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