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Fri, 18 October 2019

第104回 オバマと周小川の画期的な主張とG2時代の日本

オバマ大統領のプラハ演説

最近2つの画期的な主張が米中両大国からなされた。最大の経済問題は政治にあると昨年から主張してきたが、指導者、政治家の構想力というものが、いかに重要であるかを身にしみて感じた。

まず北朝鮮のミサイル発射で、日本政府が「誤報だ」「安保理決議だ」と目先の問題ばかりに追われていた4月5日に、プラハで行われたオバマ米大統領の演説だ。大統領は、選挙中から「核兵器の究極的な廃絶」を訴えてきたが、この演説では、包括的核実験禁止条約(CBRT)の批准作業や、兵器転用可能な核物質の生産を停止するカットオフ条約の発効を米国が主導して進めることなどの具体的な手順に言及した。さらに重要なことは、「(米国は)核を使用した唯一の核保有国として行動への道義的責任がある。核兵器のない世界に向け、具体的な方策を取る」と米国の決意を述べたことだ。

イランに核開発の放棄を迫りながら実質的な核保有国であるイスラエルに言及していない、対立する中印両国は簡単には同意しまい、北朝鮮も簡単に核カードを捨てまいなどの問題点は数多くある。だが、ブッシュ時代からの政策転換の意義は大きい。平和や安全保障なくして経済活動はあり得ない。金融危機はオバマ大統領に内政上の困難を強いているが、大統領は筆者の予想を裏切り、大票田デトロイトにおける労働者の年金カットを必要とする、大手自動車会社ゼネラル・モーターズへの破産法チャプター11の適用にも言及し始めている。彼のぶれない姿、原則を貫こうという姿勢こそ市場や市民が評価するものだ。政治的一貫性は経済取引に予測可能性を与える上、オバマ大統領の平和志向、弱者の痛みを何とかしたいという思いは、世界をより安定的な方向へ導くので大きな経済厚生になる。長い目で見たこうした政治の構想力こそ、世界経済にとって最も必要なものだ。


周総裁の国際通貨制度改革論

中国の中央銀行である中国人民銀行の周総裁は3月23日、HPに「国際通貨制度の改革」と題した論文を載せた。要約すると、国際的な取引の決済や外貨準備に使われる基軸通貨が、一国の通貨であると(暗にドルを指す)、その国の経済の信用がなくなった際に国際的な通貨供給が絞られ、安定しない。望ましい基軸通貨は、国際通貨基金(IMF)に各国が資金をプールし、その資金を見合いにIMFが発行するSDR(特別引出権)だとして、暗に基軸通貨をドルから通貨バスケットのようなものに移行すべきと主張した。

この主張はドル供給が貿易赤字の対価としてなされるのみであれば正しいが、実際は資本取引の対価としても行われているという意味で正しくない。現に昨年来、欧州での金融取引に使う極端なドル不足に際し、米国の中央銀行である連邦準備制度(FRB)が、イングランド銀行や欧州中央銀行などにドルを貸し出すことで、現在でも外国貿易にかかる資金決済の9割を占めるドルの当面の決済が出来たからだ。もっとも貿易赤字を永久に続かせることはできないとなると、長期では人々がドルを持つのを嫌がることになるので資本取引も成立せず、周論文の予測する世界が来る可能性もないとは言い切れない。結局これは米国の経済力と軍事力がどれだけ続くのか、という強烈な問題提起だ。また中国は日本と経済的に対等になれるとみて、アジア通貨の研究に怠りないとも言われる。これも米国と方向は違うが、大きな構想力と言える。


G2時代と日本

米中は、安全保障と政治問題をも対象に加えて、過去5回続いた「米中経済戦略会議」を格上げすることに合意した。世界は、第二次大戦直後以来久しぶりに、政治や中央銀行が国際的な構想を語り、それを実現していく時代になっている。

日本が経済力で世界2位の地位を維持するのはもはや難しい。財務省や日銀は、政治に遠慮してか、構想を語らない。政治家は構想を立てる以前の状態にある。日本は埋没しかねない。だが、米国や中国が現時点で十分でないのは、構想を実現するための技術、インフラ整備であろう。ここに日本の強みがある。

日本は構想を語りつつ、インフラ面でヘゲモニーを確立したい。非核構想は広島や長崎の人が長く語ってきたことだし、憲法第9条はそれ以上の構想だ。金融においては東京市場にロンドンのような先進性はないが、資金決済や債券決済の効率性がこれほど高い国はない。ただ英語での取引が十分ではないというところが欠点だ。政治家、官民が世界で語るべき構想はまだまだあると思う。


(2009年4月6日脱稿)

 
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Mr. City:金融界で活躍する経済スペシャリスト。各国ビジネスマンとの交流を通して、世界の今を読み解く。
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