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Wed, 11 December 2019

第148回 2011年「日本病」を排す

あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。

これから2、3年の日本経済の状況

日本経済は、一昨年のサブプライム問題、リーマン・ショック後に続いた世界経済の冷え込みからの急回復が一段落してきた。今年はダイナミックな景気回復は望めず、回復は極々緩やかなものとなるだろう。その理由の第一は、先進国経済の停滞だ。米国の不良債権処理は、日本も経験したようにその規模の大きさからもたつき、また過剰消費への反動から、米国の消費は極めて緩慢な回復しか望めない。長期失業者の増大はかつてない程で、その原因については米国内でも様々な解釈がなされているが定説はない。筆者は消費が伸びないのを見て取った企業経営者の国内需要に対する慎重な見方が、固定抑制すなわち雇用の抑制に繋がっているのだと思う。

このため米国の金融緩和は続き、日本も緩和継続だと日米金利差がゼロなのでドルを買う理由はなく、円高基調は容易に変わるとは思えない。一方の欧州は、南欧、特にスペインの不良債権問題に焦点が当たり、ユーロという枠組み自体をめぐる議論が盛んになると予想され、経済の浮揚は期待できない。先進国の牛歩に対し、中国を中心とするアジアやインド、南米などは高成長を遂げるだろう。それを見込んで先進国の金融緩和によって生まれたマネーは原油や食料などの資源や資源国通貨、新興国不動産、経済牛歩と対照的に先進国不動産へと流れ込んでいる。いずれもバブルの可能性があり、特に中国の不動産市況は要注意である。

日本経済の回復が極めて緩慢と予想する第二の理由は、人口減少下での内需の停滞である。この2、3年で日本の大企業は海外展開を加速させる一方、国内向け投資は相対的にマイルドなものになる。企業は損益分岐点を下げようと人件費、交際費を抑制し、その結果、卸小売、流通、サービス、建設など内需産業はM & Aが進み、中小企業は海外に出るかどうか、出ないなら内需をどう開拓するか、廃業も選択肢に含めた生き残りのための模索が始まっている。

凪の後はどうなるか

2、3年後、「凪」が終わり、経済の状況が変化することが予想される。米国民の過剰消費の是正は貯蓄を引き上げ、この貯蓄が設備投資に回ると、もとよりイノベーションを起こす潜在力が世界で最も大きい米国の産業競争力は、急回復するに違いない。日本の経済的なリードはどんどん小さくなっており、さらには高齢化で日本人が貯蓄を取り崩すので日米貯蓄率が逆転し、ついには日本が貿易赤字に転化すると、円安、輸入物価高、金利反転も考えられる。すると企業の原材料費負担や金利負担などの上昇が予想され、企業、そして表裏一体の金融機関も生き残れるかどうか、優勝劣敗がついてくる。

一方で、政治行政も転機を迎える。2012年からは07年の大量退職者の年金受給が始まり、日本国内は15歳から65歳までの生産年齢人口がこの数年で急激に減少する。高齢化社会が進み、行政コストが高まり、いよいよ税制、年金その他各種制度の連続的な見直しが不可避になるだろうが、金利が上がり国債発行に大きな圧力がかかると、誰の目にも財政の困難、年金介護制度の改革に伴う痛みが可視化され、政治的混乱に陥りかねない。戦前はこうした状況で政党が信頼を失い、消去法で軍部が人気を取り台頭した。だからこそ、そうならぬように、「凪」が終わるときに備えて、今、具体的な準備を始めるべきだろう。日本は英国病を他山の石として、「日本病」を防げるかどうか。

日本病を排す

大企業が海外の生産を強化する中で、中小企業はどうしたら生き残ることができるか。生産や売上が減るときには固定費比率が上昇するので、今はリスクを取らずにじっとコストを抑えるというのも一つの方法である。本当にその設備や機能は必要なのかどうかを見極めるには、自社の強み弱みを従業員や金融機関と徹底的に議論して決断し、彼らを説得するプロセスが不可欠だ。キーワードは共感であり、コミュニケーションであろう。金融機関と企業との間にも同じことが言えるし、企業と政府の間にも言える。政府にとっては、人口減少下で社会制度を総点検し、その情報を公開し、政策の選択肢を示すときだ。国家社会主義、日本株式会社的な成長戦略は危うい。過当競争を排除するため資源を不採算企業から採算企業に移し、できる中小企業経営者が市民ニーズにあった商品やサービスの供給を可能とするための取引法や独占禁止法レベルまで踏み込んだ制度改正や規制緩和が望まれる。

さらに喫緊の課題は、高齢化で発言権が相対的に小さい若者、年少者との対話であろう。若年の非正規雇用者の雇用確保や教育訓練は、確実に失業者を減らすためにぜひとも必要である。日本病を排する結論に、ウルトラCはなく、「自分の身近な人と徹底的に議論して、自分で考えるという作業を日本人皆が行い、考えたことを行動に移す。そして、そういう人の足を引っ張らない」という当たり前のことしかない。実行するための鍵は、我々日本人に染み付いた「お上頼みの根性」――中央頼み、大企業頼み、さらには米国頼み――と「人間を官、大企業、東京、米欧への距離の序列で見る感覚」を払拭し、徹底的な議論とそれによって生まれる共感=地域のコミュニティー感覚を復権させることではないか。

(2010年12月10日)

 
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Mr. City:金融界で活躍する経済スペシャリスト。各国ビジネスマンとの交流を通して、世界の今を読み解く。
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