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Fri, 29 March 2024

第22回 Save our small shops

生活の質の向上とは

前回、他国による自国企業の買収に反対するフランスやイタリアなどの動きを取り上げた。この際グローバリゼーションを表裏なく主張できるのは、自給自足の大国である米国を除き、自国に先客万来でカネを落とさせ(ウィンブルドン方式)、また安定した外交力を持つ英国しかないことを説明したうえで、そうした英国人の生活の質は良いのかという問題提起をした。

生活の質は、主観的な要素が入るので質の高低を一つの基準で図ることは難しい。ただ消費者の立場から見ると、自分の好みに応じた商品やサービスを早く、安く、いつでも手に入れられるという選択肢(オプション)の拡大があれば利便性が向上するということは言えるであろう。

Save our small shops

先日の「イブニング・スタンダード」紙は、Save our small shopsというキャンペーンを張った。要するに、街の古き良き商店が例えばテスコなどに取って代わられ、便利だけれども風情のある凝った商品を買うことができなくなる状況が加速しており、小さな商店を守る運動をすべきだということである。

具体的には、政府がテスコなどの大資本による独占的な活動を制約し、小さな商店を保護すべきだということのようである。確かに夜中まで開いているテスコは世界中から安いものを大規模にしてさらに安く調達する一方、そうした調達になじまない、少量生産のチーズやちょっと凝った食糧などを置くことはない。
日常の買い物ではテスコは6時に閉まる肉屋、魚屋、八百屋よりも圧倒的に便利である一方、特定部位の肉や日本人なら好きな生魚などは買えないし、野菜の量買いも一般的でない。
肉屋、魚屋、八百屋は、テスコで買えるものをテスコほど安く、長い営業時間では供給できないため、テスコに売上を持っていかれる。結局、テスコとの競合品の多い店は、小さい資本ゆえにテスコ並みの商品をテスコと同様の値段で出せないから閉店となる。そういう店はテスコとの競合品に限っては、より非効率なのだから淘汰されて当然といえる。

一方で、よく街をみるとテスコでは買えない非常に良い肉や新鮮な野菜を売る店、ワイン店などテスコでは買えないもの、すなわち競合品の少ない店は生き残っている。とすると、日常の買い物では消費者は安く、長い時間買えるし、また特に良い肉や新鮮な野菜も別に買えるとすると生活の質は向上したと言える。

消費者の好みの画一化が問題

しかし、問題はその先にある。テスコでは買えないものを売っていた店もつぶれることがある。テスコでは買えない特定部位の肉や生魚の販売だけでは商売が成り立たないケースもあり得るということである。その場合には、最大公約数以外の嗜好品については選択の幅が減ったことになり、生活の質は低下する。テスコに慣れた消費者が自分の生活パターンを変えてしまい、精肉や生魚を買わず新鮮な野菜で料理することをやめてしまう。これはテスコの品揃えが消費者の好みを規定してしまう現象である。
こうした消費者の好みの画一化こそ真の問題ではないか。

この結果、好みを持つ消費者は、遠くの肉屋や魚屋まで出向くコストを負うことになり(在英邦人が刺身を買いに遠出するのと同じ)、これが不満のもとになる。ただ、こうした問題に対して政府が規制したり、小さな補助金を出したりして干渉するのはパターナリズムである。
同じことは、古典芸能など芸術の保護と技芸の保護、街並みなどにもいえ、これらについては一定の保護をすべきという社会のコンセンサスができつつあるように思うが、魚屋、肉屋、八百屋にはそこまでの理解がなく、結局、社会や個人の選択の問題になる。もちろんこうした店舗自身も文化だと考えれば、保護することになろう。しかし、より直接的な解決は消費者主権である。消費者が多様な好みを持てば、動画などのインターネットによる販売も商売として成り立つ(日本の生産者からの直送を見よ)。

どうすれば消費者が自分の好みをきっちり持てるか? スローフード運動に見られるように豊かな国の難問と言えるが、うまいものを食いたいという人間の欲求があれば問題はそう深刻ではないと思う一方、学校給食の貧困を見るにつけ、末恐ろしいとも思う。

ジェイミー・オリバーの慧眼こそ政府の課題であろう。

(2006年3月20日脱稿)

 
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Mr. City:金融界で活躍する経済スペシャリスト。各国ビジネスマンとの交流を通して、世界の今を読み解く。
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