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Thu, 12 December 2019

第138回 好調ドイツ経済と沈むユーロ

ドイツの輸出競争力

ユーロ安を背景にドイツ経済が復調し、輸出ラッシュに沸いている。金融危機の引き金となったリーマン・ショックの後、日本同様にドイツ製造業の売上げは大幅に減少したが、米国の消費や中国を始めとする新興国による需要の回復を受け、今年初めから受注が急増し、在庫の積極的な積み増しが始まった。

ドイツの産業で最も競争力を有するのは、日本と似ていて、機械設備などに関わる中小企業メーカーである。新興国は、安い人件費を武器に安価なもの作りをしてきたが、資本の蓄積が進むと高度な製品を作りたくなる。その際に重要なのは、製造設備への投資である。韓国、台湾、マレーシアといった国々での半導体の製造、中国での各種部品の組み立てや化学製品プラントの運営などには、いずれも製造設備が不可欠である。こうした製造設備を生産、輸出できる国は世界でもまだ少ない。英米は分野によっては競争力を持っているが、しかし何といっても日本とドイツが強い。そのほかにはスイス、フランスにも、小さいが世界シェアを取るメーカーが存在する程度である。

そこへ、ギリシャ国債価格が下落し、つれてユーロが大幅に安くなった。製造設備という、元から輸出競争力のある製品が、為替により一段と安くなることで、ドイツの輸出競争力は格段に上昇した。日本メーカーにとって、ユーロ安は大きな脅威となっている。もちろん、ドイツの生産増大は、日本の資本財のドイツ向け受注の拡大に拍車をかけている面もあり、脅威ばかりではないのだが。

ドイツ頼みとユーロ安

住宅投資や消費など個人に関わる部分では、ドイツ経済も完全に復調したとは言えない。しかしながら、失業率は7%台半ばまで低下し、新規採用も増えている。輸出企業はリーマン・ショック以前のレベルを超えた生産を続けているほか、設備投資も2年前の水準まで戻りつつある。各先進国の政府が財政緊縮を打ち出す非常に厳しい状況の下、ユーロ圏全体での経済の回復は、ドイツの輸出拡大にかかっていると言っても言い過ぎではないであろう。

もともとドイツの製造業に競争力があるとはいえ、移民増加により国内の労働者全体の2割を占める低賃金労働者とユーロ安がその競争力をかさ上げしていることは否定できない。しかしユーロ安は輸入物価の上昇を生み、低賃金労働者の生活を圧迫する。また中国製品などに依存している他の欧州各国は今後、財政緊縮で景気は悪い上に、物価は輸入物価を通じて上昇するというスタグフレーションに直面するであろう。欧州中央銀行は景気重視でゼロに近い金利を続けるのか、物価重視で金利を引き上げるのか、難しい判断を迫られる。財政の出動余地が限られているだけに、政治的な問題にもなりかねない。

金利を引き上げなければ、物価は上昇することになる。輸出で潤うドイツの一般的な労働者はともかく、同国の低賃金労働者や南欧諸国の庶民の暮らしは一段と苦しくなるであろう。移民がドイツで暮らせなくなったときに、ドイツの競争力はどうなるのか。移民政策は、緩和を余儀なくされるのではないか。

ユーロの最適通貨圏議論再び

さらにドイツ以外の各国では、ユーロにとどまるべきか否か、という議論が各国でまた広がることが確実だ。現在のところは、経済力を持つ加盟国に財政規律を守らせ、守れないならユーロ圏から出て行ってもらうというのが総意となっている。しかしユーロ安が進むと財政規律を守ることができなくなり、ユーロを出ようという動きにつながることになる。

そうなると、ユーロは果たしてどこまでの範囲内で通用させるべきかという、通貨圏の妥当性の議論に戻る。経済的に同質ではない異なる地域に同一の通貨を流通させるためには、①労働力の移動が自由、②賃金が伸縮的である、③財政を通じた所得移転が可能、という3条件が必要なのだが、③が難題である。

結局、黒字国のドイツ、ほかにはせいぜいフランスが、自国の豊かさをどの程度、他国に気前よく分配できるかどうか。それがユーロの通貨圏の広狭を決める決定的な要因であり、それは独仏国民の許容度、懐の深さに依存する。政治的には、東欧も加盟することで、ドイツは東欧、フランスは南欧という役割分担ができれば、共に大きなフロンティアを持つという点で両国にとってのメリットは大きく、このリスクを取るかどうか注目したい。

(2010年8月5日脱稿)

 
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Mr. City:金融界で活躍する経済スペシャリスト。各国ビジネスマンとの交流を通して、世界の今を読み解く。
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