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Mon, 09 December 2019

第136回 北朝鮮の転換と中国の野心

金正日氏の北京訪問

本欄の第128回「北朝鮮、体制崩壊の足音」(4月8日)で、昨年のデノミ失敗をきっかけとして、北朝鮮は体制崩壊過程に入ったのではないか、国民の不満を逸らすために対外的に冒険に出るリスクがある、と書いた。その後、4月上旬に予定されていた金正日総書記の訪中が延期され、4月22日には、「北朝鮮の魚雷攻撃が原因で韓国の哨戒鑑が沈没し、46人の兵士が死亡した」と韓国政府が報じた。5月8日には金総書記が陸路北京を訪問し、中国首脳と会談をしている。この段階で筆者は、やはり北朝鮮は経済が苦しいために冒険的な行動に出て、韓国や日米を挑発し、その後始末を中国に泣き付きに行ったのだと解釈した。

しかし最近、金総書記の北京訪問はそういう一面もあるが、もっと深い意味もあると考え方を変えた。それは羅津という、日本海に面した北朝鮮の港の埠頭を中国とロシアが相次いで借りたこと、北朝鮮が中国人観光客へのビザ発給を大幅に緩和したことを知ったためである。中国が北朝鮮に対して無料で供与するのは、これまでエネルギーと食料に限っていた。言い換えれば、技術援助や開発援助などは基本的には行ってこなかった。中国自身の経済で手一杯だったということもあろうし、北朝鮮のような冒険的な国家への過度なコミットは、国際社会から批判を浴びる可能性があると思っていたからであろう。

金総書記は、胡錦涛氏や温家宝氏に、デノミによる経済の混乱に対して助けてくれるよう頼んだであろう。再来年は、故金日成主席の生誕100年になる。この時までに、経済面で一流の国にならなければ、政権自体への不満も高まり、息子への権力委譲もうまくいかないと考えられる。金総書記のできることは、中国頼みしかない。

以下は想像に過ぎないが、中国首脳はどのように考えたであろう。これまで北朝鮮は、自国内での他国の経済開発については、主に韓国にしか認めてこなかった。観光客の受け入れも然りである。その北朝鮮が助けを求めている。一方、欧米の景気が芳しくない中、中国企業は内需にその売込み先を求めているが、それだけでは利益が今一つである。朝鮮半島は長らく冊封体制の下で、中国の王朝に朝貢していた。今や中国は米国と並ぶ世界第一の政治経済大国になった。中華思想が頭をもたげるとともに、朝鮮半島、特に北側のレアメタル、石炭などの資源を韓国ばかりに独占させることは適当でない。まして日米には関与させたくない。今の間に中国から大量のヒト、モノ、カネを送り込もうと考えたのではないか。

中国の羅津港埠頭の借款、東シナ海側にある北朝鮮との国境の港である丹東港、北京から両方の港をつなぐ鉄道敷設の計画があるという。中国は東北3省の開発を急いでおり、大連とハルピンの間に第二鉄道=新幹線を通す計画である。それと羅津や丹東を結ぶ鉄道ができれば、北東アジアには大きな経済圏ができる。そのため、北朝鮮の経済に積極的に関与し、北朝鮮から港や土地を借り、観光客も含めてヒトを送り込むことを約束した可能性がある。いつも同じ絶叫調なので違いが分かりにくいが、平壌放送は、今回の中国訪問で北朝鮮が「歴史的な成功を得た」と述べたという。その意味するところは、中国からの経済開発へのコミットメントだったのではないか。北朝鮮では、軍関係ではなく古参の地方経済を知る幹部が復活した人事も行われた。また、開発反対強硬派が交通事故に遭っている。

日本海波高し

北朝鮮は、9月には労働者党代表者会を開き、金総書記から後継者への権力委譲を開始する可能性がある。したたかなのは、羅津の港をロシアには50年、中国には10年しか貸していないことだ。つまり、極めて功利的に両者のバランスを取っているのである。ロシアは、ウラジオストックより南に、日本海へと出る不凍港がどうしても欲しい。このためイルクーツクあたりからシベリア鉄道の南線を通す計画もあるという。これは貿易のためだが、軍事目的にもなりうることは言うまでもない。

北朝鮮の貿易相手国は、以前は日本、韓国、中国で三分していたのに、現在は制裁発動により日本はほぼゼロになっている。朝鮮半島北部の開発は今後、中国企業の手によりどんどん成されるであろう。そうなった時に北朝鮮の体制はどうなるのか。ソフト・ランディング、中国型の改革開放政策もまったくあり得ないとは言いがたい。日本の立ち位置はどこに置くべきか。普天間問題も、こういう位相を含めて考えることが必要ではないか。次回は、こうした清濁併せ飲むということを考えてみたい。

(2010年6月29日脱稿)

 
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Mr. City:金融界で活躍する経済スペシャリスト。各国ビジネスマンとの交流を通して、世界の今を読み解く。
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