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Mon, 09 December 2019

第149回 原油、石炭、小麦高騰の年

原油価格と金融緩和

下のグラフは、英国内のガソリンと家庭用ヒート・オイル(灯油)を含む石油価格の推移だ。ポンドが安いという影響もあるが、3年前の夏のピークを超えるレベルまで価格が上がっている。電気料金などへの反映は必至であり、VAT引き上げともあいまって、英国の物価には強い上昇圧力がかかっている。イングランド銀行のビーン副総裁はこの点に関して、インフレについては世界的な供給余力(供給能力=需要)が大きいから当面は心配ない、最近の穀物価格上昇はもっぱら、例えばロシアの干ばつなどの供給サイドにおける一時的な要因に過ぎないと、わりと楽観的な見方を最近の講演で述べている。

ガソリン・灯油を含む石油価格

もちろん、中国を始めとする新興国の内需が拡大していることが、実需面で大きな影響を与えていることは言うまでもない。しかし、昨年来の原油価格の上昇はそれ以上に急ピッチであり、ヘッジファンドなどからの商品先物市場への資金流入が増えていることを考え合わせると、やはり金融緩和の影響があると言わざるを得まい。中央銀行のエコノミストたちは、値上がり期待による在庫積み増しや仮需がいずれ剥落(はくらく)するものと楽観的だが、金融面のファイナンスが付くと、3年前のように価格が高騰する可能性があることを過小に評価していないか。また金融相場であるとの認識がないことにも違和感がある。

バーナンキ米連邦準備理事会議長は、原油など資源価格の上昇は先進国の金融緩和と関係ないと言うが、到底信じることはできない。金融緩和を続けているということや、続くと予想させていること自体が、資源への投資に安心感を与えていることは市場では常識である。こうした常識が長続きすると、ある日価格が急騰し、バブルとなって、その価格は急落する。そして、そのこと自体が実体経済へのノイズになる。サブプライム・ローン問題を経てきているというのに、金融が実体経済を振り回すという害悪への問題認識や処方箋がないとは、呆れ返ってしまう。

原油価格上昇の影響

原油価格が上昇すると、物価全般の一段の上昇が予想される。エネルギー価格の上昇は広範な影響があるので、価格の転嫁は比較的理解されやすい。問題は消費者にも転嫁されて消費者物価が上がるのか、流通段階などで吸収されて卸売物価上昇にとどまるのか。この点は、国の経済構造によって差が出ると思われる。

英国のように、自由競争が落ち着き、既に産業内での競争が盛んでなくなっている国では、容易に消費者に転嫁が図られやすい。一方、日本のように自由競争がある程度はあり、しかも不採算企業が温存されている国では、企業同士が寡占状態になっても赤字覚悟で消耗戦を行うことで、消費者物価には相対的に小さな影響しか出ないことも考えられる。もちろん競争が一段落したところでは、英国のように寡占企業が価格支配を強め、値上がり額を丸々消費者に転嫁することもある。英国在住者にとって今年は、経済復調の兆しを感じられないまま、物価上昇の影響を受ける年になるのではないか。

金融政策の限界と金融不信

それにしても、サブプライム問題以降、金融が実体経済を振り回すということに対する企業家の懸念や怒りがかなり大きなものになっていると感じる。ロンドンの外国為替市場も、自由な競争があるようでいて、大手インベストメント・バンクが寡占的になっている。ほとんどの金融機関や企業は、そうした大手の一次プレイヤーの客である二次プレイヤーに過ぎない。

中央銀行や各国当局は、介入や為替相場への批判をするくらいなら、王道である経済を立て直すことに注力すべきだし、さらには市場の寡占構造に、国内はもとより、国際金融市場でメスを入れるような政策こそ望まれるのではないか。プレイヤーが多ければ、少数者の投機的な動きはいろいろな方向の取引により裁定され、価格が安定すると思われる。そうしたことを考えていない金融当局は、いずれスポイルされるのではないか。

(2011年1月12日脱稿)

 
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Mr. City:金融界で活躍する経済スペシャリスト。各国ビジネスマンとの交流を通して、世界の今を読み解く。
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