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Tue, 10 December 2019

第135回 菅・ブレア氏の現実路線 その2

ブレア氏の対米追従路線

前回述べたように、ブレア元首相の経済政策は、サッチャー政権の余得の活用という面が強く、「第三の道」も成果が明確でないままに終わった。経済が好調なうちは高い評価を受けていたが、それも結局バブルだったから、という見方が増える中で、ブラウン政権は倒れ、キャメロン氏は全面的な見直しに入っている。具体的には、緊縮財政、消費税増税、イングランド銀行の銀行監督権限の回復などである。

経済面では、英国、ロンドンが過去10年くらいに謳歌した好景気を国民にもたらしたという点で、マイナス点ばかりではないと見る向きも多い。しかし、当時から外交面では強い批判があった。それは、何といってもブッシュ政権への無条件追従である。ブッシュ政権がフセイン元イラク大統領を捕まえ、裁判にかけた後で、戦争の大義となっていた大量破壊兵器がなかったことが判明し、ブレア氏が議会で大批判を浴びたことは記憶に新しい。

しかし言語明晰で、頭も良く、北アイルランド和平を粘り強く実現したブレア氏が、なぜやや狂信的なブッシュの米国に対してだけ明確な意見を言わなかったのか疑問が残る。小生の見方を言えば、言語明晰で頭が良く、理性判断に則った現実路線主義者だったからというのがその答えである。「ガリア戦記」を読むと、カエサルは、ブリトン人は小賢しく、ローマが強いとみると擦り寄り、弱いとみると他の民族と組んでローマを攻めてくる、ちょろちょろした人々といったことを書いている。昔から英国人は、勝ち馬に乗っていく民族なのかもしれない。この点は過去2回の世界大戦でも証明済みであるし、対EUでも英国は自国経済が弱いときに擦り寄り、強いときには冷淡である。キャメロン氏も相対的に大陸経済が弱っている今だからこそ、先週のEUとの対談でも強気であった。

ソ連崩壊後、米国は世界で唯一の超大国になった。ブレア氏は頭が良いので、米国=勝ち馬と考えることになる。どうせ勝ち馬に乗るなら、早く無条件な支持が感謝される。この現実追認路線が、ブレア氏の発想だったのだろう。

もう一歩先の想像力

勝ち馬に乗るという考え。これは自らの立身出世と関係するが、政治家としての志とはなりえないものではなかろうか。志は、現実を変える、そして突破する力と考える。確かにテロは無条件に批判されるべき行為である。ロンドンでのテロのときもそう感じた。ただこの場合、なぜテロが起こるのかという問題を掘り下げる、想像することが突破する力となろう。ブッシュ政権にはそれが欠如していたし、ブレア氏にもなぜか対米政策についてだけは欠如していた。そうした処方のない軍事行動が、アフガン、イラクで問題解決が長引き、テロの脅威もなくならない、という結果を招いたのではないか。

テロの問題の根には、貧困がある。貧困を自分の問題として引き受けていくには、やはり経験と年期が必要なのではないか。ここでは政治家の育ち方ということが関係しているように感じる。キャメロン氏にも言えるが、若年で政治家になる場合の、言語明晰か否かという次元とは別次元の志こそ、困難の時代には要請されるものである。

菅氏のリスク

同じリスクを、日本の菅首相に対しても強く感じる。仙石官房長官が、「(彼には目立ちたい、総理になりたいという)私利はあるが、(自分の財産を増やすという)私欲はない。前者はあるが、後者はないのでいいではないか」と言ったとの新聞報道を読むにつけ、退任後に私欲も出たブレア氏との類似性を感じる。対米、対中、いずれも慎重な対応だが、この2国のいずれかが勝ち馬と解れば、躊躇なくそれに乗るであろう。ブレア信奉者というのも肯ける。成功しているときのブレア氏は、かっこいいからである。

菅氏の現在のポジションは、消費税増税である。財政再建のため、ギリシャの轍を踏まないため、そしてその論点をめぐって選挙を堂々戦うということが、かっこいいからであろう。だが、財政再建ということについて、議論が十分ではない。財政再建は抽象的なものではなく、支出をどう使うか、これまでの使い方でいいのかどうか、という議論だったはずである。財政再建は結果であって、目的ではない。どう税金を使うのかの議論=志の議論が欠けている。

普天間基地問題で対米合意を遵守する、沖縄で謝る、難しい問題解決を先送る。勝てるポイントだけで勝とうとする、これでは国民の信はいずれ離れていこう。

(2010年6月24日脱稿)

 
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Mr. City:金融界で活躍する経済スペシャリスト。各国ビジネスマンとの交流を通して、世界の今を読み解く。
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